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電車 前編

「あんたそろそろ一回顔出しなさいよ」

先日母親から連絡があり実家に帰ることになった、実家を離れて二月と経っていないのに呼び出しがかかるとは、我が母親ながら過保護なものだ。

「いつ帰るの?」

「どうしよっかなぁ、実家遠いんだよなぁ…」

実家がある町は、電車をいくつも乗り換えて4時間程度かかる、ここに来たときは車で送ってもらって3時間もかからない程度だったから、ここに来てから改めて地図を見て、意外と距離があることに驚いたものだ。

「それにしてもどうして急に連絡あったのかな?」

「知らん、でも母さんならそんなもんだろ」

ココに適当に返事しながら、帰る日程を考える。

休みに帰るのは当然としてどうしようか、金曜日は幸いにも午前中1コマしか講義を入れていない、講義が終わってから帰っても夕方にはつくだろう。他の学生だったら講義を休むのかもしれないが、俺にはそれができない。もし一コマでも休んで内容が理解できなかった場合、友達が居ない俺は授業内容を知る手段がない。

「それでいつ帰るの?」

「まあ金曜の昼に帰るかな」

「わかった!私も用意しなきゃ!」

「何を用意するんだ?」

「電車の中で食べるお菓子とか選ばないと!」

嬉しそうにお菓子が入っている箱を漁りだす。


金曜日、午前中の講義が終わると、俺はまっすぐアパートに帰った。

「さて、準備するか…」

実家に帰るだけとはいえ、最低限の荷物は必要だ。着替え、スマホの充電器、財布。忘れ物がないように確認しながらバッグに詰め込む。ココも横で小さな鞄に自分の荷物をまとめていた。とはいえ、ココが必要なのはせいぜいお菓子と携帯ゲーム機くらいだ。

「ねえねえ、どのお菓子持ってくか迷うんだけど」

「おい、そんなに食わないだろ」

「だって選ぶのが楽しいんだもん」

「だからってそんなに持って行っても邪魔だろ」

「それに家帰った後食べるお菓子も持ってくの!」

確かに……実家にお菓子があるとも限らない。それにお菓子を買おうにも実家の近くにコンビニは無い為事前に用意しておく必要がある。

「…俺のカバンにも詰めれるぞ」

そういって二人でお菓子を詰めていく。


そんなやり取りをしながら、気づけば時間がどんどん過ぎていた。

「やば、もう2時か」

もっと早く出るつもりだったのに、のんびりしすぎた。急いで荷物を持ち、アパートを出る。

駅に着くと、俺たちは電車に乗り込んだ。

──ここから長い旅が始まる。

いくつもの電車を乗り継ぎ、時間はあっという間に過ぎていった。

4時を回る頃には疲れが見え始め、先ほどまで隣でゲームをしていたココも、さすがゲームをやめて外の流れていく景色を大人しく見ていた。


「あとどれくらい?」

「あと2時間くらいかな」

「まだかあ…」

「そんなに長く感じるなら寝とけよ」

「えー…」

ココは文句を言いながらも、座席に座ったまま目を閉じた。俺もぼんやりと窓の外を眺める。

最後の電車に乗り換える頃には、すでに5時を過ぎていた。車両に乗り込むと、乗客は俺たちだけだった。

電車は子気味良いリズムで走り続ける。

外は赤く染まり、夕焼けが広がっていた。電車は淡々と線路を進んでいく。 俺はスマホを開きネットを見始める。しばらくスマホを眺めていると、ふっと辺りが暗くなった。どうやらトンネルに入ったらしい。途端に電波が悪くなり、さっきまで再生していた動画が止まる。

仕方なくネットを閉じスマホの右上に表示された時間を見る。時刻は午後5時30分。あと30分ほどで目的地に着くはずだ。そう思いながら、スマホをポケットにしまった。



トンネルを抜けると先ほどまでの住宅街の景色から打って変わり、田園風景が広がっている、この景色を見ると実家に近づいている事を実感する。

しばらく流れる風景を見続けていると定期的に辺りが暗くなりトンネルに入る。

トンネルから出て車内に真っ赤な光が差し込むとココが目を覚ました。



「もうつく?」

目をこすりながらしょぼしょぼと聞いてくる。

「もう少しだな」

感覚的には、もうすぐ目的の駅に着くはず。

けれど、電車は止まらない。

駅のホームが見えてくるはずなのに、ずっと線路が続いている。

俺はスマホを取り出して時間を確認した。

スマホの表示は5時30分。

「……え?」

時間が動いていない。

窓の外は、相変わらず真っ赤な夕焼けに包まれた景色が流れている。

「これ…」

俺はココにスマホの画面を見せる。

「なに……?」

未だ眠そうにしているココ。

「時間が動いてない?いや、別の世界?……わからないけど、やばい状況だ」

「……」

寝息を立ててまた寝始めるココ。俺はココの肩を掴み、揺さぶった。

「ココ、起きろ」

「うーん……」

「ココ、頼むから起きてくれ」

「やめて……」

「ココ!!」

大声を出して叫ぶと、ココの肩がビクリと動き、ようやく目を覚ました。

「なに!びっくりしたじゃん!!」

「それは悪い。でも、緊急事態だ」

「だから何がさ」

「駅に着かない」

「何言ってるの?電車動いてるんだから着くに決まってるじゃん」

そう言いながら、ココが流れる景色を眺める。

「そうなんだけど……時間が止まってるんだよ!」

俺はスマホの画面を見せた。

「壊れたんじゃないの?樹の頭みたいに」

「俺の頭は壊れてないわ」

「正常でそれなの?可哀想だね」

「なんで急に毒吐くの?」

「無理やり起こされたから」

「それは謝っただろ?そんなことより、スマホが信用できないなら、お前のゲームを起動して時間を確認してみろよ」

俺がそう言うと、ココは座席に置いていたゲーム機を手に取り、電源を入れた。起動音が鳴り、画面が映る。

しかし、次の瞬間、ココは目を見開いた。

「……止まってる」

「だろ? それとも、そのゲームも壊れてるのか? お前の頭みたいに」

俺は意趣返しとばかりに言い放つ。

「ゲームは壊れてない!」

「お前の頭は壊れてるのか……」

ココがハッと気がつくと

「壊れてない!!」

ココの声が車内に響く。

「それでお前はこの状況どう思う?」

「うーん、今は何とも言えないね、この前の廻路みたいな物なのか、それともまったく違う物なのか」

「そうか、ちなみにこのまま乗ってたらどうなると思う?」

「それもわかんないね、ずっとこのまま電車が動き続けるのか、どこかに連れて行かれるのか…」

ココに聞いてもわからないのであれば、そうなのだろう。

であれば、今この状況でできることは、少しでも情報を得ることだ。


そう考え、俺は辺りを見渡す。

窓の外では景色が流れ続け、電車は確かに進んでいるように見える。

しかし、それ以外に得られる情報はないかと視線を窓から外すと、車両の先へと続く通路が目に入った。

「……なあ、次の車両に行ってみないか?」

「え?」

ココが首を傾げる。

「もしかしたら、何かわかるかもしれない」

そう言いながら、俺は立ち上がり、ドアの方へ向かう。

ココも後ろからついてくる。

ゆっくりとドアを開け、次の車両へ足を踏み入れた――その瞬間、違和感が走る。

夕暮れに染まる車両の前方に、誰かが立っていた。

少女だ。

「あの! すみません!!」

思わず声をかける。

その少女が反応し、ゆっくりと振り返る。

「――――え?」

見覚えのある顔がそこにあった。

ココだ。

「は?」

咄嗟に後ろを振り向く。

ココは確かに俺の後ろにいる。


彼女もまた、怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。

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