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ヤマト奇談集  作者: flat face
河内王朝
26/33

黒媛

黒媛はデザインをpixivにアップしています(https://www.pixiv.net/artworks/134763444)


   一


 粛慎(みしはせ)(満洲)の南部や(から)(くに)(朝鮮)の北部を領土とする(こう)()()は、西(せい)(れき)の紀元後四一三年に超大国である(しん)(たん)(中国)の(とう)(しん)に朝貢した際、()(しま)(本州・四国・九州)に土着する()(じん)を連れていた。

 その倭人は高句麗が()(こく)に戦勝したことによる捕虜だった。

 高句麗は彼らにわざわざ自国の特産品たる貂皮や人参を持たせ、倭人を代表する倭国が属国であることを東晋に示した。


 本当の倭国たる大和(やまと)(せい)(けん)にとっては勝手に属国とされて屈辱だった。

 しかも、四一五年に韓郷の東南部にある新羅(しらぎ)に敗れ、中南部の鉄資源を得づらくなっていたため、大和政権は危機感を抱いて外交により注力した。

 韓郷の西南部にある百済(くだら)は、新羅と対立していたことから四一八年に倭国へ十反の白綿を贈った。


 百済の支援を得られた大和政権は、使者を焚刑に処するなど新羅に対しては強気な姿勢を見せた。

 距離的に近いがゆえに大和政権と新羅は衝突が絶えず、新羅は大和政権と百済の結び付きに対抗して高句麗と同盟した。

 それを受けて大和政権は君主たる(おお)(きみ)(おお)鷦鷯(さざき)が四二一年に震旦の(そう)に使いを出し、自身ばかりか太子である()()()(わけ)の身分も保証してくれるよう願った。


 大王の一族たる()()(うぢ)は震旦の(あや)(ひと)に倣って()(せい)を名乗り、去来穂別も(さん)と称された。

 宋は東晋に取って代わった王朝で、大鷦鷯は貢物を献上して新しい王朝の出発を祝い、去来穂別は宋から倭国の太子と認められた。

 超大国の王朝からお墨付きを得て去来穂別の地位は安泰かと思われた。


 ところが、大鷦鷯が愛妻の(いわ)()(ひめ)を失って無気力になると、雲行きが怪しくなっていった。

 大和政権は国々の諸王であった豪族たちの連合で、彼らに認められてこそ大王は君主でいられた。

 それゆえ、大鷦鷯が覇気を無くした途端、豪族たちは阿毎氏の中で自分たちに都合の良い者を次代の大王に据えようとした。


 その成り行きに去来穂別は焦った。

 彼は早くから次代の大王と目されていたので、それに恥じぬよう潔癖なまでの生真面目さで努力していたが、それは尊敬する父親の後継者になれるかという不安の裏返しでもあり、脆いところがあった。

 そうした弱さが露呈しそうになると、虚勢を張るように激昂した。


 そのような去来穂別を支えたのが妻の(かつら)(ぎの)(くろ)(ひめ)(くろ)(ひめ)だった。

 黒媛は磐之媛の兄たる(かつら)(ぎの)(あし)()(あし)()を父とし、幼くして去来穂別と婚約した。

 太子の妻に相応しいよう厳格に教育され、彼女は自負心の強さから勝ち気であって去来穂別にも直言したが、彼を運命の相手と見なしていた。


 表面上は恭しく振る舞っても腹の底は読めない豪族たちを恐れていたので、去来穂別は自分を想って歯に衣着せぬ黒媛にを安らぎを見出した。

 それに、黒媛は眼が大きく、妖艶の色濃い乙女で、白くて美しい歯を持っており、腰は細くくびれながらも臀部や胸部は見事に豊満だった。

 黒媛は柔らかくて暖かい体を去来穂別の裸体に引き寄せ、指と下で緩やかに愛撫し、片手で陰茎の付け根をぎゅっと締め付けた。


 もう一方の手は肛門を指で探り、桃色の舌は睾丸を捉えた。

 去来穂別は黒媛の頭を股間から離れさせ、その体を引き摺り上げると、唇を彼女の口に埋めた。

 彼は黒媛と長くて激しい接吻を交わした。


 黒媛は体をずり上げ、丸くてぷりっとした白い乳房で去来穂別の顔を擦った。

 去来穂別は黒媛の大きな桃色の乳首を一つずつ交互に口に含んできゅっと吸い、激しい欲求に固くなったそれを舌で舐って歯で噛んだ。

 そして、彼女の平たい腹の下にある暗くて湿った洞窟をまさぐり、陰核を捉えて擦った。


 興奮した動物のごとく黒媛は嗄れ声で喘ぎなら律動し、去来穂別は叫び声を上げ、彼女の豊満な肢体を引っ張り上げて刺し貫いた。

 黒媛は狂ったように腰を揺すり、その豊かな乳房をまさぐっていた去来穂別は、両の手に力を込め、乳輪から突き出た乳首を抓り上げた。

 鋭い痛みに快感が高まり、黒媛は去来穂別と同時に絶頂へ登り詰め、解放感に咽び泣いて彼と接吻を繰り返した。


   二


 東晋や宋から倭人と代表する倭国と認められるため、大和政権は震旦の王朝に倣い、全ての権力を君主である大王に集中させんとした。

 しかし、それは豪族たちの力を弱めることでもあった。

 倭人の代表として先進的な震旦との交易を独占すれば、今よりも豊かになれるので、豪族たちも大和政権が倭国と認められることを歓迎した。


 だが、そのために全ての権力が大王に集中し、自分たちの力が弱まるのは出来るだけ避けたかった。

 去来穂別は豪族たちに配慮し、彼らの支持を取り付け、揺らいだ地位を安定させようとした。

 大豪族たちには取り分け配慮し、去来穂別の妻たる黒媛の(かつら)()(うぢ)は勿論のこと、()()(うぢ)()(ぐり)(うぢ)はその特権を保障された。


 それにより大豪族たちは去来穂別を引き続き次の大王として認めた。

 だが、中小豪族たちは去来穂別の地位が揺らいだのを幸いとし、(すみの)(えの)(なかつ)(みこ)を大王に担ぎ上げようとした。

 大鷦鷯は磐之媛との間に四人の男子を儲けており、その長男が去来穂別で、墨江中王は次男に当たった。


 去来穂別さえいなければ墨江中王が嫡男だった。

 それ故に墨江中王は去来穂別に敵愾心を抱き、鬱屈を抱えて攻撃的になりつつ、他者から認められるために向上心を失ってもいなかった。 

そのようなところが大豪族に取って代わろうとする者たちを惹き付け、()(づみ)(うぢ)(やまと)(うぢ)を傘下に収めた。


 彼らは航海に従事し、海外との関係が重要度を増す中で重きをなしたが、中小豪族であるがゆえに不遇を託っていた。

 四二五年に去来穂別が()()(そう)(たつ)という漢人を宋へ使者に出すと、尚更、墨江中王の対抗心は燃え上がった。

 大鷦鷯が死んだ直後も、去来穂別は四二八年に百済へ使いを出し、自分が次代の大王たることを既成事実化しようとした。


 それを防ぐため、墨江中王は去来穂別が宴で酒に酔ったところを狙い、密かに兵を起こして兄の屋敷を囲んだ。

 その動きを知った(ものの)(べの)(おお)(まえ)(おお)(まえ)()(ちの)使()()()(ぐりの)木菟(つく)木菟(つく)は急いで駆け付け、酔い潰れていた去来穂別を馬に乗せ、火を掛けられた宮殿から脱出させた。

 去来穂別は武器庫でもある(いその)(かみの)(かむ)(みや)に逃げられたが、黒媛は墨江中王の手中に落ちた。


 彼女は去来穂別との息子である(おし)(はの)()()および()(まの)()()ともども捕らえられた。

 彼らを人質に取られたため、墨江中王から何度も凌辱された。

 黒媛を跪かせた墨江中王は、下半身で脈打つものを彼女の目の前に突き付けた。


 咄嗟に黒媛は口を真一文字に閉じたが、鼻先を摘ままれて息が出来ずに悶え、唇を開いたところを呑み込まされた。

 彼女は耐えきれずに咳き込みつつ、止めるよう墨江中王の太腿と叩き、吐き出そうとするも墨江中王に何度も腰を振られた。

 力尽きて床に倒れた黒媛は、虚ろな目で荒い呼吸を繰り返した。


 墨江中王はそうした黒媛の衣服を引き裂いた。

 彼は黒媛の両手首を抑え付けて彼女と交わった。

 黒媛は去来穂別より太くて長い墨江中王の逸物によがり、息を弾ませて喘ぎながら、彼の体に脚を絡ませた。


 墨江中王は長らく去来穂別の二番手に甘んじてきたからか、兄を敗走させて兄嫁を犯すと、狂喜して早くも大王に即位したかのごとく振る舞った。

 しかしながら、去来穂別は石上神宮で反撃の準備を整えつつあった。

 それに対応しようとしない墨江中王に支持者たちは失望した。


 大鷦鷯の三男たる(みず)()(わけ)が去来穂別を支持し、彼の下に馳せ参じた。

 墨江中王の裏切りで疑心暗鬼になっていた去来穂別は、瑞歯別に忠誠の証として墨江中王を討ち取るよう命じた。

 しかも、黒媛と押磐王子および御馬王子を無事に奪還せよとの条件も付けられた。


 瑞歯別は()()(ひめ)と結婚していた。

 その実家である()()(うぢ)の力を借りれば、去来穂別を支持する大豪族たちと協力し、墨江中王を攻め滅ぼすのは容易かった。

 けれども、それでは黒媛たちの安全が保障されなかったため、瑞歯別は奸計を巡らし、戦闘に及ぶことなく、墨江中王を討とうとした。


   三


 瑞歯別が目を付けたのは、墨江中王の近習である()()()()だった。

 曽婆訶理は漁撈民たる(はや)()で、領巾のような刺青を入れており、(さし)()()とも呼ばれていた。

 (かわ)(ちの)(くに)(大阪府南東部)には隼人たちが多く住んでおり、曽婆訶理もその一人だった。


 河内国の隼人たちには彼らを統一する首長がおらず、それ故に全員が墨江中王に味方したわけではなかった。

 その河内国には大豪族の(ものの)()(うじ)が勢力を及ぼしていた。

 物部氏は去来穂別の支持者だった。


 瑞歯別はそうした物部氏を介して曽婆訶理と接触した。

 曽婆訶理が墨江中王に与したのは、阿曇氏や倭氏と同様、一族の地位を向上させようと願ってのことだった。

 しかし、墨江中王が一時の勝利に気を良くし、黒媛の妖艶な肉体に酔い痴れ、淫らな生活を送るようになると、曽婆訶理は彼を見限った。


 このままで墨江中王は敗れ、曽婆訶理も彼と運命を共にせざるを得なかった。

 そこで、寝返らないかという瑞歯別の誘いに乗り、墨江中王の暗殺を請け負った。

 曽婆訶理は黒媛に放尿していた墨江中王を矛で突き刺して殺した。


 瑞歯別は墨江中王を暗殺した暁には曽婆訶理を政界の長である(おお)(おみ)にすると約束していた。

 だが、その約束が守られることはなかった。

 曽婆訶理は若くして墨江中王の近習に抜擢されただけあり、将来を期待されていたが、余りにも野心が強かった。


 その野心の強さゆえにいつまた背くか分かったものではなかった。

 瑞歯別は木菟の助言もあり、曽婆訶理を始末することにした。

 野心的であることから曽婆訶理は努力を惜しまず、才能を発揮していたが、若さゆえに経験が不足してもいた。


 瑞歯別が曽婆訶理が大臣になるのを祝って宴会を催すと、曽婆訶理は疑うことなく宴に招かれ、瑞歯別から酒を注いだ大盃を受け取った。

 その盃は顔が隠れるほど大きく、酒を飲もうとした曽婆訶理は、大盃に視界を塞がれた。

 彼は瑞歯別が席の下から剣を取り出したのに気付かず、首を刎ねられてしまった。


 こうして去来穂別は十七代目の大王となった。

 彼は()(がの)()()()()(ものの)(べの)()()(ふつ)()()(ふつ)・木菟・(かつら)(ぎの)(つぶら)(つぶら)に国政を委ね、(うち)(くら)を設置して官物を収納し、阿知使主に管理を担わせた。

 満智は阿知使主と同じく韓郷から帰化した人物で、伊呂弗は大前の伯父に当たり、円は葦田の息子にして黒媛の兄だった。


 去来穂別が即位できたのは大豪族たちと瑞歯別の助けによるところが大きかった。

 そのことから去来穂別は先代の大鷦鷯と違い、港湾に近い副都の(なに)()(上町台地)を離れ、外交を義兄たる円に一任するなど大豪族たちに職権を大盤振る舞いした。

 円は対外交渉を円滑に進めるため、河川や海上の交通網を掌握し、祖父の(かつら)(ぎの)()()(ひこ)()()(ひこ)が失脚して以来、振るわなかった葛城氏を盛り立てた。


 大豪族たちに配慮したのと同様、去来穂別は瑞歯別も押磐王子と御馬王子を差し置いて太子とした。

 それでも、押磐王子と御馬王子は去来穂別が大和(やまとの)(くに)(奈良県)の都に造った宮殿で暮らし、そこには黒媛もいた。

 黒媛と押磐王子および御馬王子は瑞歯別のおかげで去来穂別の下に帰還できた。


 しかしながら、黒媛は墨江中王の子を妊娠しており、娘の(あお)(みの)(ひめ)(みこ)を産んだ。

 しかも、墨江中王のことがあっても去来穂別と黒媛は心から愛し合っていたが、黒媛の体は去来穂別では満足できなくなっていた。

 去来穂別はそれを気にしていないかのごとく振る舞い、青海王女を押磐王子および御馬王子と分け隔てせず、池に船を浮かべ、酒宴を催して黒媛と遊ぶなど以前にも増して妻を愛おしんだ。


 また、彼は大豪族たちと瑞歯別に大きく譲歩せざるを得なかったが、全ての権力を大王に集中させることを諦めていなかった。

 去来穂別は諸国に書記の(ふみ)(ひと)を置き、国内の状況を報告させた。

 それから、食材の供給源や狩猟の好適地として重要な(あわ)(ぢの)(くに)(淡路島)に行幸した。


 ところが、その最中に彼は黒媛が自決したと報された。

 黒媛は去来穂別を愛するがゆえに彼では体が満たされないことに心を病み、夫と共に船遊びをした池へ身投げした。

 それを聞いた去来穂別も発狂し、四三二年、汚物にまみれて死んだ。



   註


*高句麗と倭人が東晋に朝貢する:李昉『太平御覧』

*倭国が新羅に敗れ、百済が同盟した倭国に十反の白綿を贈り、新羅が使者が倭国から焚刑に処されて高句麗と同盟する:金富軾『三国史記』

*讃が司馬曹達らを宋への使いに出し、その地位を認められる:沈約『宋書』

*円が葦田の息子とされる:『紀氏家牒』


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