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  作者: ひじきとコロッケ
冴島彩花と赤谷弘幸
46/105

(2)

「というわけで到着だ!」


 空を飛んでも良かったが、ここは旅の情緒を味わおうと、電車を乗り継ぐこと一日半。途中でいい感じの温泉旅館に一番高い料金で泊まるという贅沢もしながら、開催期日通りに到着した。

 ちなみにここに来たことは一度も無いので、普通に観光するという意味でも楽しみであるが、まずは神議に参加しよう。えーと、確か、神様の宿泊施設があるんだったよな。そこに行けば入れるだろうから、まずはそこへ。っと、どこだっけ?えーと案内図、案内図……


「何しに来とんじゃわれえええ!」

「ぐはっ」


 唐突に後頭部に衝撃を受け、そのまま突っ伏した。


「何なんだよ一体……って、あ、お前!」


 時期的な意味を抜きにしても日本有数の観光地でもある訳で、周囲から注目されてしまった。って、俺の後頭部を全力でどついたのはあの八咫烏か!


「お前なあ……」


 頭をさすりながら立ち上がるが、周囲の反応がおかしい。まさか……


「コイツ、周囲から認識されていないのか」


 こっちは逃げも隠れもしていないのにあちらは人間から見えないようにしているとか、俺だけ恥ずかしい目を見てるじゃ無いか。


「卑怯者め」

「うるせえ、非常識」

「何が非常識だよ……って、コレも俺の独り言になってるじゃねえか」


 旅の恥は()き捨てと言うが、ちょっと捨てきれない量になってきてるぞ。


「ホレ」

「お?」


 八咫烏が何かをしたらしく、周囲から集まっていた視線が散らばっていく。


「へえ、俺も周りから見えなくなったのか」

「記憶消去もサービスしておきましたよ」

「うわっと!」


 いきなり足下から声がしたので驚いたが、今度はウサギだった。二足歩行の。


「ささ、こちらへどうぞ」

「お、おう」


 ウサギに先導されて境内を進んでいくと、カラスが飛んできて勝手に肩に止まった。

 端から見たらおかしな連中になってしまっているが、周囲からは認識されないだけでなく、他の人たちが自然に避けていくのが何とも不思議だ。


「すごいだろ。人()けの術って奴さ」

「お前じゃなくてこのウサギの術だろ」

「え?」

「わからないとでも思ったのか?」

「カンのいい奴め」


 カラスのくせに悔しそうな表情というのがまた何とも。


「そ、それよりも!」

「ん?」

「なんで正面から来るんだよ」

「そりゃ神議に参加するって」

「物事には順序ってのがあるだろ?」

「順序?」


 え?鳥居をくぐらずに入るとか?


「まあ、まあ八咫烏さん、新米の神様にはわからないことも多いわけですから」

「元は日本人だぞ!」

「神々の常識はまだ身についていないわけですし」

「むう」

「どうすりゃ良かったんだ?」

「稲佐浜だよ」

「えーと、確かここから少し行ったところの浜だっけ?」

「そうだよ。一旦浜に降りて、それからここまで誘導されてくるんだよ」

「浜にはどうやって来るんだ?」

「え?」

「え?って、知らんし」


 八咫烏がグラリと揺れて地面に落ちた。


「おーい」

「なんてこった……コイツ、何にも知らないのかよ」


 とりあえず来年からの行き来についてウサギに教えてもらったのだが、


「煙ねえ……」

「ええ、神社で焚き上げて、と言う流れになります」

「そういうことだから、来年からは!」

「待て」


 興奮気味の八咫烏を制する。


「俺んとこ、神社がなくなってるんだけど」

「なんてこった!」


 とりあえず、近くの神社の神様と一緒に移動でいいらしいので、来年からはそうしよう。


「来年からって……今年の帰りもだぞ!」

「いや、せっかく来たから観光したいんだけど」

「お前なあ!」


 そんなやりとりをしながら十九社(じゅうくしゃ)へ到着。


「一応ここが神様の泊まるところってのは知ってたけどさ、日本全国から集まってたら、ぎゅうぎゅう詰めじゃね?」

「大丈夫ですよ」


 そう言うウサギについて入ると、


「おおおお!って、ホテルのフロントか!」

「まあ、神の世界も近代化が進んでおりまして」


 温泉のある和風の観光ホテル、というのが一番わかりやすいたとえになりそうなフロントへ荷物を預け、部屋の鍵を受け取る。


「まさかのカードキー」

「十年くらい前に導入されました」

「マジか」


 そんなやりとりをしながら案内された先は……宴会場だった。

 いや、正確には神議の間なのだが、どう見ても宴会である。

 はるか遠く、向こう側がかすんで見えるほどの広い畳敷きの部屋には所狭しと料理の置かれたテーブルが並び、足の踏み場がかろうじてある程度の密度でさまざまな姿をした神々が大騒ぎをしている。


「こちらへ、あ、足下気をつけて」

「お、おう」


 足下に転がるビール瓶――銘柄はエ○スが一番多く、次がキ○ンだそうだ――を踏まないように気をつけながら進んでいった先には他の神よりも二回りは大きい体格の男が座っていた。


「大国主さま、こちらが」

「おう、良く来たな」

「えーと……大国……大国主命?」

「うむ。如何にも。私が大国主命だ」


 部屋が広すぎてわかりづらいが、どうやらここが上座らしく、当たり前と言えば当たり前だが、この場で一番偉い神様が座していた。


「まあ飲め」

「え?」

「いいから飲め」

「えっと」

「俺の酒が飲めないとでも?」


 日本の神様の頂点にいるような神様からのアルハラである。

 飲みに来たのにアルハラだと騒ぐのもアレだし、付き合いというのもあるし……と言う以前に、神様の飲む酒には興味がある。何より大国主命に酒を勧められるなど、普通ならあり得ない経験。


「では……一献」

「うむ」


 ポンと手元に徳利とお猪口が出てきて、酒が注がれる。

 えーと……突っ込みどころが多いんだが。

 お猪口ってこんなにでかいのか?大相撲で優勝力士があおる杯よりデカいんだが。

 んで、そこに注がれている酒が、トクトク……ではなく、ドバドバなんだけど。

 オマケに目算でバケツ三、四杯はいっているはずなのに、溢れる様子がない。と言うか、そんな量が出続ける普通サイズの徳利。


「さ、ぐいっといけ」

「は……はあ」


 多分、風呂桶一杯分くらい注がれたのに溢れるどころか大して重さも感じないという謎の現象が起きているし、なみなみ注がれている熱燗だから立ち上る酒の香りだけでも酔いそうだ。


「よいしょ……と」


 こぼれそうなほどなみなみ注がれた杯に恐る恐る口をつける。


「うまい」

「だろう?最近の酒はうまくなったものだ」


 周囲にいた神々も「そうだな」「待て待て、コイツも飲んでみろよ」等と盛り上がる。……どう見てもあそこに転がっている酒瓶の中身っぽいんだが、スーパーでも売られてるような酒だよな。普通に印刷されたラベルが貼られてるし。

 きっと、酒の神様とかそう言う神様が色々やったんだろう、と考えることにした。


「ま、楽しくやってくれ」

「はい」


 どうにか飲み干す――龍神だけにウワバミだな――と、背中をバンバン叩かれながら言われた。新人が景気よく飲んだので上機嫌らしい。

 その後、会場内を「こっち来て飲めよ」「おう、新入り!これ食え、これ」みたいなのに引っ張り回されていく。

 そして、行く先々で質問攻めに遭うのだが……答えられる事って少ないんだよな。ほぼほぼ人間の延長線上にいるし、ダンジョンマスターだしで、神様っぽいことなんて一つもしてない。

 と言うことを言ったら「それを言ったら俺も何もしてないぜ!」「俺も俺も」「あんたらねえ……私もだけど」だとさ。

 日本の神様、ユルすぎ。

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