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  作者: ひじきとコロッケ
樽谷恭平と坂和太一郎
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(3)

 こちらが一歩進むと二歩下がるくらいの勢いで下がっていくうちに階下への階段に到達。


「じゃ」


 廊下の奥にぎゅうぎゅう詰めになっている――そこまでおびえなくてもいいと思うんだが――警官たちにヒラヒラと手を振り、熱湯の壁はそのままで階段を降りていく。慌てて追おうとしているらしく、「追え!」「熱っ!」とか聞こえる。しばらくしたら消してやるから少し大人しくしていてくれ。

 階段を降りながらスマホを操作。えーと、あった。音量最大、スピーカーオン。すると、階段を降りていくのに合わせて音楽が流れ始める。流れているのは「階段を降りていくときのBGMといったらコレ」と言い切れるくらい有名な曲。ギネス世界記録も持っている芸能人がMCを務める音楽番組のアレだ。

 スタスタと音楽に合わせて降りていくと、階段下でズラリと並んで待ち構えていた警官たちが拳銃を構えていた。


「撃て!」


 声と同時にパンパンと俺に向けて銃を撃ってくる。コイツら……せめて音楽に合わせて撃つとかしろよ。

 上で撃ってきた連中と違って、俺の全身を狙っている感じなので、何発も弾丸がそれて階段に当たって不規則に跳弾する。俺の後ろに捕まえている二人――コイツらに当たったらどうするんだ?と思う――は俺が水でガードしているが、跳ね返った先が鉄の手すりだったりするとさらに跳ね返り、撃ってる警官たちの方へ飛んでいくので危なっかしくてしょうがない。というか、何人か「がっ」「あっ」と声を上げてうずくまっている。

 アレ、俺のせいなのかな?

 俺に当たってる分は跳ね返さないようにしているから、全部俺に当たらなかった、つまり狙いがはずれた弾だから俺のせいじゃないよな、うん。

 ただ、このままというのも俺の精神衛生上よろしくないので警告はしておこうか。


「俺に銃なんて効かないぞ。税金の無駄遣いは止めておけ」


 撃つ人数が増えた件。学習能力ってのがないのかね。同じことを二度言うのは無駄だから言わないが。

 あ、スマホに当たった。せっかく流れていたBGMが止まっちまった。まったく、不粋な連中だな。

 階段を降りきってしまうと「撃つな!撃ち方止め!」と言う指示が飛んだ。一応は色々配慮をするらしい。その配慮をもう少し色々な方向に向けて欲しいところだな。チラッと後ろを見るとひどい状況。あちこち穴だらけになってるぞ。

 とりあえず気になったことを聞いておこう。


「あの壁の修理費、お前らの給料から天引きだよな?」

「……ふ、ふざけるな!」

「いや、真面目な質問してるんだが」

「どこが真面目な質問だ?!」

「だってさ……上でも俺を撃ってたけど、無駄だったってのはわかってたんじゃないのか?」

「……」

「なんだかな……」


 ため息をつきながら振り返った先にはホテルのフロント。一応スタッフが数名残っていて、その周囲をポリカーボネートっぽい盾を構えた連中が固めている。俺はこのホテルになんの恨みもないから、そんなに警戒しなくてもと思うが、仕方ないか。彼らは俺について誤解することにかけては右に出る者がいないくらい得意だからな。

 スタスタと歩いて行くと、盾を構えた連中が一歩前に出る。


「俺の邪魔をするな」

「き、貴様の言うことなど!」


 やれやれ。言葉は通じるが話が通じないってこういうことを言うんだな。

 誠に残念ながら説得とか交渉とかできる相手ではないと判断し、ズンズン進んでいく。何人かが「押さえ込め!」などと言って俺を押さえようとしているがお構いなしに進む。


「クソッ、止まらん!」

「踏ん張れ!」


 必死にやっているけど、意味はなく。足下がカーペットのせいでひっくり返っていく。怪我はしないと思うのでそのまままたいで進もうとすると、足首をつかんでくる。

 歩きづらいが、そのままフロントへ向かうと、フロントの人たちに「ひっ」とおびえられてしまった。


「ああ、えっと……危害を加えるつもりはないから」

「は、はひっ」

「コレ、上のドアの修理費にあててくれ」


 分厚い封筒を取り出して中身だけどさっと置いていく。ああいうドアの修理費がどのくらいかかるかわからんので五百万ほど用意した。


「え?あ、あの?え?え?」

「余った分は警察(あいつら)がバンバン撃って穴だらけにした壁の修理費にでもしてくれ。じゃ」


 ヒラヒラと手を振ってフロントをあとに……


「歩きづらいんだよっ!」


 ブンブンと足を振って、捕まってる連中を振りほどく。

 そして、そのまま外へ。

 さすがに外へ出られることまでは想定していなかったのか、対応が間に合わなかったのか、エントランス付近は通常業務の状態。自動ドアをくぐり抜けて行くと、一台のミニバンがスルリと滑り込んできてドアが開いた。

 そのまま乗り込んで連れてきた二人を後ろの席に放り投げる。


「よし、ダンジョンへ戻るぞ。安全運転でな」

「ハイ」


 以前、車の運転を教え込んだインキュバスに迎えに来るように指示しておき、時間ぴったりに合流。いいね、こういう流れ。消費するダンジョンポイントはエグいものがあるけどな。

 走り始めるとすぐに後ろに数台ついてきた。ここまでは想定通り。二人の服のポケットからスマホと……ん?


「GPS追跡できる発信器も持ってたか」


 全部隣を走っている軽トラの荷台とかに放り込んでおく。

 まあ、追っかけてる連中からは丸見えだからだませるとは思ってない。単に気分的なものだ。


「マスター、追跡ヲフリキレマセン」

「気にするな。安全運転で行け」

「ハイ」


 しばらく進んでいくと交通量も減り、道を進むのは俺たちだけになる。当然どうにか俺たちを止めようと、ついてきた警察車両の台数も増え、速度も上がる。

 が、そろそろお帰りいただこう。


「ホイッと」


 警察車両の前にドスンと音がするほどの量の水を出す。車が潰れたりはしないが、視界を遮るのには成功。慌ててブレーキを踏んで衝突を防いだことについては褒めておこう。

 その間にこちらは交差点を曲がり、追跡を振り切ることに成功。

 びっくりするほど何の障害もなくダンジョンへ帰還した。

 竜骨ダンジョンに行くだろうって予想しないのかね?


「ぶはっ」


 気を失ってる二人に水をぶっかけて目を覚まさせる。 どっちが樽谷だっけ?ま、いいか。


「こ、ここは……まさかダンジョンか?!」

「貴様ッ!」


 慌てて起き上がりこちらと距離をとったりしてるけど、意味あるのか?まあ、いいけど。


「さてと、一応言っておこう。ここは「竜骨ダンジョンだな!」


 人が話そうとしてるのを遮るなよ。


「貴様……瀧川陽のなんだ?」

「どういう関係があるんだ?」


 機会があれば色々聞き出せとか言われているのだろうか、俺と瀧川陽の関係を聞き出そうとしているが、俺の答えはシンプルだ。


「答える必要はないな」

「何?!」

「貴様っ!自分が何をしているのかわかっているのか?!」


 うん、話が成立しねえな。


「とりあえず「質問に答えろ!」


 話が進まん。


「そっちの言いたいことはわかるが、先にこちらの話を聞いてくれないか?」

「誰が貴様のような怪しい奴の話を聞くものか!」

「そうだ!犯罪者に加担するような者の話など、聞く価値は無い!」


 うん、これ……ダメな奴だ。質問に答えろと言いながら聞くつもりが無いとか、矛盾しすぎだろ。


「あのな、俺は何かを主張しようとか「黙れ!」

「はあ……わかったよ。先にそっちの言いたいことを言ってくれ」

「フン、ようやくわかったか」

「まったく、手をかけさせやがって」


 それ、完全に悪役の台詞だよな。


「まず、お前は一体何者だ?」

「なんのためにこんなことをしている?」

「瀧川陽とどういう関係があるんだ?」


 ある程度予想していたことではあるが、コイツら頭悪いだろ。

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