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「それに、俺はダンジョンに連れてくるだけで、殺していない」
「いや、下層に連れて行く時点で殺しているようなものだろ?」
「俺はいきなり下層に落ちたわけだ。ロクな装備も無しに。運良くこうして生きているがね」
「つまり……冤罪でダンジョンに送り込まれたのと同じ目に遭え、と言うのが」
「俺の復讐だ」
そう、連中だって俺を殺そうとしたわけではない。結果として死んだわけだが、ダンジョンに送り込むまでが連中のやった事。ならば俺がやるのもダンジョンに引きずり込むまで。そこから先は運次第だ。
「そんなわけで、特に何かをするつもりはない。だいたい、コア部屋に来るのだって、簡単じゃないしな」
「まあ、そうだな」
とりあえずこれ以上は見ていても面白いものはないぞと追い返した。まだ後片付けがあるんでな。
水牧雄二の姿を自分にかぶせて、高級外車を運転し、レンタカー会社へ。店先に車を止め、ダンジョンポイントを返還して用意した札束を持って入る。
「すみません、車を返しに来ました」
「あ、はい」
カウンターでキーを渡すと向こう側でカタカタとキーボードを叩く音がして、紙がプリントされてきたので内容を確認。と言っても俺が借りたわけじゃ無いからな。まあ、返却手続きなんて、「時間内に返ってきました」にチェックを入れれば終わりだからこれで終了のハズなんだが……ハア。コイツ「保険に加入します」にチェックを入れてない。予想通りだけどな。
「ええと……恥ずかしながら」
「何でしょうか?」
「少しこすってしまいまして」
「え?」
受付のお姉さんの表情が固まった。そりゃそうだ。あんな高級外車、こすったりしたら修理費用がいくらかかるのやら。
「え、えと……あの、ちょ……ちょっとお待ちくださいっ」
バタバタと奥へ駆けていき、上司らしい人が出てきた。
「申し訳ありません、お客様」
「はい」
客でも何でも無いんだが。
「失礼ですが、お時間よろしいでしょうか」
「ええ……」
いやです、面倒臭い。言えないよな……言いたいことも言えない、こんな世の中だ。
「まずは現状の確認をさせていただきます。その上で……」
「そのことなんですが」
「はい?」
「これで、お願いします。釣りはいりませんので」
百万の札束を二つトンと置く。いくら高級外車と言っても、バンパーをこすった程度なら、これで十分だろう。十分すぎて余った分を経理上処理するのが少々面倒だろうけど、そこはごめんなさいと心の中で謝っておく。これ以上あんな奴の後始末をするつもりはない。
「と言うことで、これで失礼します」
「あ!あのちょっと!」
さっさとドアを開けて出て行く俺を必死に呼び止めようとしているが、もう遅い。店を出たらすぐにダッシュ。周囲からの奇異の目線も水牧宛のものだからな。俺には関係ない。
「次はもう少し楽に行きたいんだが……そうは行かないだろうな」
面倒と言えば面倒だが、時間だけはたっぷりある。焦らずじっくり丁寧にやろう。
文字数カウントミスったので、本日は2話更新です。