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冥婚鬼譚  作者: 大澤伝兵衛
第2章「閻羅王の情け」
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第19話「墓地調査」

 劉陽華(りゅうようか)袁閃月(えんせんげつ)は、疫凶(えききょう)の持つ宝貝(パオペイ)である冥現鏡で現世に来ていた。前に現世に来たのは、数日前の別の事件である。二人は死んでからまだ間もないため、こうして度々現世に来ることが出来てしまうと、自分達が死んでいると言う自覚が薄れて来る。


 だが、確かに陽華達は死んでいる。


 冥現鏡を通って到着した先は前回と同じ、都の一角にある天帝廟だったのだが、そこに供え物を携えてきた老婆は、二人の事を見向きもしなかった。


 生者には彼女たちの事は見えないのだ。


 まあ、もしも見えていたとしたら、老婆は突如虚空から出現した二人を見る事になる。そうなったら老婆の短い老い先は、更に短縮されてしまうかもしれないのだが。


「墓地までの道は分かる?」


「ああ、大体分かっている。前回来た時、この辺りは結構歩き回ったからな。多分、あの墓地だろう」


 陽華達が今後の行き先について相談し始めた時、不思議な事が起きた。天帝廟の中では、一匹の野良狐が寝息を立てていたのだが、陽華達の会話が聞こえているのかちらりと二人の方を見た。特に興味を抱かなかったのか、聞こえているように見えたのは単なる錯覚だったのか、すぐに眠りに落ちてしまったのだが。


「……動物には鬼が見えるのかしら?」


「どうだろう。前に来た時は、犬や猫に反応される事は無かったんだけどな」


 伝説では狐は人を化かすと言う。何か他の動物とは違う能力が備わっているのかもしれない。


 だが、その様な事はこの際どうでも良いことである。二人はすぐに孫鈴の墓を探索しに行くことにした。


 閃月が言っていた通り、孫鈴の眠る墓地はすぐに見つかった。都の一区画が墓地として整備されており、多くの墓標が立ち並んでいる。これだけ多くの人の営みが、歴史の狭間に消えていったのだと思うと感慨深いものがある。陽華達はまだ若いため、普通なら墓場を見た所でその様な事は思わないのだが、本人たち自身が死んだばかりでもあるためかそんな感傷に浸った。


 墓地はそれなりに広かったが、目当ての墓はすぐに見つかった。墓地に辿り着いた時はすでに夕方になっていたのだが、日が暮れる前に探し出すことが出来た。陽華達は明かりなど持っていないので、もしも夜になっていたら捜索には手間を取られた事だろう。


 すぐに見つかったのには理由がある。最近埋葬されたばかりであるため、土の様子が他とは違ったし、墓石にちゃんと名前が書かれていた。孫鈴の墓石は、殆ど加工されていない一抱え程ある物だ。それほど立派な物とは言い難いのであるが、庶民の墓などこの様な物がほとんどだ。中には、名前さえ刻まれていない物もある。


 また、無縁墓地などに埋葬されていなくて助かった。もしもそうだったとしたら、探すのに苦労した事だろう。


「さて、見つかったけど。これからどうしよう?」


「そうね。そこは全く考えてなかったわ」


 孫鈴の墓石を前に、二人は頭を捻る。孫鈴が死んだときに宿していたはずの胎児が怪しいと踏んでここまで来たのだが、ここからどう調査するのか考えないまま来てしまったのだ。


 実は、墓を掘り返して調べてみようと考えていたのだが、何せ陽華達は死んで鬼になっているため、実体が無い。そのため、墓を掘り起こす事は出来ないのだ。鍬等の土工具に触れる事も出来ないし、素手で土を掘ることも出来ない。


 実体は無いと言っても、ちゃんと地面を歩くのには問題が無いので、一体どの様な法則なのかは不明なのだが、とにかく土を掘る事は不可能であった。


「そうだ、この前疫凶さんに、何か武器を貰っていたんじゃなかったかしら。あれって、確か現世の物に触れられるのよね? あれで掘ってみたら?」


金甲打岩鞭(きんこうだがんべん)ね。確かにあれなら一撃で穴を穿つことが出来るだろうけど、今持ってないよ」


「忘れたの? それなら急いで取りに行きなさいよ」


 こんな重要な事件が起きている時に、有用な道具を忘れるなど注意不足である。そんな非難の意を込めて、陽華は閃月に言った。だが、


「そうじゃなくて、没収されたんだよ。生者を鬼から守るために渡したのに、生者が悪人だからってそれを使って成敗しようとした事がまずかったらしい。これから事件を解決していって、成果を出したら返してくれるらしいけど」


「そうなの……」


 陽華はこれ以上追求する事は無かった。陽華もまた、生者を成敗するのに加担しようとしていたからだ。調子のいい事である。


「ん? ちょっと待てよ。よく見てみたら、この土を埋めた跡、いくら何でも新しすぎやしないか?」


「そうなの? 私にはよく分からないけど……。こんな物じゃないの?」


「いや、孫鈴さんが死んでから、もう数日経っている。埋葬してそれだけ立ったなら、もっと他の地面と同化していてもおかしくないはずだ。陣地を作るときに穴を掘ったり埋めたりした事があるから、大体わかるんだ」


「ふ~ん。私、あまり外に出た事が無いから、地面の色合いとかはよく分からないわ。だから、風景画を描く時は苦労したのよ」


 細かな違いの分かる注意深さを見せた閃月に、陽華は感心した。言われて見れば、確かに土の様子が妙だと感じる。だが、こういう事は最初に気付くのが重要なのである。見過ごしてしまい、重要な兆候に気付かずに失敗してしまう例は多い。


 そして、そこで二人はお互いに、ある事に気付く。


「そういえば、あなたは軍に居たの? 陣地を作っていたって事は」


「さあ? そんな事言ったっけ? 覚えが無いな。そう言えばそっちこそ、絵を描いていたって言ったけど、生きてた時の事を思い出したのか?」


「私、そんな事いったかしら?」


 陽華も閃月も、生前の記憶がほとんどない。時折、何か生前に関連する事を口走るのだが、すぐにその内容も忘れてしまうのだ。


「……まあいいわ。提案だけど、孫鈴さんのお墓を、少し見張って見ないかしら。もしかしたら、土の跡が新しい理由も分かるかもしれないわ」


 冥界で不思議な事件を起こしている孫鈴の墓に、奇妙な痕跡があった。これは、この墓に何か事件解決の手掛かりがある可能性が高いと言う事だ。二人はしばらく孫鈴の墓を見守ることにした。

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