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  作者: ひじきとコロッケ
棟田哲也と徳田由衣
80/105

(3)

 そんな事を考えたり、流れ星が流れる度に「復讐を遂げられますように」なんて願い事を言おうとしても言い終えないうちに流れ星が消えちゃったりと言うことをしていたら夜が明けてきた。

 そして、現地時間で九時頃、徳田が出勤してきた。

 よし、まずはここにいるということを確認できたな。

 次はこの街の様子を見て回る。大まかにどこに何があるかを把握して、捕まえるならどこがいいか、なんてことを考える。警察とかそういう機関がどこにあるかも重要。連れ去ろうとした場所が警察署の正面入り口前でした、なんて間抜けすぎるからな。

 そんなふうに見て回っていたら、普通に日本大使館が近くにあった。建物はだいぶ小さくて、大使はあちこちの兼任で不在がちという、日本人があまりいない国ではよくあるパターンだな。

 大使に化けておびき出すというのも手か?だけど、大使館職員が大使の予定を把握しているはずだから、いきなり大使が現れたら怪しすぎるか。

 と言うか、むしろ下手に動いて徳田に大使館に逃げ込まれるとやりづらくなるか。ん?逆だ。大使館に逃げ込んだところを狙う方が楽かも知れん。

 あ、ダメだ。ここからダンジョンまで連れて行くの、すげえ面倒だったわ。

 ここに来るまで丸々一日かかっているということは、帰りも同じくらいかかるということ。

 そして、人ひとりを抱えてそんな速度で飛べるかというと……多分、人間の耐えられる速度ではなくなるかも。

 ということはもっとゆっくり飛ぶとして……三日くらいかけて帰る?うーん、その間ギャアギャア騒がれるんだろうな……面倒臭いというか鬱陶しい。

 ということで、近くにダンジョンがあったらそこに放り込んでもいいかなと思ったら、ちゃんとあったよ、ダンジョン。


「で?何の用だ?」

「や、ちょっとこのダンジョンへ人を一人放り込みたいな、と」

「は?」


 ちょっと下見に、とダンジョンへ近づいたらいきなり目の前に現れたのがこのダンジョンのダンジョンマスター。

 ウラも結構な強面だったが、それが霞むくらいに凶悪な面構え&巨躯で俺を見下ろしている。アレか、ダンジョンマスターってのは体格で威圧するのがスタンダードなのか。


「俺のところに放り込むとはどういう意味だ?」

「そのままの意味です」

「……つまり、そいつに俺のダンジョンを攻略させるということか」

「いや、むしろ逆」

「逆?」

「ああ。少しばかりダンジョンの雰囲気を味わってもらって、サクッと」

「サクッと?」

「そう、サクッとあの世へ」

「……それ、何の意味があるんだ?」

「俺にとってはとても重要なんだよ」

「ほう……こっちへ来い」

「あ、はい」


 やれやれ、困ったな。俺がこのダンジョンマスターに挑戦しに来たという路線から外れてくれない。俺としては、こんな遠くのダンジョンには興味がないんだが。もちろん、徳田をサクッと始末してくれるくらいの難易度があるかどうかというくらいの興味はあるぞ?

 さてどうしたものかと悩みつつあとをついて行ったら転移魔法陣でどこかに到着した。


「ここは?」

「最下層に用意した、ダンジョンマスターへ挑戦するための闘技場だ」

「ダンジョンマスターへ挑戦するための?」

「そうだ。と言っても、一度も使われたことはないがな」

「……参考までに、ここは何層だ?」

「三十四層だ」

「お、結構深いんだな」


 うまく話を持っていって三十層くらいに徳田を置き去りにできたらいいな。


「ダンジョンマスターが来たと言うことは、ダンジョンコアを奪いに来たと言うことだろう?」

「え?」

「他のダンジョンマスターにダンジョンを荒らされるのは本意ではない。俺が直々に相手をしてやる」

「あ、いや、そうじゃなくて」

「じゃあ、何だと言うんだ?」

「さっきも言ったとおり、とある人物を一人、ダンジョンに放り込めれば俺としては」

「よくわからんな」

「え?」

「ダンジョンマスターが他のダンジョンに来るなんて、ダンジョンコアを奪いに来る以外に何があると言うんだ?」


 おかしいな。話が通じていない。


「もう一度言うが、俺はこのダンジョンの攻略に来たわけじゃない。このダンジョンに人を一人、放り込めないかなと思って下見に来ただけだ」

「そう言って油断させるつもりか?騙されんぞ?」


 そう言うと闘技場の中央に立った。


「さあ、来い。俺の強さを思い知らせてやる」

「ええ……」


 何かおかしい。あ、もしかして。


「一つ質問いいか?」

「特別に答えてやろう」


 どこまでも上から目線か。


「ダンジョンマスターが集う懇親会、お前、参加した?」

「懇親会?ああ、アレか。もう何年、いや二十年以上行ってないな」

「じゃあ、そのあとにあったダンジョンマスター同士の決闘は?」

「そう言えばそんな連絡もあったな。好きにすればいい話であって俺には関係ないから見に行ってないぞ」


 これでわかった。それぞれで起きた、というか俺が起こしたアレやコレを見ていたなら、俺と戦おうなんて思わないはず。俺だって、絶対に負けないとは断言ないよ?世の中にはどんな奴がいるかわかったもんじゃないからな。だが、それでもアレを見ていたなら、いくら自分の強さに自信があっても、こんなに上から目線で「さあ来い」なんて言わないだろう。

 そう思うのは俺だけか?


「どうした?さあ、来い。挑戦者の権利として、お前の最初の一撃は避けずに受けてやる」


 足を肩幅に開き、やや前傾姿勢になって「ばっちこーい」みたいになってるけど、俺がまともに一撃食らわせたら、コイツ、影も形もなくなると思うんだが。


「あー、スマン。もう一つ質問いいか?」

「何だ、質問だらけだな。怖じ気づいたか?」

「いや、その、何だ。戦いってのは実際に拳を交えるより前から始まってるもんじゃないか?」

「ふむ。心理戦、情報戦か」

「ま、そんなとこ」

「まあいい。答えられることは答えてやろう」

「じゃ、質問。この階層って、この闘技場だけなの?」

「そうだ。階層が増えるごとに移しているが、ここが事実上のダンジョン最下層であり、ダンジョンマスターとの決戦をするための舞台。その他の要素は全て排除してある」

「わかった」

「やっとやる気になったか」


 ならねーよ。出会って十分にもならない、通りすがりの奴を惨殺するような趣味は俺にはない。俺は平均的日本人の仲良し小好しが好きなんだ。


「じゃあ、お前はそこから動くなよ?」

「ああ、男に二言はない」


 自信満々。震えの一つすらない。アレか、見た目で侮られてるのか。まあいい。


「ダンジョンマスターが他のダンジョンに入ると、力が十分の一になるってのは知ってるか?」

「まだ質問するつもりか?まあいい。知っているぞ」

「それを踏まえて、現在の俺の一%くらいの力を見せるとしよう」


 奴を正面に見据えたまま、スッと右手を横に伸ばし、手をパッと広げる。


「ん?」

「そらよっと!」


 ズドンと一度だけ腹の底に響くような振動。そして、俺の右、二、三メートル先から放射状に闘技場――観客席っぽいのも含む――はもちろん、地面も天井もごっそり消えていた。

 五百メートルほどの距離まで、ほぼ正確な二等辺三角形を描くように。


「さて、次はこちらに向ける。言っておくが、手加減しているつもりだけど、出来るだけ小さくってのは結構難しくて、誤差も大きい。出来るだけゆっくり撃つからしっかり避けろよ」

「……」

「おーい」

「……」

 うん、立ったまま気絶してたわ。

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