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  作者: ひじきとコロッケ
納見哲也と貴船忠司
76/105

(1)

「ん?」


 またウラが来た。アイツ、ダンジョンマスターが他のダンジョンに行くのは色々マズいって言ってたはずなのに俺のところにはよく来るんだよな。

 姿は消しているが、あんなのがウロウロしているのは(俺の)精神衛生上よろしくないので、いつものアパートへ移動。全く、そしてメシの準備の続き。全く、俺がメシを作り始めるタイミングで来るのが多いよな。(たか)りに来てんのか?そろそろ金を取った方がいいのかも知れん。

 そんなことを考えているうちにドアノックもチャイムもなしに入ってきやがった。


「よう」

「お前、せめてチャイムを鳴らせ。人として最低限のマナーを「知らん」

「あのな……」


 うんざりしながら「とりあえずそこ座れ」と促して、改めて台所に向かう。

 卵を二つ割ってボウルへ入れ、シャカシャカと溶き、キャベツの千切りメインのカットサラダを一袋入れ、よく混ぜる。

 いい感じに混ざったところで油を引いたフライパンへ投入し、形を整える。軽く固まってきたらひっくり返す。軽く両面に焦げ目がついて火が通れば完成だ。


「うまく作るもんだな」

「まあな。包丁を一切使わないのがポイントだぜ?」


 焼く以外の手間がほとんどかからないお好み焼きもどきオムレツ。サラダの袋に書かれていたレシピを見て以来の定番料理だ。手間暇かからずに栄養バランスが程良い感じなのがポイント高いとこ。


「って、お前は食うなよ」

「なんでだよ」

「そろそろ金取るぞ」

「ケチくせえ」

「あのな……」


「食うな」と言うだけ無駄だろうと半ば諦め、ひとくち分だけ分けてやる。


「お、意外にうまいな」

「一応、サラダのメーカー公認レシピ準拠だからな」


 程よくうまくて栄養バランスもなかなかで、結構ボリュームもあるからこれだけで充分なおかずになる。


「ふう……なかなかうまかったので、情報を」

「え?情報料なの?」

「当然だろ?」

「なんか納得いかんが……なんだ?」

「お前、こっちに来た探索者に何した?」

「特に何も?」


 直接手を出したりはしてないぞ?


「五人全員意気消沈しちまっててな」

「そうか。ああ、アイツら、お前のとこのダンジョンポイント稼ぎ頭か?」

「そんなとこだ。おかげでちょっと収入が落ちてる」

「俺のせいじゃないぞ」

「まあ、確かにそうだが、愚痴くらい言わせろ」

「聞き流してやるから全部吐き出してけ」

「ったく……まあ、それはそれ、だ」

「ん?まだ何かあるのか?」

「ある……というか、お前が知りたい情報じゃないかと思ってな」

「俺が知りたい情報?」

「納見哲也と貴船忠司、お前のターゲットだろ?」

「ああ」


 警察官としては最後の二人になる、俺の取り調べを最初にやった二人だ。コイツらに「俺はやってない」としっかり主張したのに「自供してます」みたいな報告がされたらしく、その後の赤谷と冴島に交替してからの取り調べがちぐはぐになったんだよな。


「お前、自分がやったって言っただろう?」

「言ってません」

「ハア?!」


 こんな流れ。今にして思うと、アレも俺を追い込むテクニックだったのかも知れんが、俺が色々と絶望したのは確かだ。


「で、そいつらがどうした?」

「お前、そいつら探してるんだろ?」

「ああ」


 これに関しては油断していたと白状する。

 このところ順調に始末していたのだが、探索者の四人に時間をかけすぎてしまった。反応が面白すぎてつい夢中になってしまった俺が悪いと言えばその通り。だけど、あの反応を見たら誰だって続きを確認したくなるだろうと思う。

 それはさておき、そうやって遊んで……いや遊んでないのだが、警察の動きを放置していた結果、あの二人が遠くへ異動になってしまった。そして、どこへ異動したかも追えていない。彼らが入っていた独身寮からもいなくなっているため、相当遠くへ異動したのだろう、と思う。ま、県内だろうが。

 俺としては、現時点でその二人に復讐することに強いこだわりはない。

 復讐する、するが、その時と場所を決めてもいないし、伝えてもいない。そのことをどうか彼らにも思い出していただきたい。つまり、俺がその気になれば復讐は十年後、二十年後、どこかで見つけ次第、ということも可能だろうと言うこと。

 むしろ、そのくらい経ってもまだ復讐が続いていると認識させられる方が恐ろしいまであるかも知れない。そんなわけで今のところはのんびり構えているのだ。


「俺のダンジョン範囲内にいるんだが」

「は?」


 自分の耳を疑うような台詞がでてきた。


「お前のとこにいるのか?」

「ああ。ダンジョンの近くに警察署があるだろ?」

「あるな」

「そこにいる。今月の頭くらいから」


 灯台もと暗し。まあ、鬼火ダンジョンは竜骨ダンジョンの隣だから、あり得ると言えばあり得る話か。


「どうする?」

「うーん」


 いきなり言われてもな。だが、居場所がわかったのはありがたい。


「とりあえずどうするか考えるが……そうだ、あの五人分のダンジョンポイントが入らなくなった分の詫びとしてお前のとこで始末しようか?」

「いらねー」


 嫌われたものだな。


「でも、連れてくるの面倒だしな……」

「それもそうか」


 空を飛べば距離なんて関係ないし、車に詰め込んで車ごと運べば人数もある程度平気だ。が、俺としては色々世話になってるし、迷惑と言うにはちょっとというレベルだが少なからず損失を与えてしまっているという認識なので、このくらいは、と思っている。


「そもそも、俺のダンジョンにそいつら引きずり込むとして……それを見られたら俺のダンジョンの評判が落ちるんだが」

「そういうことか」


 ダンジョンに評判なんてあるのかね?


「それじゃ、こういうのはどうだ?」




 スーパーKKといえば、この辺りで知らぬ者のない、というと大げさだが比較的大きなスーパーである。

 生鮮食品はもちろんのこと、お惣菜コーナーに至っては出した端から売れていくので、時折テレビの取材が来たりして、別名「半額シールのないスーパー」とも言われているほど。

 一方で、どこのスーパーにもある悩みというかトラブルも抱えている。そしてその後始末のために納見と貴船の乗ったパトカーが駐車場に滑り込んだ。


「全く、面倒くせえな」

「そう言うなって」


 ぼやきながら裏手に回り、そばにいた従業員に頼んで事務所まで案内してもらう。

 警察官が相次いで攫われ、ワーカーたち四人も行方不明になった時点で、警察の中ではある憶測――陽にとってはどうでもいい内容――に基づいた対応が取られた。

 その憶測とは、


「瀧川陽の件は竜骨ダンジョンの逆鱗に触れた何かがあったのだろう」


 ということからスタートしている。

 具体的な関係性を知ることは出来ないが、瀧川陽がダンジョンの裂け目に転落。その状況を見ていたダンジョンマスターが激怒し、関係者の始末に入ったのだろう、と。

 一方で、


「ダンジョンマスターとしての姿はあまり見せたくないのでは?」


 という推測。これはホテルに缶詰にしていた者を連れ去った立ち回りまでは密かに動いていたし、その後もいつの間にか行方不明という状況からの推測。可能な限り他者から見られないようにしているのでは?というのもわからなくもない流れだ。

 そこで、警察は方針転換に入った。

 あと連れ去られる可能性があるのは警察官二人と裁判官と裁判員が一名ずつに弁護士と痴漢被害を訴えていた高校生。

 警察官二人以外は警護に就く者を増員して対応。

 では警察官は?

 非常に単純だった。常に人目があるところにいるようにすればよい。

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