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  作者: ひじきとコロッケ
木瀬美晴
95/105

(4)

 だが、それ以上に、妻と娘の追及が厳しい。

 もっとも十年以上、無事であることすらも告げずにほったらかしていたのだから、自業自得ではある。そもそも彼がダンジョンマスターになれた経緯が偶然に偶然が重なったようなもので、ランダム転移魔法陣を撤去してしまえば、新宿ダンジョンの防衛体制は万全だ。数日でダンジョンのことがひと段落ついたのだから、すぐにでも二人の元へ帰り、何が起きたか説明をするべきだったのに、それをしなかったのだから。


「それで、その……なんだ、えっと……」


 なんとなく、小遣いを必死に貯めてちょっと高い骨董品を買ったのがバレたようなしどろもどろでこれまでの経緯を説明する。


「それでダンジョンマスターってのになった……」

「そうだ。ダンジョンマスターとしての姿はこう、だ」

「「ひっ!」」

「スマン、恐いよな?」

「その……なんて言うか」

「気持ち的にはどうなの?」

「気持ち?」

「あ、えっと、なんて言うか……ものの考え方、みたいな?善悪とか」

「ああ、そういうことか。あまり変わっていない、と思う」

「ならなんで、今まで連絡の一つも寄越さなかったのかしら?」

「そ、それは……その……つまり、えっと」


 竜骨ダンジョンのダンジョンマスターよりも強敵かも知れないと思いつつ、今、ダンジョンに何をされたかを確認する。

 あろうことかアイツ、拳でダンジョンの床をぶち抜きやがった。そしてそのまま飛び降りてさらにぶち抜いて、とやっていて、既に五層まで降りてきている。ここまでの所要時間は実質五分もかかっていない。

 家族を一緒に連れてきていたから人質にでもと思っていたが、あのスピードで階層を降りていけるとしたら、家族を捕まえに行っている間にダンジョンコアまで到達してしまうだろう。

 なにしろアイツの家族は四人ともトップクラスのオフィサー。それぞれがバラバラの方向に逃げられたら、如何にここが自分の領域(テリトリー)だとしても、全員捕らえるには時間がかかる。その間にダンジョンコアに到達されたら、ダンジョンコアを確保されてしまいかねない。

 仕方ないので、緊急的な手段をとることにした。


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


「何の音?」

「警報だ」

「それはわかるけど、何の警報?」

「これだ」


 すぐその場の壁に竜骨ダンジョンのダンジョンマスターがダンジョンの床をぶち抜きながら進んでいる様子を映し出す。


「何あれ?」

「このダンジョンに攻め込んできた、他のダンジョンのダンジョンマスターだ」

「攻め込んできた?」

「もう少し正確に言うと、美晴、お前の命を狙っているのがアイツで、新宿ダンジョン(ここ)にいるのを嗅ぎつけたようだ」

「そ、そんなっ!」


 そんな会話をしている間にまた一つ床をぶち抜かれた。

 他のダンジョンでは力が十分の一になるはずの上、ダンジョンの壁や床は罠や隠し扉のような構造にしていない限り、当のダンジョンマスター本人ですら破壊が難しいほど頑丈なはずなのに、全く意に介することなくぶち抜いている。


「どうなっちゃうの?」

「お前たちのことは俺が守る。絶対に」

「でも、あんなすごいこと、お父さんだってできないんじゃ……」


 図星である。が、なんとか表情に出さず、冷静に答える。


「確かにあんな風にダンジョンを壊して進むなんてのは難しい。だが、あれはおそらくアイツの全力。いつまでもできることじゃない。それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない」


 余計なことは言わない方が良かろうと口をつぐむ。一応念のために二十層以上のダンジョンの床や壁はダンジョンポイントをギリギリまで使って通常の五倍ほどの厚さにしている。これだけ厚くしておけば簡単にはぶち抜けないはず。そして、五十層から先のモンスターも配置を大幅に変更してある。

 ダンジョンポイントが空になるほどつぎ込んで、ドラゴンが雑魚モンスターかのように大量に闊歩する超危険地帯に仕上げたのだ。アイツがどれほど強いと言っても、千の単位に達するドラゴンに、そのドラゴンに匹敵するようなモンスターも数百単位。新宿ダンジョンの総力を挙げての迎撃態勢である。




「そおいっ!」


 ドゴンッと床をぶち抜いていよいよ二十層に到達。新宿ダンジョンって百層あるんだっけか?このペースだとあと二時間くらいで到達できるかな?特に疲れてもいないし、拳も全く痛んでいない。唯一の難点は、ぶち抜くたびに巻き上がる土埃くらい。まあ、払い落とせばいいので特に問題にはならない。


「では二十一層へ……そいやっ!……ん?」


 これまでと手応えも音も違い、ぶち抜けなかった。えぐり取った深さは今までぶち抜いてきた床の厚さくらいはあるのだが。クレーターの底へ下りてコンコンと叩いてみたが、かなり分厚いようだ。


「二十一層……なんかあったっけ?」


 両親から教えてもらった新宿ダンジョンの情報を思い浮かべるが、二十層も二十一層も、特に何かある――例えばフロアボスのいる階層とか――ではなかったはず。ということは、俺がここに入ったことに気づいた、あるいはここに来るだろうと予想して対策してきたか。まあいい。もう少し強めに殴ればぶち抜けるだろ。


「そおいっ!」


 追加で二発殴ってようやくぶち抜けた。厚さが今までの五倍くらいある。


「えげつねえ……」


 とりあえず聞こえるように言っておこう。


「聞いてるんだろう?一応言っとく。この程度なら一撃でぶち抜けるからな」


 そう言って、五倍の厚さがあるという前提で床を殴りつけると、今までの比ではない爆音と共に破片が巻き上がり、下の階層まで貫通した。


「ざっとこんなモンだ。ああ、言っておくが、俺の家族に何かしたらどうなるか、わかるよな?」




「な……」


 ユキトは絶句した。

 床を分厚くしたと言え、強度自体は同じだから、数回殴ればぶち抜けるだろうというのは予想していた。要は時間を稼げればいい。その間に迎撃態勢を整えつつ、奴の家族――かなり上位の探索者だが、ダンジョンマスターの脅威とはなり得ない――を捕らえて人質にすれば何とかなると思っていたのが、裏目に出るとかいう以前に意味が無かった。

 なにしろあの厚さでも一撃でぶち抜けるだけでなく、さしたる労力にも感じていない様子。これは時間稼ぎにすらならない。そして、家族に手を出したらどうなるかという脅し文句が追加された。あれでは人質に取るだけでも怒り心頭。怪我でもさせたら、よくて半殺しという雰囲気だ。


「クソッ、こうなったら……」


 さらに床を分厚くして、モンスターを増やして、と大まかな方針を立ててダンジョンコアを操作する。


「五十層以降を厚くするとして……ん?え?は?!」


 思わず出た間抜けな声に妻と娘が怪訝な顔をする。


「どうしたの?」

「あ、いや……その……なんだ」


 どういうわけかダンジョンポイントが急激に減少している。おかしい。今ダンジョンにいる探索者の数はいつもとそれほど変わらないというのに。

 ダンジョンの規模が大きい分、探索者一人あたりで稼げるダンジョンポイントは少なくなるが、実入りがいいダンジョンと見なされているのでダンジョンに入る人数は多く、放っておいても秒で万単位増えるのが新宿ダンジョン。それが減少しているとはどういうことだ?




「ここ、すごいわねえ」

「ああ。狩っても狩ってもすぐに出てくるな」


 瀧川一家四人はダンジョンのとあるポイントに陣取り、次々と沸いてくるモンスターを片っ端から狩っていた。


「ちょ、ちょっと……ペース速すぎ」

「もうちょっとおさえて」

「なんだ?だらしないぞ?」

「そうよ。私たちの若い頃なんて」

「そういう次元じゃないっての!」

「ドロップ集めるの、少しは手伝ってよ!」


 哲平と知里が片っ端からモンスターを斬り捨ててその勢いで後ろに放り投げ、聡と梢が投げられてきたのを瞬時に解体して魔石などを回収しているが、どうしても解体する方が時間がかかるため、処理の追いつかないモンスターが積み上がっていた。

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