到着
着いた街は海も山もある、別荘地としても名の上がる土地だった
「ここは王兄殿下のおられる土地だ…」
王都から七日。
大きい街で休むたび父のストウルはエミリアに、この街ならこうでああで…と知っている限りの明るい情報を提供してくれた
「もともとのどかな別荘地だったが…王兄殿下が移られてからは、とても華やかな街になった」
ストウルは、この街ならいいのに…といった顔で、馬車から賑やかな街を眺めた
エミリアも美しい生成り色の漆喰とカラフルな屋根が並ぶ街並みを眺めた
昼どきだからか、たくさんの屋台が並んだ広場が少し奥に見える
エミリアの行き先は、ストウルも知らないらしい
「きっと良いところだ、エミリアを驚かせたいんだろう」
何度もそう言われたが、果たしてどうだろう?
エミリアはパーティーで踊った彼を思い出してみる
過剰なまでに包帯で巻かれた顔、そこから僅かに黒髪と、影になって色の分からない瞳…
ただ1曲だけ踊って、そのあとはただただ急かされてここまで来た
知っているのは、あの顔とスタンリーという名前だけ…
「エミリア、ルクスのことは好きか?」
父のストウルは一度だけ、エミリアにそう確認を取り、あとは何も言わなかった
そのルクスとも、もう今は連絡が取れない
馬車は街をゆっくりと進んで、少し高いところにあるお屋敷の前で止まった
宿ではなく、お屋敷…
エミリアは、どうやらここが終着点なのだと理解した
小高い丘の中腹辺りにある比翼の建物
緩やかに続く坂には、同じような建物が木々と塀に囲まれて段々と続いている
丸い花壇のあるロータリーを回り、馬車は屋敷の前に付けられた
屋敷の前では、男性と女性とが頭を下げて出迎えてくれる
男性は半分ほど白くなった髪を撫で付け眼鏡を掛けており、女性は明るい茶色の髪を低くお団子にしていた
2人はエミリアとストウルが馬車を降りるのを手伝ってから、執事のサミュエルとメイド長のフローラだと名乗った
2人は「ようこそおいで下さいました」と、輝くような笑顔で言う
そしてサミュエルは左、フローラは右の扉を開けてエミリアとストウルを部屋に案内しますと告げた
扉を開けると、左右にずらりと使用人が並んでいる
「あとで纏めてご紹介します。取り急ぎ荷物を運んでもらいます」
フローラがそう言うのでエミリアは頷いた