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  作者: ひじきとコロッケ
水牧雄二
39/105

(3)

 待ち合わせ場所にした駅前ロータリーで適当にそれっぽい格好の幻影をかぶせて待っていると……来た。わかりやすくドイツ製の有名&定番高級車で。


「お待たせしました」

「いえ、今来たところです」


 ありがちな会話をしつつ助手席へエスコートされてやったが……コイツ、手つきがキモいな。コイツを片付けたら風呂でしっかり洗い流そう。

 車がゆっくりと走り出した。


「その……どちらまで?」

「実は、眺めの良いレストランを予約しています?」

「レストラン?」

「ええ……」


 そう言って水牧は海沿いにあるホテルの名を口にした。下心が丸見えすぎて変な笑い声を出しそうになるのをグッとこらえ、目的地変更を告げる。コイツの言うとおりにレストランに行ったりしたらそのあとの移動が面倒になるじゃないか。


「その……実は」

「なんでしょうか」

「恥ずかしながら……その、年甲斐もなくはしゃいでしまっていまして」

「え?」

「うちの料理人たちに……フルコースを指示してしまっているんです」

「料理人……フルコース?」

「ええ。元二つ星レストランのシェフでして」

「そうですか……えっと……つまり」

「自宅です。それほど大したものではないのですが……その……」

「構いませんよ。逆に楽しみになってきました!」


 自宅(・・)にしている場所を告げてナビをセットして……さて、黙って乗っているのもいたたまれないので、少々心を(えぐ)っておくか。


「運転、慣れてらっしゃらないので?」

「え、ええ。買い換えたばかりでして」

「あら、本当?」

「ええ。その……ちょっと大型の案件が片付きましてね。自分へのご褒美って奴ですよ」


 運転下手くそですねが効かないだと?


「すごいんですね」

「ははっ、実際には節税ですよ。会社所有ってことにすれば経費で落ちますからね」


 たまに聞く話だな。実際に経費として認められるかどうかは、実態確認の上、らしい。会社で社長が乗り回すために、ということで高級車を買うのは問題ないらしいが、その車を私的に使っているとしたらそれは社長の収入に含めて所得税がかかるらしい。まあ、いちいち個別の会社を調べて回る税務署は無いと思うけど。

 そんな事を考えている間に、用意しておいた屋敷(自宅)へ到着。適当に庭先に車を停めてからそっとため息をついた。

 これ、「わ」ナンバー(レンタカー)じゃねえか……誰が返しに行くんだよ。

 返さずに処分するというのもアリだが、レンタカー会社に恨みはない。仕方が無いから代わりに返しに行くか……って、コイツ、前のバンパーこすってるじゃないか!面倒事が増えた……どうすんだよ、これ。

 どうしてくれようかと考えつつも、表面上はにこやかに玄関を開けて中へ。そして、扉を閉めたと同時に転移して始末部屋へ。


「ななななっ、こ……ここは……?……ぐぇっ!」


 こちらを振り返ったところで鳩尾(みぞおち)を軽く蹴り飛ばしつつ、自分にかけておいた幻影を解除。


「だ……誰だよお前?!」

「お前さ……見栄を張るのは良いよ。男として譲れない部分があるってのもまあ、わかる。だけど、分相応って言葉、知ってるか?」

「うぐ……は?え?えぐっ!」


 こちらの話を聞いてないようなのでもう一発。


「あの車、返しに行ったら修理費請求されるだろうが!ったく……面倒くせえ!」


 もう一発蹴りながら、スーツの内ポケットから財布を抜き取る……ダメだな。修理費を払えるほど持ってない。カード……は利用限度一杯だろうな。レンタカーの会員証だけは抜いておこう。多分返すときに必要だから。


「あっ!何……をっ!」

「瀧川陽」

「ゲフッゲフッ……え?」

「お前に殺された(・・・・)瀧川陽に代わってお前を殺す……わけではない」

「は?」

「お前、あの事件、本当に瀧川陽が有罪だと思ってたのか?」

「え?それ……は……」

「どうせ何も考えてないんだろ?んで、自称人権団体の関係者とかいう女二人が「有罪だ!死刑でも良い!」とか言ってるのを聞いて、有罪でいいやって考えたんだろ?」

「う……」


 図星かよ。


「ま、裁判員のお前らに事件の調査をするのは無理だというのは理解しているが、本人が冤罪を主張していただろ?」

「そ……それは……」

「どうでもいいか。とりあえず、だ。お前も冤罪に加担した一人として俺がここで罰してやる」

「罰する?え?」

「ここは、瀧川陽が送り込まれ、命を落としたダンジョンの下層。お前をここに放置するから後は勝手にしろ」

「え?勝手にって!そんな!無茶な!」

「お前らのせいで、瀧川はその無茶をやらされたんだがな……そうだ、一つ良い事を教えてやろう」

「え?」

「このダンジョンに、世界トップレベルの探索者が来ている。ここまで来るのにどのくらいかかるかは知らんが、うまく行けば助けてもらえるかもな」

「ま……マジで?!ぐぁっ!」


 鬱陶しい事にすがり付いてくるので蹴り飛ばす。うん、怪我させない程度に手加減って難しいな。


「それじゃ、そういうことで」


 さっさと転移してコア部屋に。さて、どうなったかな?




「ここにいたか」

「おう」


 ウラの近くに転移して様子を見ると、ダンジョンのモンスター相手に危なげなく戦い、圧倒している一行がその視線の先に。まだ二層だから余裕だな。


「かなり早く二層に来たんだが、いいのか?」

「二層に行くだけなら俺も行ったぞ」

「え?初日でいきなり?」

「おう。そして落ちたんだ」


 ウチのダンジョンは三層に行くだけ(・・)なら一日で行けるんだよ。そこから先は長いし、最下層にも行けないし、最下層に行ってもダンジョンコアはないけど。


「それにしてもあの二人はとんでもない強さだな」

「いや、お前のダンジョンでそれは見てたんだろ?」

「それはそうだが、戦闘的な強さではなくてな……ダンジョン攻略のセンスというか」

「ん?どういうことだ?」

「このまま行くと、三層だろ?」

「んー、そうだな」

「そういう、先へ進む道を見つけ出す嗅覚って言うのか?そう言うのがすごい」

「と言っても、外れルートなんだが」

「それな」


 とりあえずあまり近くにいて見つかっても面倒なのでその場を離れる。


「ところで、どうするんだ?」

「どうって?」

「あの二人とか、自衛隊とか始末するんだろ?」

「あのな」


 コイツ、俺の今までの説明を全く聞いてないだろ。


「俺は、俺を殺した直接の原因、冤罪を生み出した連中だけを狙ってるって言っただろ?」

「でもよ、両親だって」

「それなら、お前のダンジョンで遭遇したときに始末してる」

「う……まあ、そうかも知れんが」

「確かに両親に色々と思うところはあるが、それはそれ。その線引きをキッチリしておかないと、俺はただの無差別大量殺人者になっちまう」

「ダンジョンマスターって時点で、無差別に殺してるだろ?」

「あのな。ダンジョンという命に関わる危険がありますよと看板掲げてるところに来て勝手に死ぬのは自業自得で自己責任。だいたい、ダンジョンにモンスターが配置されている事に探索者連中(あいつら)は文句を言ってるか?」

「言ってないな。死ぬ直前にはわめき散らしたりするが」

「死ぬ直前は誰だってそうだろ?で、俺がやっているのはこちらから出向いてダンジョンに連れ込んでる……つまり、俺が殺そうと思ってやってる事だ」

「勝手に危険なダンジョンに来て死ぬのは勝手だが、ってことか」


 おそらく、俺がこの先復讐を進めていく過程で、両親や弟たちと対峙する事もあるかも知れない。だが、その時も俺はまともに戦ったりするつもりはない。俺がその気になればいつでも殺せるってのは確かにあるが、それ以上に、復讐以外で殺すのはダメだ。改めて自分に言い聞かせておく。それが、俺が俺である、ギリギリのラインだと思う。

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