(6)
転移で向かった先はいつも外で待機するときに使っているアパートの一室。転移した直後、インターホンが鳴ったのでドアを開けると……ウラが来ていた。
「よう」
「帰れ」
バタンとドアを閉める。
「ちょ!待て!話があるんだよ!」
「何の話だよ」
仕方なくドアを開けて入れてやる。一応このアパート、普通に人が住んでるからドアの前で騒がれると面倒だからな。
とりあえず茶の一杯でも……出さねえよと思っていたら、自分で缶コーヒーを持ってきてやがった。で、パキッと開けて一口飲んでウラが切り出した。
「俺のダンジョンで主に活動している探索者なんだが」
「ん?」
「最近の色々を知ったらしくてな」
「フム。俺のところも有名になったものだな」
「そうじゃねえよ」
「え?」
「どうも警察も接触していたらしい」
「ん?警察が接触するとどうなるんだ?」
「竜骨ダンジョンを踏破してやる!と公言して、こっちに来るらしいぞ」
「ふーん」
「いや、ふーんって、お前のところだろ?」
「そうだが、前にも言っただろ?俺のところの踏破なんて無理じゃね?って」
「たしかにコアまで辿り着くのは難しいだろうが、最下層まで荒らし回られたらどうなる?」
「何も起きないと思う」
「へ?」
あ、そうか。俺のところのダンジョンの構成、あんまり話してなかったな。
「参考までに俺のところの九層と十層のモンスター、こんな感じ。一部だけど」
「そんなのホイホイ見せてもいいのか……って、なんだこりゃ!」
パパッと書き付けたメモを見たウラの動きが止まった。
「いやあ、そんなに褒められるとは」
「褒めてねえよ!なんだこれ、俺のとこの最下層より難易度高えじゃねえか!」
「そう?」
「そうだぞ!なんだこの、ドラゴンが子猫に見える構成は?!」
「そう言われても、俺が引き継いだ時点でこんなんだったし」
「ええ……」
探索者がよく来る一層から三層はちょいちょい調整しているが、それより下の階層はターゲットを放り込む場所の準備で少し構造を変えているけど、モンスターの配置とか数はそのままなんだよな。
「なあ」
「ん?」
「これ、九層から先、行ける人間なんているのか?」
「いるんじゃね?」
俺の両親クラスが十数名いれば、多分。
「お前の両親って……人類じゃ最強クラスだろ?」
「みたいだな」
「お前……」
「身内過ぎてよくわからんと言うか、そういう話だよ、家でもあまりしてなかったし」
「そうなのか」
そういうもんだよ。
「まあいいや。とりあえず気をつけておけよ」
「おう」
何を気をつければいいかわからんのだが。
翌日、様子を見に警察に忍び込んでみたら、何か対策本部(?)が縮小されていた。色々話している内容に加え、ホワイトボードに書かれている内容から推測すると、どうやら彼らは俺が警察官をターゲットから外した、と勝手に判断したらしい。
ああ、判断は勝手にすれば良いか。それが正解かどうかって答え合わせは彼らが後悔しながらするだけの話だし。
そして彼らが警護するメインは、裁判官残り一人と弁護士、そして俺を犯罪者に仕立て上げた木瀬美春だけ。基本的に身辺警護という形でホテルに缶詰にはしないようだ。
そりゃそうだよな。ホテルを一フロア貸しきって警護していたのにまったく意味が無かったんだから、これ以上は金の無駄遣いになる。学習したな。俺は嬉しいぞ。
だが、油断大敵という単語も思い出して欲しいところ。
俺にしてみれば俺を護送した警察官も、検察官も、全部平等。
どちらも司法手続きに則ると俺を逮捕&起訴するしかない、と言う立場だと言える。だが、俺を有罪と決めつけた逮捕の仕方だったし、状況証拠しかない中で起訴するかどうかは微妙だったはずなのに、なんのためらいもなく起訴の手続きをしたし、と俺が復讐するには充分すぎる材料が並んでいる。
身辺警護すらしていないなら、四人まとめてダンジョンに放り込……住んでる場所が離れすぎててちょっと難しいか。
だが、のんびりやっていくと、警察が再び警戒し始めるはず。
あまりも保たせずに一気にやった方がいいかな。
それぞれの住所、行動パターンをメモした紙を眺めながらどうやってここに連れてこようかと考えを巡らせることにした。
ちょっと短いですが、章の終わりと言うことで……




