激怒
やっとやっとで一話かけました、納得いく文章なかなかできず苦戦した
「はぁ・・・セロトニンが足りないなぁ」
教室の隅、いつも通りの席で開けた窓から外を眺める。
憂鬱な朝は窓を開けて日光を浴びるに限る。
日光を浴びることで分泌されるセロトニンはうつ病に効果があるといわれている、のだが・・・
まったく気分が明るくならない!!
当然のことながら昨日彼女にフラれた傷はそうそう回復しない。
昨日の夜は結局泣き疲れて寝てしまったし・・・
はぁ・・・思い出すだけで心がやみそうだ。
ともかく気を紛らわすもの・・・新しい小説でも書こう。
ちなみに彼女に見せようとした小説はさらなる不幸を呼び込みそうなので封印した。
あれは俺の黒歴史の一ページとして墓まで持っていこう。
あの小説のせいだ、そうに違いない。
俺も高校生、なにかと責任を自分以外に押し付けたいお年頃だ。
フフフーン、フフフ―フフフーン。
お気に入りの音楽を聴きながら運動部が練習に励むグラウンドを眺める。
次回作の主人公は運動部にでもしようかな・・・
陸上部、水泳部、テニス部、野球b―
「よっすエータ、なーに聞いてんの?」
突然左耳のイヤホンが奪われる。
「うっわ、またヘヴィメタルかよ。なんだっけ・・・・フリップボード?」
「・・・スリップノットな」
いつも通りのコメント(コント?)
「あ~結構惜しかったな」
「なにも惜しくないだろ・・・」
「にしても朝からヘヴィメタなんて変わった趣味してるよな」
「朝から友達のイヤホン取って勝手に聞くのもどうかと思うけどな」
「まぁそういうなよな~」
そういいながらもイヤホンを離さないこの男は高山慎吾、俺の友人のうち唯一の運動部だ。
まぁ運動部といえるのかは怪しいところはある、例えば―
「それで、あそこで朝練やってる陸上部のお前が何でここにいるんだよ」
「・・・い、いや~俺は今日非番なんだよ」
「へぇ朝練に非番なんてあるのか、よしちょっと聞いてくるかな」
「待てエータ、話をしようじゃないか」
こういうところだ。
こいつは陸上部のくせに走るのが嫌いという変な奴だ。
本人いわく、『陸上部の肩書はモテる、走るか走らないかは関係ない』らしい。
それは一生懸命走ってるやつの話じゃないのか?
などという都合の悪い質問はこいつの耳は届かない。
この開き直り方、見習いたくはないが尊敬はしている。
「・・・いや待て、そもそもお前に陸上部の知り合いなんていねぇじゃねぇか」
「・・・・・」
「ってかそれ以前に運動部に話しかける度胸なんてないだろ!」
ちっ気づきやがったか。
「・・・君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
「ニーナとアレキサンダー、どこいった?」
「人語を理解する合成獣作ってんじゃねぇよ!」
「君の手で~」
「名曲持ち出してんじゃねぇよ!!」
見た目と持ちネタのギャップもこいつの面白いところだ。
明らかに陽キャの風格を持ちながら陰キャのノリも持ち合わせている。
つまりどちらとも仲良くなれるこいつはうちのクラスの心臓的な立ち位置なのだ。
クラス全員と仲が良く顔が広い、まさにラノベにいそうな万能キャラ。
ただ本人曰く陽と陰でいうと少し陰寄りに属しているため、陽キャすぎる奴らとは微妙に馬が合わないらしい。
まぁ陰に極振りしてる俺からすればそれでも十分にすごいことではあるが。
「ところでエータ、お前って生徒会長に興味ないのか?」
「生徒会長?」
「ほら、もうすぐ立候補の日だろ?」
「あぁそういえばそうだな」
「お前昔生徒会長になりたいって言ってたじゃん」
こんな俺が生徒会長になりたがっている、そう聞いて一度で納得できる奴は何人いるだろうか。
でもこいつの言うことは本当だ。
そもそも、俺は元から教室ですみっこぐらしを楽しむ陰キャだったわけじゃない。
思い返せば―
「はやまーす!!」
「うっ・・・」
鼓膜を貫通しそうな雄たけびが教室中に響く。
おはようございますくらい普通に言えないのか脳筋野郎が。
これだから野球部ってやつは・・・
だが残念なことにこいつの雄たけびは効果バツグンだ。
「ピロシおはよー」、「おっはーピロシ!」、「おはおは~」、個性的な挨拶とともに脳筋に駆け寄っていく取り巻きたち。
この脳筋が調子という波でサーフィンしまくっているのも半分くらいはこいつらのせいだろう。
ちなみにピロシというのはこいつのあだ名で本当の名前はひろしだ。
人公と書いてひろしと読む特殊さに初めは誰もが驚いたが、自らピロシ呼びを強制するキャラの強さで一気に人気者になりあがった。
いまやこいつのことをピロシと呼ばないのは俺ともう一人。
「おはよう人公君」
少し遅れて入り口から声が聞こえてきた。
毎日聞いていたきれいな声。
嫌になるほど聞き飽きた声。
そして今となってはつらい思い出を想起する声だ。
「おう、真由。俺のことはピロシって呼べよな!」
そう、俺の元カノである。
この時俺の頭に浮かんだのはなぜかバイト先での先輩の言葉だった。
「後輩君って彼女いるの?」
「何すか先輩、家に転がり込もうったってそうはいかないですよ」
「私をホームレス扱いするな」
「じゃあなんでそんなこと聞くんです?」
「そ、それは・・・・察してよ」
先輩はそういって上目遣いで俺を見つめた。
心なしか頬が薄い赤に発色しているのは俺の見間違いだろうか。
“・・・・めんどくさ”
「あ、今めんどくさって思ったでしょ!」
「すごい、先輩はエスパーだったんですね」
「でしょ、ドヤー。じゃなくて否定せんかい!」
「いやいや否定したら先輩がエスパーじゃなくなっちゃうじゃないですか」
「・・・・確かに、君はなかなかかしこいな」
「というよりは先輩がちょっと・・・・」
「失礼な、それよりどっちなのよ」
「まぁ、いますけど・・・」
「ほほう、高校の同級生?」
「そうですけど・・・」
「いいねいいねぇ、青春してるねぇ!」
上機嫌に肘で小突いてくる、いやオヤジか。
先輩は圧倒的に内面で損してますよ・・・
喉ぼとけのあたりまで上がってきた言葉をウーロン茶で流し込む。
しばらくの沈黙の後、コップに残った氷を眺めながら先輩が口を開いた。
「私だって高校時代はさ―」
「ちょっと待った、思い出話の前に一つだけいいですか?」
「はいちょっと待ったコォォォール!!」
「いや大どんでん返しじゃなくて・・・」
「なんでわかんねーん、でどうしたのよ人が感傷に浸ってるときに」
「先輩飲んでるの酒ですよね」
「・・・ギクッ」
「休憩時間といえ飲酒をするのはちょっとねぇ」
「後輩君、バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ」
「よし、じゃあ店長に報告してきます」
そう言って元気よく立ち上がった俺の腕に泣きつく先輩。
「何でもします、何でもしますからそれだけは!!」
「何でもですか?」
「・・・ええ、何でも」
「じゃあ今週の木曜日のシフト変わってください」
「いやなんでやねん!」
「はい?」
「お前はそれでも男子高校生か!」
「そうですけども・・・」
「こんな美人な先輩に何でもするって言われてそんな要求する馬鹿がどこにいるんだよ!!!」
「いや自分彼女いますし」
「ちぇっ、録音して弱みを握り返す作戦が・・・」
「さすが先輩隙がないですね」
「まぁ一途なのはいいことだけどさ、学内恋愛は職場恋愛と変わらないからね」
「どういうことですか?」
「そりゃ―」
別れたら地獄だから。
同じ学校、クラスすらも一緒な俺たちはいやでも毎日顔を見る。
正直言って生き地獄だ。
しかも俺はフラれた側。
相手が新しい恋愛を始めようものなら立ち上がれないほどのダメージを喰らってしまう。
こうなったら俺も早く立ち直るしかない!
それで何の話だったか・・・そう脳筋の話だ。
このクラスであいつをピロシと呼ばないのは俺と真由の二人。
俺は頭の中では脳筋、実際にはそう呼べないのでひろし君と呼んでいる。
そして真由は全員のことを名字で呼ぶタイプだ、脳筋ももちろん例外ではない。
とはいえ俺は例外である。
真由は付き合い始めてからずっと影汰と呼んでくれていた。
いや待てよ、もしかすると今日からは俺も名字呼びに降格するのか?
それはさすがにキツいものがあるな・・・
まぁそもそも話しかけられることもないとは思うが(笑)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
え?
んん?
んえ?
人公君?????
今あいつ人公君って言わなかった?
俺の気のせい?
さすがに?
「私は人のことをあだ名で呼ばない主義なの」
「いいや、必ずいつか呼ばせてやるさ」
「ふっ・・・まぁ頑張って」
そういって微笑みながら席に着く彼女。
もちろん俺のほうには見向きもしない。
なんか距離縮まってない?
いや俺との距離は少しずつ沈んでゆく太陽の十倍の速さで遠くなっていってるんだけどさ。
あいつらの仲はクソゲーで最初10分くらい○にまくってやっと操作感つかめていざ攻略はじめるぞってくらい進歩してない?
真由の別れ際の言葉、まさか脳筋・・・
「みんな聞いてくれ!」
俺の頭がメロスの走る速度よりも早く回転していたその時、再び雄たけびが教室に響き渡った。
「どうしたのピロシ?」
取り巻きですら困惑させる大声だった。
なんだ脳筋、ハカでも始めるつもりか?
「俺生徒会長になることにした、みんな投票よろしくな!」
クラスが一瞬の静寂に包まれる。
突然の大発表にみんなついていけなかったからだ。
しかしその後クラスで大喝采が巻き起こったことは言うまでもないだろう。
“脳筋には政治がわからぬ”
この一文が突如思い浮かんだ俺は一時的に太宰治を憑依させていたのかもしれない。
「「「「ピーローシ! ピーローシ!」」」」
教室中に響き渡るピロシコール、これならハカのほうがまだましだった・・・
大喝采を起こす以前に粉砕もしくは玉砕してほしいところだ。
だがその可能性はほぼ0といって差し支えない。
こいつが選挙に落ちる未来なんて想像のしようがないからだ。
抵抗しようったって「見苦しい、見苦しいぞー!」と一蹴されるだろう。
「じゃあピロシが会長になったとして副会長は誰にするんだよ?」
えー私やりたい、いや俺だろ、野球部から選ぶんだよな、様々な方向から自己中どもの欲望にまみれた声が響く中、脳筋ははっきりと答えた。
「真由に任せる」
電流どころではない、シン・ベルワン・バオウ・ザケルガが走った。
真由の捨て台詞、二人の仲、生徒会長、これらの事実から導き出されるのはたった一つの真実だ。
俺にとってあまりにも残酷な真実だ。
できることなら気づきたくなかった真実だ。
俺は激怒した。
必ず、この邪智暴虐のアベックを除かなければならぬと決意した。
大の里優勝で横綱昇進、万歳