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  作者: ひじきとコロッケ
木瀬美晴
93/105

(2)

「ってことはあれか?」

「新宿ダンジョンのダンジョンマスターになったってことなの?」

「陽がダンジョンマスターになったのも驚いたが……どうやってダンジョンマスターになったんだ?」


 いや、いろいろ聞かれても困るんだけどな。


「俺がダンジョンマスターになった経緯はちょっとな……普通じゃない流れなんだよ」

「普通じゃない流れ?」

「そう。俺が知ってる、というか教えてもらった限り、ダンジョンマスターの交代(・・)は、ダンジョンマスターを無力化してダンジョンコアを自分のものにする、とかそういう感じ」


 俺の場合もダンジョンマスターが無力化されたと言えるのだろうか?どちらかというと引き継がせた、という感じだよな。


「ま、ほとんどの場合、ダンジョンマスターの元に辿り着くまでが大変だからな。そうそう簡単にダンジョンマスターが代わることはないらしいよ」

「じゃあ、新宿のは……どうやって?」


 疑問に思うのも当然か。二人とも日本トップクラスの探索者。しかし、ダンジョンマスターの元に辿り着いたことは一度もない。なのに、なんでコイツは?となるわけだ。

 パラパラと資料を流し読みする限り、木瀬志采(ゆきと)は所帯持って一軒家建てて食わせていけるくらいには稼いでいたのは確か。これだとワーカーの中では中の上より上、くらいの実力があると見ていい。

 だが、俺の両親に比べればまだまだ。そのくらい、俺の両親は理不尽なほどに強い。

 まあ、このくらいなら情報を流しても良い、かなという話をしておこう。


「木瀬志采が新宿ダンジョンのマスターだとして、どうやって交代したかというと……偶然だ」

「偶然?」

「そう。偶然、たまたま、ラッキーなことに、ダンジョンマスターが留守の時にランダム転移魔法陣を踏んだんだ。そして飛んだ先が偶然にもダンジョンコアの前。ダンジョンマスターは出かけていて不在だったので、無力化されたと判断されたらしい」

「なんだ」

「そんなことだったのね」


 懇親会に参加した甲斐があったというものかと思いながらパラとめくったら、何かがスルッと落ちた。


「これ……ん?」

「ああ、木瀬志采の写真だ。ほとんど残っていなかったんだが……」

「マジか」


 写真を見てガクリとなった俺を見て皆が慌てた。


「どうした?」

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。コレが木瀬志采なんだな?」

「ああ」

「間違いないわ」

「コイツ……裁判の時に本来の裁判官とすり替わっていた奴だ」

「何?!」

「どういうこと?」

「何をどうやったかは知らんけど、コイツが裁判官の席に座っていて、裁判自体を誘導していたらしい」

「本当か?いや、陽の言うことを疑っているわけじゃないんだが、裁判を誘導ってのが信じ難くてな」

「俺も何をどうやったのかは知らないが、裁判員とかに聞いた感じだと「今にして思えばなんであんなことを?」みたいなことを言ってた。おそらく精神に干渉する何かを使ったんだと思うが、詳しいことは全くわからん」

「洗脳とかそういう感じか?」

「だろうな、聞いた感じだとそんなとこだと思う」

「ということは、裁判自体が仕組まれたものということか?」

「裁判どころか俺を冤罪で逮捕する流れ、最初っから仕組んでいた可能性が高いな」

「何のために?」

「陽、何かこの人にしたの?」

「いや、俺が知りたいよ」


 木瀬美晴の通っていた学校については、存在は知っていた。住んでたアパートから近かったのは確かだし。だから、行き帰りの電車で多分それだろうという制服を着た学生を見かけたことだってある。

 が、それ以上に何かあるかというと、何もない。

 木瀬美晴を見かけたことがあるかと問われたら、「ない」とは断言できない、という程度。

 同じ学校に通っているとか近所に住んでて顔見知りとかいうならともかく、そうでもないなら普通は気にしないだろ?もちろん、毎日同じ電車に乗り合わせているならなんとなく顔を覚えるなんて事もあるかも知れないが、俺の場合、夜勤明けの帰りくらいしか同じ電車に乗り合わせることはないから、頻度はグッと下がる。

 つまり……ホントに何でこんなことになってんだか全くわからんというわけだ。コレはいよいよ当人たちに確認しないとな。


「これ以上は考えても答えは出ないな。直接当人捕まえて問い詰める」

「そうか」


 俺の言葉を受け、皆が仕度を始める。


「俺たちは俺たちで新宿ダンジョンの探索の仕事だ」

「陽兄、一緒に行く?」

「行かねえよ」

「ええ……」

「兄貴、一緒に行こうぜ」

「あのな。俺は新宿ダンジョンの一番奥まで行くんだぞ?」

「だから?」

「……新宿ダンジョン、何層まであるんだ?」

「さあ?」

「知らないな」

「つまり、俺は前人未踏の階層まで行くというわけだ。おそらく人外魔境だぞ」

「いいじゃん、陽兄が守ってよ」

「あのな……」


 梢ってこんなんだっけ?というくらいに甘えてきているのにちょっと戸惑ってしまうが、多分、色々すれ違いがあったのが解消された反動だろうなと頭をポンポンとしてやる。


「諸々片付いたら一緒にどっかのダンジョンに行ってやる機会も作れるから、そのときに。な?」

「ぶう……でもわかった。約束だよ!」

「お、おう」


 ズイッと小指を出してくるので仕方なく指切りげんまん……


「って、全員手を出してくるのかよ!俺の手は二本しかないんだが?!」

「梢だけとかずるいだろ」

「そうよ」

「そうだそうだ」


 ああ、面倒くせえ!


「わかったよ。全員一緒にだ。だけど、指切りは梢だけでいいだろ?」

「むう」

「仕方ないわね」

「むふー」


 ところで、嘘ついたら針千本飲むわけだが、俺、飲んでも平気じゃね?とは言わない。


「とは言え、入り口までは一緒に行こう。姿を消せるようだが、カモフラージュは必要じゃないか?」

「まあ……な」


 というわけで四人に囲まれながら新宿ダンジョンの入り口へ向かう。俺が姿を消しているのはあくまでも周囲の人間から認識されないようにするためでしかない。ダンジョンの外もダンジョンマスターは知覚できるので、俺が来ていることは既に知っているはず。何らかの行動を起こしてくると思うが、向こうが直接こちらに出向いてくれるなら手間が色々省けていいとも言える。

 ネックとしては……


「俺たち四人がダンジョンマスターに狙われる、という事態を考えているのか?」

「まあね。けど、心配はしていない」

「ほう」


 四人の実力に関して言えば、多分世界中のトップクラスの探索者よりも結束が固く、実力も伴っている四人だと言える。だが、木瀬志采、すなわちダンジョンマスター相手に通用するかというとノー。

 俺だからなんともなかったが、アイツの攻撃を食らって無事でいられる人間は多分いない。ぶっちゃけ、デコピン一発で首から上がなくなると思う。

 そういう意味では俺が離れてダンジョン最下層を目指している間にアイツが四人を狙うという可能性は充分にあるだろう。

 とは言え、状況的にアイツのところに木瀬母娘がいる可能性は非常に高い。

 ダンジョンマスターのアイツが自分の家族を守ろうとしたら、新宿ダンジョンに連れてくるのが一番だろうし。つまり、アイツが俺の家族に手を出すよりも前にアイツの家族の元に辿り着いたりしたら、アイツは俺の家族にかまけている場合ではなくなるというわけだ。

 まあ、方やダンジョン内を転移できるダンジョンマスターと、地道に階層を進んでいくしかない俺では結果が見えてる、とも言えるが……そこはちょっと考えがある。

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