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  作者: ひじきとコロッケ
隅谷聡と針間勇司
72/105

(2)

「とりあえず、念のため確認です。我々はお二人を連れて竜骨ダンジョンへ向かう。そして、そのどこかにいるという謎の人物……おそらくはダンジョンマスターを探す」

「ええ」

「ダンジョンマスターを探したあとについてはお二人に全て任せる。話の流れ的にそこから帰れるようであれば帰りも行きと同様に護衛する。以上ですね?」

「はい」

「では早速ですが……」


 井上(赤峯)では話にならないと判断した彼らはさっさと座る場所を交替し、佐々木が代わりに二人と話を進めていく。

 ダンジョンへ向かうといっても今すぐここから向かうわけではない。最低限、このくらいは用意してくださいというものがあるとして佐々木から二人に伝えていく。もちろん、武器などを用意するのは不可能だが、例えばヘルメットを始めとする防具類に、ダンジョン内で過ごすための用品類。

 探索者ならすぐに一式揃えられるものだが、ダンジョン探索の経験の無い二人にとっては「ではこれとこれを用意してください」と具体的に指示されるのはありがたかった。


「ではこれらを用意して……明日の朝、九時でよいですか?」

「ええ」

「わかりました」




 念のため、二人は佐々木と連絡先を交換して解散となったようだ。

 もちろん一部始終はすぐ隣の席で聞かせてもらったが、特にどうと言うことはないな。一つだけ言わせてもらえば、どうしてあの二人はダンジョンマスターに会えば何とかなると思っているんだろうか、ってのが疑問、というくらいか。

 一連の失踪事件――死体が出ていないので失踪事件なんだそうだ――に竜骨ダンジョンのダンジョンマスターが関わっているらしい、というのが警察の見解。そもそもダンジョンマスターという存在自体が公に知られているわけでは無い時点で、色々と突っ込みどころがあるのだが、それはちょっと横に置いておく。

 では、ダンジョンマスターは具体的にどこまで関わっているのだろうか?警察関係者の前に俺は姿を現しているが、その姿は瀧川陽とは似ても似つかないどころか、明らかに人間ではないというのがわかる姿。ダンジョンマスターと言われれば納得してしまうのも無理のない姿であるが、やったことといえばターゲットを連れ去ったことと、警察がダンジョンに踏み込んだときに同行していた日本でもトップクラスの探索者、瀧川梢を半死半生にしたことくらい。

 それだけやれば充分だという意見もあるが、一応はターゲット以外に必要以上に手を出さないというスタンスを守っている雰囲気は出しているため、どうやら警察関係者の一部では「話せばわかるのではないか」という意見が出始めているらしい。

 そしてその辺の話が検事である隅谷と針間にも伝わり、彼らはこう考えた。


「誠心誠意謝罪すれば、丸く収まるのではないか」


 誰もそんなことは言ってないんだよな。というか、それこそ「ゴメンですめば警察は要らん」だ。

 あいつらがやらかしたことで俺の人生は百八十度変わったどころか、斜め上の方に飛んで行ってしまい、人並みの幸せとかそう言うのは追求できなくなってるんだぞ?

 それを棚に上げて「ごめんなさい、許してください」は無い。

 おまけに、そもそもの前提がおかしい。何でダンジョンマスターに謝ればいいって話になってるんだ?アイツらの認識では瀧川陽≠ダンジョンマスターだろ?

 だが、あの二人が自分からダンジョンへ向かうというなら邪魔はしない。

 さらう手間が省けるからな。




 翌日、隅谷たちを連れた赤峯(井上)たちがダンジョンへ向けて歩き出す。


「これがダンジョン」

「不思議なところですね」

「すまないが、入ってすぐ立ち止まると後がつかえる」

「っと、すみません」

「ま、初めてダンジョンに入ったらみんなそんな感じっすよ」


 学生時代、二人とも検察官になるために必死に勉強していた。といっても、司法試験を目指すものは、一部のよくわからん天才を除けばだいたいが勉強漬けになるのが普通だから、彼らだけが特別というわけではない。

 一応、適性がないか調べてみたこともあるが、レベルゼロだったので、それ以上ダンジョンに関心を持つことは……あるにはあった。

 ダンジョン労働刑というのがどういうものなのか、最低限知っておくべきだろうということで、一部の法学部では探索者の体験談を聞く、というのをカリキュラムに入れていたりして、二人ともそれは聞いていた。

 だが、それはそれ。百聞は一見にしかずを今ここで実感している。話や写真――完全機械制御のフィルム式なら使える――では決して感じることのできない、外との空気の違い。

 ヒンヤリとしているのに、どこかじっとりとまとわりつくような、なんとも不思議な感覚。


「これが、ダンジョンの空気……モンスターの発する気配、とでもいえばわかりやすいのかなあ」

「モンスターの気配?」

「そう。勘の鋭い奴は、この空気の感覚でモンスターが近づいてくるのに気付くらしいよ」

「へえ」


 しばらく歩くと、少し開けた場所に出るので一旦そこで止まる。ここまで来た通路の他、いくつかの通路がある、学校の体育館程度の広さがあり、数組の探索者たちが、この先に行くために地図の確認をしているのが見える。


「最近少しダンジョンの構造が変わったなんて情報もあったけれど、一応こっちに進むと二層に行ける」


 赤峯がいくつかある通路の一つを示す。


「じゃあ、そっちへ「は行かない」

「は?」


 ダンジョンマスターというのに会いに行くのなら深い階層を目指すのでは?と二人が口を開きかける。


「俺は……こっちだと思う」

「へ?」

「そ、それは一体どういう……」

「カンだ」

「「カン?」」

「えっと、二人にちゃんと話してなかったっけ」


 佐々木(群青)が口を挟む。


「アイツの言ってるのって根拠はないんですが……アレでなぜか結構当たるんですよ」

「ほ、ほう……」

「ということは」

「そう!俺の見たところ!このダンジョンには隠し通路がある!」

「隠し通路?」

「そ、そんなものが?」

「一応、いくつものダンジョンで隠し通路は見つかってます……というか、隠し通路のないダンジョンの方が珍しいのでは?とも言われてますね」


 二人が隠し通路と聞いて、壁の一部が回転して向こう側に、というイメージを抱いているらしいと見た西山(胡桃沢)が訂正を入れる。


「例えば下の階層に繋がっている落とし穴も、隠し通路の一種ね」

「そ、そうか。安全に移動できるかどうかは別として、通路にはなってるわけだ」

「そういうこと」

「その他にも実は崩すことのできる壁や、水路に見えて実は、とか色々と隠し通路とされているものはある。このダンジョン、そういう隠し通路がダンジョンマスターの元に通じていると思うんだよね」




 彼らの会話を聞いて、ちょっとだけ感心したというか驚いたというか。確かに隠し通路を使わないとダンジョンコアには辿り着けないからな。

 だが、今までそれに誰も気付かなかったのに、今日ここに来たばかりのコイツがなぜそう思ったのだろうか?

 一応コイツらの動きは監視していたが、下見としてダンジョンに入るようなことはしていない。他の探索者に接触して彼らの持っている地図――もちろん適当に描かれたかなり精度の悪いもの――を見せてもらっただけ。それでよくそこまで考えたものだ。




「他の探索者の作った地図を見ると、不自然な空間があるんだよね」

「なるほど。だが、それなら他の探索者も気付くのでは?」

「そう、それなんだ」

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