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  作者: ひじきとコロッケ
名里伸吾と宮吉真人
41/105

(1)

 さて、裁判員を狙うのは一旦休止。

 残り一人と言うこともあって、監視が強化されているのがよくわかる状況なので、あとにしよう。もちろん、あんな監視など気にせずに連れ去ってもいいのだが、あえて放置することで「どうやら諦めたのか?」「まだ油断は出来ない」という緊張感の持続をしていただくというのもまた一興。

 存分に神経をすり減らしていただいた上で、改めて連れ去って心をへし折ってやるからしばらく待っていてくれ

 さて、次に狙うのは駅員二名、名里伸吾と宮吉真人だ。まあ、何というか……この二人のシフトを確認した結果、今のタイミングがよい、となったのが一番の理由だな。

 コイツらには俺を取り押さえた以外にも余罪があると言っておく。

 あのとき俺は「家に帰るところだった」と何度も証言したが「嘘をつくな」で却下された。

 なぜか。

 この駅員二名が、俺の乗っていた電車の行き先を偽証したからだ。

 あのとき俺が乗っていたのは下り列車で、会社から自宅に向かう方向。ところがコイツらは反対側のホームを通る上り列車だったと証言したのだ。

 もちろん、俺の定期がいつ改札を通ったかというのを調べれば、嘘だってわかるのだが、コイツらが俺の定期を踏み潰して割ったせいで定期の履歴を見るのに色々と手続きが必要になった……ということで警察はもちろん、弁護士も定期の履歴をチェックしなかったんだ。色々とおかしい裁判だが、証拠を集める努力をしなかったというのもどうかと思う。が、コイツらが俺の定期を踏み割った理由の方が優先された。


「定期が無ければ改札を通るときにゲートが閉じる。もちろん強引に進むことは出来るが、若干足止めになる。逃走防止のためにやった」


 俺が逃げないように、ということを過剰に評価した結果、俺がどこから乗ったのかという事実確認は行われなくなったんだよ。全く……クソ捜査だよな。今さらだけどさ。

 と言うことで、コイツらのシフトは駅事務所に忍び込んで定期的にチェックしていたんだが、二人揃って休みというタイミングがちょうど来たので、狙うことにしよう。




「ふう……疲れたな」

「おう、お疲れ」

「お疲れさん」

「ははっ、どうした?」

「どうしたもこうしたも……シフトが微妙でさ。六日間連続だぜ」

「マジか」

「ったく、やってらんねえぜ」


 愚痴を言い合いながら荷物を手に通用口を出るとそのまま社員寮までの道を歩く。


「ま、明日から二日間休みだからな。ゴロゴロするさ」

「お?お前もか、俺も二日休みだぜ」

「マジか」

「……久々に飲むか?」

「いいな。何かあるか?」

「んー、ビールが何本かあったか……な?」

「買いに行こう」

「だな」


 ヘラヘラと笑いながら寮の部屋に入るとラフな格好に着替え、連れだってコンビニまで向かう。


「缶ビールが一本しか無かった」

「じゃあ、十本くらい買ってくか」

「ハイボールもいいな」

「つまみ、何にする?」

「イカとサラミ、あとは」

「お、焼き鳥残ってるぜ」

「いいねえ」


 両手に酒とつまみを詰め込んだ袋を提げて寮に戻ると、そのまま名里の部屋へ直行。


「じゃ、お疲れさん……乾杯!」

「乾杯!」

「ぷはぁーっ!」

「くぅーっ!」

「この一杯のために生きてるっ!」

「大げさ!わかるけど!」


 同期で同じ部署に配属されて以来、何となく気が合う二人が飲むペースは早く、一時間もしないうちに二人とも完全に出来上がり、呂律(ろれつ)の回らないまま愚痴を言い合い、ストレスを発散していく。

 月に一度くらいはこんな夜があってもいい。二人ともそう思いながらぐるんぐるんと回り始めた視界で笑い合った。

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