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  作者: ひじきとコロッケ
隅谷聡と針間勇司
75/105

(5)

 どうやら何ヶ所か通路が回転する場所が合ったようで、現在歩いている箇所もマップ上はすぐ目の前が行き止まりのはずが、十字路になっている。だが、それがどこなのかサッパリ見当がつかない。

 何カ所か目印になるよう、チョークなどでマークを付けたが、マークが見つる見つからない以前に、さっき付けたばかりのマークが前方にある、といった具合。


「ここのダンジョンマスターが念入りにここを用意したのだろうな」

「クソッ、どうすれば」

「落ち着け」


 なんとか互いに声を掛け合い、必死に捜索を続けたが、ダンジョンに入ってから四十八時間経過した時点で井上(赤峯)は一旦ダンジョンから出ることを決断した。元々、長期間潜ることを想定していなかったため、水と食糧が尽きかけていたためである。

 だが、外に出るという決断を下してから外に出るまでにさらに三十時間ほどかかった。元々入った場所に戻ることができず、しらみつぶしに壁を叩いて回ることになった結果、今度ばかりは井上(赤峯)の引きが弱かったようで、なかなか隠し通路からでられなかったのだ。

 そしてようやく外に出た五人は、急いで長期間ダンジョンに潜るための準備にかかり、僅か五時間後に再び隠し通路を見つけた辺りに戻り、壁を崩そうとした。

 が、当たり前のように壁は崩れず、必死に探し回った。

 そして探すこと四日目、ようやく壁の崩れる場所を見つけたが、そこは小さな小部屋になっているだけでそれ以上先はなく……彼らは捜索を断念したのであった。


「結局のところ、ダンジョンマスターの手のひらの上で踊らされていただけだったのか」

「いや、違うな」

「違う?」

「ああ。俺たちは踊ってすらいなかったと思う」


 川田(黄瀬)に言わせれば、ダンジョンマスターは最初から二人を分断するための機会を窺い、分断したあとは速やかに五人が接触できないようにするためにあらゆる策を講じていたのだろう、と。

 こちらがダンジョンから出るのに時間がかかったのは、ダンジョンマスターのあずかり知らぬところで、ただ単に分断するために講じた策にはまっただけではないか、と。


「じゃ、じゃあ……」

「おそらく二人とも、もう……」




 実際のところ、彼ら五人の考えは正しい。

 俺にとってあの五人は、隅谷と針間を攫う上でちょうどいい感じに立ち回ってくれてありがたかったという以上の印象はない。まあ、ちょっとキャラが濃かったが。

 なにしろ、隅谷たち二人、この五人が合流すべく動き出して僅か三時間ほどで、待つことに耐えられなくなり、壁越しに「移動しよう。その方が早く合流できるはずだ」と勝手に歩き出し、その先に用意しておいた罠、転移魔法陣に乗ったのだから。

 んで、準備していたモンスター――肉食恐竜タイプ――に押さえつけられ、俺の前でギャアギャアとわめいている。俺としてはもう少しあそこで待っているかと思っていたのに、と慌ててくる羽目になったので、ちょっと機嫌が悪い。


「あー、えーと……そろそろ話をしてもいいか?」

「な、何でも話す!話すからコイツをどこかへやってくれ!」

「頼む!助けてくれ!」


 話をするのは俺であって、お前たちの話を聞くつもりはないんだけどな。


「安心しろ。そいつは俺が指示しない限りお前たちを襲わない」

「襲ってるじゃないか!」

「お前らが暴れるからだよ。暴れないって約束するなら解放するぞ」

「する!約束する!」

「頼む!殺さないでくれ!」

「……とりあえず解放するけど、おかしな真似をしたら即座に丸呑みさせるからな」

「わ、わかった……」

「約束しよう」


 ため息をついて、クイと指で合図をするとモンスター二匹が二人を押さえつけていた足をどけ、数歩後ろに下がる。


「た、助かった」

「あ、ああ」


 助かってないんだけどな。ま、いいか。


「さてと、状況はわかっているか?」

「お前、瀧川陽、だな」

「おお、話が早くて助かる」

「随分と姿が変わったな。全身整形でもしたのか?」

「そこについて話す気はない」


 どうせ信じないだろうし。


「さてと……お前らは俺とまともに話す気が無く、一方的に犯罪者として決めつけて俺を起訴した。それはいいよな?」

「あ、アレは!」

「今にして思えば!」

「知ってるか?後悔ってのは後になってするから後悔なんだぞ?」

「ぐ……」

「それに今さら、あーだこーだ言われてもな。俺、死んだことになってるし」

「そのくらいはどうにかなる」

「ああ。色々と方法はあるんだ!」

「要らねえっての!」


 ドンと地面を踏みならすと、さすがに黙った。まったく、話が進まなくて困るぜ。


「さてと、お前らが俺をどうにか社会復帰させたいと言うつもりがあるらしいことは……まあ、わかった」

「そ、そうか」

「それなら!」

「だが、俺としては、お前たちに俺が体験したことのごく僅かでも体験して欲しいと思うんだ」

「体験?」

「ああ。俺はこのダンジョンの最下層まで落ちたんだ。最下層とは行かないまでも八層くらいは体験していかないか?」

「体験って」

「安心しろ。ここに最短ルートの地図がある」


 そう言って二人に紙の束を渡す。何だよ、その「どうせ偽物だろ」みたいな目は。


「その地図が正しいかどうか、信じるも信じないも勝手だが……どうにかこのダンジョンから出られたら、俺が社会復帰するために頑張ってくれ。それがお前らの贖罪ってことで」


 そう言うと、意外にも二人とも真剣な顔になり、「わかった」と答えた。


「聞いて欲しいんだが」

「長い話は聞かないぞ」

「それ程長くはならん。事件についてだが」

「聞くだけなら聞いてやる」


 仕方ない、聞いてやるかと表情を緩めてやったら、色々と話し始めた。

 電車の向きがおかしいことになぜか気づけなかったこと。傘がある理由をしっかり確認していなかったこと。何よりも、


「どういうわけか「起訴しなければならない。有罪にしなければならない」という、強迫観念のようなものが胸中に渦巻いていたんだ」

「ふーん」


 だから何?としか言えないが……強迫観念?何でそんなものが?全国ニュースになるような大事件でもないのに、どうして俺を追い込む必要があったんだ?


「で?」

「だから俺たちを信じて欲しい。各方面に掛け合って、君の無罪を証明し、社会に戻れるように全力を尽くすと誓う」

「そうか」


 手のひらクルンクルンといった感じだな。その姿勢、心意気は大いに結構。それをもっと前に見せて欲しかったものだな。


「とりあえず言いたいことはわかった。こちらからは一つだけ」

「何だろうか?」

「俺がここを去ってから十分間は、コイツらはお前たちを襲わない。その間にあの壁を登って、あの穴へ入るといい。地図に印をつけたところにでられるからな」

「わかった」

「じゃ、そういうことで」


 スタスタと距離を取って、コア部屋に転移すると、彼らも動き始めた。


「ここを登ればいいんだな」

「なんとか行けそうだ」


 用意した壁はボルダリングで登る壁のようにそこかしこに凹凸がある。ぶっちゃけ、外に通じる穴まで登るだけなら、初心者向けの難易度。

 あの二人が、極端に運動音痴でも無い限り登れるはずだ……うん、登れそうだな。

 ま、登った後の穴を抜けた先は普通のダンジョン。

 武器もなければ水と食料も一日分しか持っていない彼らが外に出られる可能性?

 聞くまでもないだろ?

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