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  作者: ひじきとコロッケ
迫本晴喜
55/105

(3)

「何か裏がある?」

「としか言えん。出来るだけ調べてみるが……結果が出るまで待つ気はないんだろ?」

「そりゃもちろん。肝心の俺が「何かの結果を待つ」事すら出来なかったんだからな」


 よく、殺人を犯した者への死刑について人権云々(うんぬん)が語られることがあるが、それらを一発で黙らせるのが「殺された人は「明日、あなたのことを殺します」なんて宣言されることなくいきなり殺されている。それに比べれば……」というのがある。まさにそれ。

 俺は完全に冤罪のまま、弁明の余地もなく有罪にされ、ダンジョンに放り込まれたのだ。彼らも同じ事を経験するといい、ということだ。

 そして俺がダンジョンに放り込むのは一度だけ。うまいことダンジョンから脱出できたのなら、それ以上は追求しない。残念ながら今のところ誰も脱出に成功していないので信用されない言葉かも知れないが、俺だって鬼ではない。俺の目的はあくまでも、俺と同じようにダンジョンの深層に理不尽にも放り込むことであって、殺すことが目的ではない。

 ほら、俺自身、法的には死んでるけど肉体的には死んでないわけだからな。


「さて、そろそろ帰るよ」

「待て」

「なんだよ。用事は済んだと思うぞ」

「これ、持っていけ」

「ん?」

「メッセージアプリのIDだ。何かあったら連絡しろ。俺たちはお前のIDを聞かないが、お前が連絡するつもりがあるなら、な」

「……わかった」


 そう言って立ち上がると、スッと母が俺の前に立った。


「大きくなったと思ったら小さくなって……でも、私の大事な息子よ」

「う……うん」


 ギュッと抱きしめられると何も言えなくなるな。と思ったら後ろから抱きついてくる感触。梢か。


「陽兄、無茶はしないで」

「お、おう」


 ゴツとこめかみに拳が軽く当てられる。聡だ。


「馬鹿兄貴」

「お前な」


「俺たちも色々調べてみる。元気でな」

「あ、ああ」


 ちょびっとだけ、家族っていいよなと思いながら家をあとにする。多分、これきりでもう来ることはないだろう。もし来るとしても、全員への復讐を終えてからか。

 玄関に並ぶ四人に手を振りながら歩き、少しずつ自分自身の姿を消して外へ。コインパーキングで車に乗り込み、首都高へ向かい、そのまま俺の家(ダンジョン)の方へ高速道路を乗り継いでいく。


「時間は程良いかな」


 そう。俺は別に家族に会うためにここに来たのではない。ま、ついでで寄ったんだけど、本命はこっち。これから一人、迫本晴喜を片付けるのだ。

 この迫本、一応働いてはいるのだが、父親の経営する会社で自由気まま。典型的なダメな二世。俺が捕まったときは珍しく朝から出勤していたという、なんとも運が悪いというか、間が悪いというか。そして働いていないくせに、週末になると愛車で関東圏を走り回り、週明けに地元へ帰るという、ここだけは規則正しい生活をしている。んで、その最中に色々と問題があるというか、罠にはめやすい要素があるというか。行動範囲が広いせいで、どこでどうケリをつけるか悩んだ。決まってしまえば、あとは狙い通りに迫本がいるかどうかだけ。いなかったら……もう、腹いせに自宅を襲撃して力ずくで連れ出すだけだ。

 高速を走ること二時間弱、目的地であるサービスエリアに到着。迫本の車が停まっているのを確認し、姿をどこにでもいそうな四十代男性に変えて中へ。フードコート付近に……いた。

 あとは簡単。適当にラーメンを注文してトレイに乗せ、迫本の前をわざと横切り、ぶつかった弾みでスープがちょっとかかる感じで。


「っと、すみません」

「チッ……うぜえな」

「だ、大丈夫ですか?すみません、ボーッとしてて」


 こちらを睨み付けてくるのに、内心「多分成功」と小さくガッツポーズしながら近くのテーブルへ着いてラーメンをすする。さて、さっさと食べて片付けよう。




 今日もまたいつも通り、首都高をぐるりと流し、地元にはない、高級な店で豪遊。お気に入りが体調を崩していて欠勤していたのが癪だが、また来週のお楽しみとして少し後ろ髪を引かれながら帰路につく。


「そろそろこの車にも飽きたな」


 人気がありすぎて納車まで半年以上かかるとかいう話に色々期待して乗ってみたが、もうちょっとこう、パワーがあるといいというか……うん、俺には三百万前後の車よりももう一桁上くらいの高級車が似合う。将来は地元じゃ結構知られた企業の社長だし、もう十年もしたら親父の地盤を受け継いで県議会議員というのが俺の人生設計。

 ぶっちゃけエリートじゃん?そんなエリートの俺に三桁万円の車なんて、って思うだろう?

 そんなことを考えながら思い切りアクセルを踏み込んで加速。

 ほら、やっぱり加速力がイマイチだ。

 次はどんな車にしようか考えながら、いつも立ち寄るサービスエリアに入ると、フードコートにいる連中を「ああ、やだやだ。貧乏だとフードコートしか入れないんだねえ」と呟きながら、そのすぐそばにある結構高い店に入り、ここでしか食えないメニューを堪能。これでまた一週間、下らない仕事――ぶっちゃけ次期社長の俺がなんで働く必要があるんだと思うが、フリだけでも働いてないと威厳がな――を頑張れると自分に言い聞かせ、外に出たところで、オッサンにぶつかった。

 危うくラーメンの汁がかかるところだった。おいオッサン、汚れたらどうしてくれる?お前の給料じゃとても買えないくらいのスーツだぞ?

 ボーッとしていたとか言ってたが……ったく、ここはしっかり俺がわからせないと(・・・・・・・)ダメだな。

また文字数読み違えてしまってちょっと少なめになってしまいました……

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