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ファントム  作者: かな
本章
14/39

それから

それからエミリアとルクスは何度も手紙を交わした


ルクスは昔住んでいた家が焼けてから、父とは離れて暮らしている


最初は隣国に嫁いだおばさんの家、学校に入ってからは寮、騎士となってからは宿舎で、新しい家には一度も帰っていないという


あれからエミリアは18になり、本格的に社交界に出入りするようになっており、ルクスは騎士科を卒業し国境沿いの騎士団に正式配属されていた


しかし2人はお互いの近況を知らせてはいたものの、婚約者というわけでもない


エミリアと父に宛てて縁談の話も来ており、エミリアもいつまでもこのままではいけないな…と思っていた


そんな中、珍しくエミリアは父とともに兵士の慰労パーティーに呼ばれた


「絶対に出るように」


父はわざわざそう言って招待状を手渡してきた


エミリアはなぜそこまで…と思ったが、すぐに納得した


パーティーでは功労者である騎士と、未婚のご令嬢がファーストダンスを踊る


騎士の中には、まれに目を背けたくなるような傷がある人もいるのだ


そして「絶対に出るように」と言われたパーティーには、顔中を包帯でぐるぐる巻きにした兵士が功労者として評されていた


国境警備の際、大砲が暴発したのだそうだ


一命を取り留め今は傷も癒えてはいるが、人前に出られる顔ではないと常に包帯を巻いているのだと、わざわざ説明がある


そしてファーストダンス


父は当たり前のように、エミリアの背を押した


パーティーから更に数カ月


エミリアは、王都にある自宅で荷物を纏めていた


行き先は南東にある国境沿いだが、詳しくは分からない


エミリアは最小限の荷物を持って、でもお気に入りはすべて持って屋敷を出る


使用人はみな俯いて、エミリアを見送った


「では行ってくる」


道中付き添ってくれる父が、エミリアの代わりに声を発した


エミリアは“かわいそう”なのだろう


慰労パーティーで踊った包帯の兵士


彼に気に入られ、報奨として嫁ぐ


住み慣れた都会を離れて田舎へ行く


それも数カ月手紙をやり取りしただけで、馴染みの使用人も連れていかない


あのお屋敷の人たちが亡くなったときのように、エミリアの周りはヒソヒソと噂や同情が飛び交った


エミリアはただ淡々と手紙をやり取りし、一切の不満を口にせず屋敷を後にした


「何の心配もいりませんわ、お父さま」


馬車に乗り込んだエミリアは、お行儀悪く窓枠に腕を乗せ、頬杖を付いて言い放つ


エミリアの母は部屋に閉じこもり、見送りにも来なかった


父は向かいに座るとエミリアの肘を降ろさせてから、出発するよう御者に命じた

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