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  作者: ひじきとコロッケ
氏間正洋
88/105

(5)

「どうすれば……クソ、死にたくない……」


 駅前バスロータリーのベンチで氏間はブツブツと呟いていた。端から見たら怪しいおっさんにしか見えず、周囲が少し距離を置いているのだが、本人的にはそれはそれでマズいと思っているようだな。

 護衛の契約が解除され、氏間が取った行動はとてもシンプルなもの。

 常に人混みの中にいる、だった。

 なるほど、周囲の目があれば俺も手を出しづらいと考えたってことか。でもなあ……今は人であふれているここも、夜になったらほとんど誰もいないぞ?最終バスが確か十一時半くらいで、最終電車がそれから三十分くらいだっけ?始発がどちらも六時くらいだったはずで、駅前の飲み屋街も日付をまたぐ頃には営業終了だったと思うんだがな……ま、いいか。

 そんなことを考えつつ、ロータリー近くのコーヒーチェーン店でクソ長い名前のついたトッピングてんこ盛りコーヒーを飲みながら氏間の様子を見ていた。

 ん?なんかチャラい感じの男三人が氏間のところに行ったな。ああ、なんかブツブツ言っててうるさいみたいな事を言ってんのかな?お、氏間が立ち上がってわめきだした。あらら、掴みかかろうとしてるぞ。って、殴りかかって避けられてバランス崩して転倒。何やってんだか。お、立ち上がったぞ。って、また殴りかかるのか!あ、カウンターもらった。いや、単にアレは「おいおいやめろよ」って感じで出した手が偶然当たったというか、手の方に自分で向かっていった感じだな。んで、いい感じに掌底が顎に当たったみたいでそのまま倒れたな。アレか、脳が揺らされた感じか。絡んできた男、世界を狙える逸材じゃね?どなたか!どなたか、ボクシングジムのトレーナーはいらっしゃいませんか?!

 お、氏間のヤツ、男たちの足に掴みかかろうとして……ヤクザキックきた。あーあ、もうなんていうか、グダグダになってんな……あ、近くの交番から警官が。男たちは当然逃げ出した。

 どうすっかな。あの三人、別に悪い奴らじゃないよな?「ブツブツうるさいから静かにしてくれませんか?」って勇気を出して苦情を言ったら殴りかかられて、「やめてください、暴力反対!」って止めようとしたら勝手に氏間がぶつかって倒れて。んで、足に組み付いてきたから「離してくれよ!ちょ!」とかやってただけだろ?


「幻覚魔法……っと」


 氏間のところに警官が一人残り、二人が男たちを追い始めたところで、勇気ある若者三人の背後に魔法を展開し、それぞれバラバラな方向へ逃げ出したように見せる。ついでに少し服の色合いも違うように見せる。最近の警官はボディカメラをつけていたりするからな。これで多少ごまかせるといいんだが。




 夜になり、人通りが少なくなってきても氏間はロータリーにいた。

 と言うか、いると思う。

 監視してないから知らん。もしかしたら、ヤンチャな方々に絡まれてひどい目に遭ってるかも知れないけど、知ったことではない。

 俺は紛れもなく暇人だ。学校に通うわけでもなく、働いているわけでもない。いわゆるニート……ではないな。ダンジョンマスターという立派な仕事……じゃないか。まあ、とにかくヒマで張ることは確かだ。が、氏間がどこでどうなろうと知ったことではない。

 氏間に復讐したいのはもちろんだが、俺が復讐する前にひどい目に遭わされたとしても、別に構わないというか大歓迎だ。




 翌朝……ではなくて、翌日の昼過ぎ、ロータリーを見に来たら……いた。昨日と同じところにいて、相変わらずブツブツ言っている。まさか、一晩中あそこにいて、さらに朝からずっとあの調子なのだろうか?

 ま、いいけどな。

 と思っていたんだが、それが翌日、翌々日と続くと、さすがにちょっとな、という状況になってきた。

 一応は家に帰っているのか、来ている物は変わっていて身ぎれいにしている。どうやら明け方、通勤通学でそれなりに人通りのある時間帯に帰り、人通りのあるうちにまたここへ戻ってきているらしい。

 なんていうか……うん、健気だな。

 ただ、そうやって家に帰っちゃいるが、飯はろくに食っていないらしく、やつれっぷりが酷い事になりつつある。アイツのことをあまり知らない奴が見たら、氏間当人とは気付かないレベルを通り越している。




 さて、そろそろ仕上げに入ろうかと思った頃、また唐突にウラがやって来た。


「よお」

「よお、じゃねえよ。ダンジョンマスターが他のダンジョンに頻繁に来るなよって、お前が言ったんじゃねえのか?」

「まあ、そうだが」

「じゃあ何の用だよ」


 珍しく俺の飯時でないときにやって来たのだが、ダンジョンの入り口でなく、俺が外で過ごすときに使っているアパートの一室に来やがったので慌てて転移して出迎えた。もしも出迎えなかったら、多分デカい声で「開けろ!」とかやっていたかも知れん。近所迷惑というか、ダンジョンマスターがここにいますって喧伝されても困るからな。

 とりあえず部屋に上げ、買ってみたが、イマイチ好みの味じゃなかったインスタントコーヒーを出してやる。


「お前、この間東京に行っただろ?」

「行ったな」

「そのことなんだが」

「なんだ?あ、もしかして新宿ダンジョンのダンジョンマスターから苦情が来たとか?」

「正解だ。お前、何しに行ったんだよ」

「いや、別に新宿ダンジョンに行こうとしたわけじゃない。その、何だ、ある人物を追いかけていったらそっち方面に行ったってだけだ。まあ、見失ったから引き返したんだが」

「そうか……ま、あっちもあっちでお前に直接苦情を言えないから俺に言いに来たんだが」

「手間をかけさせたみたいでスマンな」

「全くだ。いきなりアイツが俺のダンジョンにやって来て、何事かと焦ったぞ」

「え?」


 なんで焦るんだ?


「え?ってお前な……アイツの方が俺より強いんだぞ?俺のダンジョンに来て弱体化されるとしても、アイツを迎撃できるような戦力は俺のダンジョンにはいないっての」

「そうなんだ」

「……まあ、お前から見たら俺もアイツも似たようなモンなのかも知れんな」

「そうだ、とはっきり答えておこう」

「そうやってはっきり言われるとそれはそれでな……」

「心配するな。俺から見れば他のダンジョンマスターなんて、みんな同じ」

「そうか……」

「で?話は?」

「それだけなんだが……それはそれとして、例の弁護士」

「おう……って、気にしてたのか?」

「駅前ロータリーに変な男がいるって、噂になってんだよ」

「そうか……って、気にする必要あるのか?」

「そういう噂が流れたりすると、ダンジョンに来る探索者のガラも悪くなるんだよ」

「何だそりゃ……なんか関係あんの?」

「知らん。だが、実際ロクでもない連中ばかり来てるんだ」


 俺のせいじゃないと思うんだがな。


「とりあえずその弁護士、さっさと片付けてくれよ」

「わかった……と言いたいが、どうせならお前も手伝え」

「は?」

「お前の姿を見せればアイツも肝が冷えるだろ」

「ええ……」


 実際子供が見たらすぐに泣くか気絶するレベルだからな、お前。




「おお、相変わらずブツブツ言ってんな」

「完全に壊れてるんじゃねえの?」

「かも知れん」

「そんなら」

「ウラ、一つ言っておく」

「お、おう」

「俺は、心神喪失状態だったとか言う理由で無罪とか減刑ってのが許せないんだよ」

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