双子
昔昔その昔、王には双子の弟たちがいた
1人は武に秀で武官として、1人は賢く文官として国を支えたが…
彼らは2人でいれば王はいらない、と王を弑逆しようとし、あわやのところで妃殿下が身を挺して王を庇った
双子は遠く国の端と端とで幽閉され、幽閉されたまま生涯を終えた
双子は忌むべきもの
彼らは国に仇なす存在
双子は離して育て、けして会わせてはいけない
「あれ、こんなところにいたのね!」
とび色の髪をした、まだ幼い少女がひょっこりと廊下から顔を覗かせる
彼女はエミリア、歳は9つ。薄茶の瞳をキラキラさせて、ケープのついたフリルたっぷりの可愛らしい服を着ている
話しかけられたのは、折れた廊下の先にいた黒い髪の男の子
このお屋敷の息子で、白いフリルタイのついたブラウスに黒いベストとズボンを履いている
エミリアは父の用事と一緒にお屋敷に来て、かくれんぼをしていたのだ
彼は少々くせのあるハネた髪が顔を覆うようにかかり、エミリアにたじろいで後ずさっている
「ねぇルクス。かくれんぼなんだから、ちゃんと隠れてちょうだい」
エミリアがちょっとむくれたように言うと、ルクスはすぐに踵を返して逃げ出した
「探すのがはやかったのかしら?」
エミリアはもう少し待ってから、と、ルクスが逃げたのとは反対の廊下をゆっくりと歩き出した
「エミリア!」
けれど、すぐに呼び止められて振り返る
「ルクス?」
そこには先ほど逃げたはずのルクスが、走ってきたのか、頬を紅潮させて立っていた
先ほどとは違い、髪は右側に流されて琥珀色の瞳が見えている
「かくれんぼ、は…おしまい。おじさまが帰られるよ」
エミリアはそんなルクスを、まじまじと見やった
ルクスは仰け反りそうになりながらも、じっとエミリアを見返した
「不思議ね」と、エミリアは呟く
けれど「何が?」と尋ねるルクスに、「ううん」と首を振る
「行かなきゃ、だ」
ルクスがエミリアの手を取ると、エミリアは「ふふふ…」と嬉しそうに笑う
「もっと遊べたらいいのにな」
「うちはお母さまのお身体がまだ良くないから…」
エミリアは父に付いて、たびたびお屋敷に遊びに来ている
ルクスもルクスの父も、身体の弱い奥さまを案じてあまり屋敷からは離れない
そのため父もエミリアも、時々屋敷を訪れているのだった