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  作者: ひじきとコロッケ
名里伸吾と宮吉真人
43/105

(3)

「お前らの方がよっぽどクズだけどな」

「え?」

「まあ、駅員だから職務上仕方ないという部分もあるかなと、少しだけ良心を期待したけど無駄だった」

「な、何を言って……」

「ここは……瀧川陽が送り込まれ、奈落の底へ落ちていった竜骨ダンジョンだ。お前らもダンジョンの奥深くで彼が味わったのと同じ絶望を味わえ……そして、二度と日の目を見る事無くこの世を去れ」


 そう言い残して部屋を出て行くのを慌てて二人が追う。

 が、ドアを出た先を見て愕然(がくぜん)とする。


「なっ!」

「言っただろう?ここはダンジョンだ」


 そう言い残すと、そのまま立ち去っていく。


「なんだ……これ」

「どこだよここは?」


 さっき入ってきた時までは普通の、何度も通った事のあるただの廊下だったはずなのに、今はゴツゴツとした岩がむき出しの洞窟のようになっている。

 そして、遠くからカッカッカッと遠ざかるように駆けていく足音。


「追うぞ」

「ああ」


 ここがどこなのかわからないが、置いてきぼりにされてはかなわんと足音を追いかけて走り出す。その直後、彼らの背後にあったはずの扉が消えた事にも気づかずに。




「こんなもんかな」


 二人が揃って寮の部屋に集まり、飲み始めてくれたのはありがたかった。まとめて運べるからな。

 酒に少しばかり薬を混ぜてやれば、あっという間に眠りに落ち、そのままダンジョンまで連れてくるだけで完了だ。今回の場合、ダンジョンまで連れてくるのが一番大変だった。寮からダンジョンまで距離があったからな。と言っても、車に乗せてしまえばダンジョンまで直行するだけなんだが。

 そのあとはダンジョン内に作ったセットで起きてもらい、適当に飲み食いさせて、外へ。外と言ってもダンジョンの中だけどな。

 ちなみにここはダンジョンの七層だから、ダンジョン探索経験のないあの二人がどのくらい生きられるかというと……どうでもいいか。

 それにしても、俺の定期まで処分していたとはね。

 俺が何を言っても「嘘をつくんじゃねえ!」となるのも無理はないし、会社が「瀧川はあの日は夜勤明けで」と言ってもあまり効果がなかったというのも……はあ。

 そりゃそうだろうよ。会社にしてみればさ、通勤手当として定期代を支給しているのに、俺が定期を使っていませんでした、みたいな話になったら、何だかなって事にもなるだろうさ。

 とりあえずあの二人が色々とやってくれたクズ人間というのはよくわかったというか、他にも似たような事やってんだろうなとか、それを黙認している鉄道会社ってどうなんだとか色々あるけど、とりあえず過ぎた事としておこう。


「ん?」


 過ぎた事に出来そうにない事態、かな?

 探索トップチームの記録を大幅に塗り替えるペースで、俺の両親が七層まで来ている。


「あの二人に見つかるとちょっと厄介だな」


 このダンジョンで始末しているというのは薄々気づかれているだろうが、二人が見つかると確実な情報になってしまう。別に、ターゲットを力ずくで連れてきても構わないのだが、あまり露骨にやると、そもそものダンジョン探索者が寄りつかなくなってしまい、ダンジョンポイントが稼げなくなってしまう。ダンジョンポイントは俺の活動資金だから、稼げなくなるのは困る。

 と言う事で、両親の方へ介入する事に決めて、先回りをする。




「あっちで足音……それと人の声だ」

「おかしいわね。この数日、この深さまで潜っている探索者はいないって話だったと思うけど」

「行ってみよう」


 そう言って足を速める瀧川哲平と知里の後ろから、同行している自衛隊員が声をかける。


「モンスターがおびき寄せるために声を擬態しているという可能性はありませんか?」

「それならそれで、狩るだけだ」

「わかりました」


 言ってのけた事をやり遂げるだけの実力がある事は承知しているので、そのまま後に続いていく。


「こっち……この広間の向こう側……あのへんに通路があるな」

「気をつけて、こういうところに結構罠が仕掛けてあるから」

「ああ……ん?」


 音を追っていった先が少し広い空間になっており、その先へ進もうとしたところに、突然現れたのは……


「お前か」

「ども、鬼火ダンジョンで会って以来ですね」

「フン」

「いやー、あそこから無事に脱出とはさすが。お見事としか言い様がないです」


 わざとらしく拍手なんかしやがった。


「どけ」

「お断りします」

「ほう?」

「この先に進みたい理由については何となくわかりますが、それならなおのこと、妨害します」


 目の前の奴が(まと)う空気が変わった。こいつはこのダンジョン、竜骨ダンジョンのダンジョンマスター。このダンジョンにおける絶対者であり、その真価を発揮出来る場所と言うことか。


「一応言っておくけど、俺は「陽、だな」

「は?」


 後ろにいる集団に聞こえない程度に呟いた声に思わず呆けた声が返ってきた。


「姿形、声色などを取り繕っているが、ちょっとした仕草、口癖……」

「自分の息子だと気づかない親がいると思う?」

「……ふーん」


 哲平がチラリと知里に視線を向けると、心得たとばかりに知里が自衛隊員たちに下がるように言う。


「アレは……私たちの手にも負えないほどの化け物よ」

「え?」

「一応、会話は出来るから……どうにか説得してみるわ」


 何をどうやって説得するのかという問いかけをする間もなく後ろに下がらされ、仕方なく、周囲の警戒をしながら待つ事にする隊員たち。


「その姿は一体何だ?」

「答えるつもりはない」

「そうか……では質問を変えるか。何をしようとしているんだ?」

「それも答えるつもりはない」

「復讐か」

「さて、どうだか」


 哲平が一応は攻撃する意志があるかのように剣を構えたまま続ける。


「真実が何なのかは俺たちにはわからん。お前が逮捕されたと聞かされたのは初公判の前日(・・・・・・)だったからな」

「……」

「立場的にお前を擁護するわけにも行かないが、せめて面会くらいはと思ったのだが、許可が下りなかった」


 両親の言葉に引っかかる物を感じた。

 許可が下りない?オフィサーは国家公務員に相当するし、二人とも世界トップクラスの探索者。俺がとんでもない凶悪犯、例えば二桁殺した通り魔殺人犯だとかなら話は別だが、痴漢だぞ?冤罪だけど。それが面会すら出来なかったとはどういうことだ?


「どうやら、何かおかしな事になっているようだな」

「みたいだな……はあ、面倒くせえ」


 えーと、あの駅員二人は……良し、これなら大丈夫だな。


「帰る」

「は?」

「帰るって言ったんだよ、じゃあな」

「待て」


 とりあえず目的は果たしたので帰ろうとしたら引き留められた。何だよ、これ以上何があるってんだよ。


「この先に、何がいるんだ?」

「モンスター、それも結構強い奴」

「他には?」

「人間……いや、人間だった(・・・)モノ、二人分」

「もしかして?!」

「そういうこと。じゃ、そういうことで」

「「「待て!」」」


 さすがに俺の台詞は聞き捨てならなかったのか、距離を詰めてきていた自衛隊員たちが周囲を囲んだ。ざっと見たところ、俺の両親の足元に及ぶかどうかと言う、それなりの手練れだな。ま、七層まで来てるくらいだから当然と言えば当然か。


「どりゃああ!」

「はあああっ!」


 二人が息ぴったりに飛び込んでくるのをかわす。いや、かわそうとして気付いた(・・・・)。これは避けちゃダメな奴だと。


「ぐあっ」


 振り上げた剣の間合いの内側にあえて飛び込み、体当たりを食らって吹っ飛ぶと、さすがに巻き添えを食うつもりが無かったのか、自衛隊員が避けたので、そのまま包囲陣から外へ転がり出た。

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