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  作者: ひじきとコロッケ
平藤拓也
31/105

(1)

 守道をあっさり片付けてしまい、裁判員に送った指定日まで結局ほぼ丸々一ヶ月余裕が出来てしまったので、その間に一人片付けることにする。方針は固めてあるのでサクッと行こう。

 次のターゲットは平藤拓也。俺を電車で取り押さえたうちの一人だ。

 居場所、つまり住所も勤務先もわかっているし、行動パターンから推測するに誘い出しと言うこともわかっているからだ。と言っても、瀧川陽事件の関係者という推測が警察内で広まった結果、監視下に入ってしまい、簡単には接触出来ない。だが、あからさまな接触が出来ないと言うだけで、当人は比較的自由に行動出来ているので、一般人として近づけば何とかなると思っている。ま、最悪は守道の時のように強引に行けばいいんだし。

 さて、コイツに関してわかっていることは……

年齢二十八歳、一人暮らしで実家はかなり遠い。

 勤め先は比較的知名度の高い企業だが、結構(かなり)ブラックで、行きはともかく帰りは終電ギリギリが当たり前。もちろん薄給サビ残で自覚無し(調教済み)。俺も人のことを言えるほど稼いでなかったが、コイツのはすでに色々と労働関係の法律違反状態だ。

 そして、彼女いない歴が少なくとも五年以上。んで、金がないのに風○通いがやめられず、結構カツカツの生活を送っている。

 よしよし、お前のようなクズを救ってやる。その厳しい生活から解放してやるからな。苦しい生からの解放って奴だ。お、何か神様っぽいことを言えたな。生きることは苦しみである、みたいな。

 さて、それはそれとして、まずは下準備として、平藤が通勤時に持っているバッグの中にGPS発信器を放り込んだ。程々に混み合った電車内ではそれほど難しい作業ではなかったよ。バッグの内側の小さいポケットに入れたので多分気付かないだろう。バッテリーは一週間ほど保つタイプなのでその間に事前の仕込みを進めていこう。

 仕込みは至って簡単。GPSで平藤の退勤を確認して最寄り駅で待ち、俺自身にそこそこ美人の幻影を被せて、いかにも近くに住んでるんですよ的な感じで階段ですれ違うだけ。初日にちょっとスマホに集中しすぎてぶつかりそうになるというイベントを仕込んでおき、翌日からはちょっと申し訳なさそうに会釈。三日もすれ違うようにしておけばどうなるかというと、すれ違うときに笑顔で「どうも」なんて声をかけてくるようになっていた。

 アホかコイツは。鳥肌が立ったぞ、どうしてくれる。

 で、今日が四日目。仕込み第一段階の最終日。GPSは……現在駅まで数百メートル。終電まであと十五分。どこかに寄り道する可能性はない。アイツが通い詰めている風○店はアイツのアパートの最寄り駅そばだし、給料日前だからそんな店に行く余裕も飲んで帰るような金の持ち合わせもないだろう。途中のコンビニで酒を買って帰る可能性はあるが、終電を逃したらそれもパーだ。と言うことで順調に駅へ向かっているので、予定通りに進める。




 平藤のペースに合わせて階段を下り始める。設定としては今年大学を卒業して働き始めた……職業は何にしようか。ま、いいや、聞かれたときに思いついたのを答えればいい。そんな感じの社会人一年生としておく。そして階段残り四分の一あたりで平藤が階段下にさしかかり、こちらに気付いて笑顔を見せた。

 キモいからやめて欲しいんだが。

 ま、それはいいや。作戦続行。こちらも気付いたよと軽く会釈しつつ、階段を軽く踏み外す。

 ガクリと体が倒れ、肩にかけていたバッグから色々と荷物が転がり落ちる。


「危ない!」


 短く叫んで平藤が数段駆け上がり、俺の体を支える。

 臭ッ!タバコ臭ッ!

 なんとか我慢しながら、体勢を立て直し、「あ、ありがとうございます」と消えそうな声でうつむきながら言う。傍目には、恥ずかしくてまともに顔が見れません、的な感じ。本音は、臭いから顔をこっちに向けるな、だ。

 平藤と共にがあちこちに散乱した荷物を拾いながら、こっそり平藤のバッグに潜ませていたGPS発信器を回収。


「ハイこれ、大丈夫?怪我はしていない?」

「は、ハイ……あ、ありがとうございました」

「いえいえ、怪我がなくて何よりさ」

「はい……」

「それじゃこれで。気をつけて帰ってね」

「あ、あの!」

「ん?」

「改めてお礼がしたいので連絡先を教えて下さい」


 さすがにメアドはちょっと……と言うことにして、メッセージアプリのIDを交換して別れた。

 終始鼻の下が伸びっぱなしの間抜け面に笑いをこらえるのが、今回一番大変だったところだな。

 一応、周囲を確認しておいたが、警察の監視が付いていた。だが、このくらいだと彼らは動かない。当たり前だけど、こんな階段で転びそうになってぶつかったのを支えるなんてのはよくある日常風景。相手の素性はわからなくとも、ここ数日すれ違って挨拶らしいことをしている様子を見せているから、怪しいとは判断されまい。あとは二人が惚れた腫れたの色恋沙汰。さすがの警察も平藤の恋路を邪魔したりはしないだろう。もしも邪魔するようならスレイプニルでも呼び出して蹴り飛ばすだけだ。

 つまり、これから俺が平藤をどこに呼び出そうとも、警察がそれを止める手立てはないというわけ。これで仕込みは万全。あとは適当にメッセージを送ればいい。

 問題は、俺の部屋、ダンジョンだから電波が届かないって事なんだよな。

 仕方が無いので平藤と別れてから、急いでダンジョンに戻ると、駅に一番近いところにアパートを作る。その二階に女性が一人で住んでる感じで部屋を用意。2LDKでちょっと広すぎかも知れないが、郊外だから家賃が安いことにしておけばいいか。新品感が抜けないが、色々あってこっちに引っ越したばかりということにしておけば問題ないだろう。不便だが、作戦遂行中はここで過ごすしかないか。何か色々穴だらけの作戦だと反省。次回に活かそう……って、いざとなれば力ずくになるだけだからどうでもいいか。

 そんな用意をしている間に、スマホから着信音。


 >今日は大丈夫だった?捻ったりするとあとからひどくなることがあるから気をつけてね


 コレに返事出すのか……自分で考えた作戦ながら、かなり後悔し始めている。だが、我慢だ。


 >念のため湿布を貼っておくことにします。今日はありがとうございました


 送信する度に(SAN値ではない)がガリガリと削られそうなので早めに片を付けよう……返事が来た。


 >お大事に。おやすみなさい、良い夢を


 今すぐ会って殺したいって、返したい。




 準備らしい準備はないが、それっぽく(・・・・・)するために少し時間を空け、土曜の午後にアパートまで呼び出すことにした。何、簡単なことだ。


 >この前のお礼をしたかったのですが、引っ越しがあって落ち着かなくて。ようやく落ち着いたので、お食事でもいかがですか?あまり自信はないですけど、頑張って腕を振るいます


 自分でこの文章を打ち込んでいて情けなくなったが、コレが最後だと自分に言い聞かせて送信。一分も経たずに返事が来た。もちろんOKで。




 そして指定した日時、平藤がアパートまでやって来た。念のために周囲を確認したが、警察の監視はないようだ。仮にも竜骨ダンジョンの近くなんだが……ダンジョンの外まで領域があるというのは知られていないから、危険は無いと判断しているのかね。まあいい。邪魔がないのは楽だ。それに警察がいたとしても別に問題は無い。ただ単にアパートの女の部屋に入った平藤が消え、その部屋の中身が空っぽになり、いつの間にかアパート自体が消えるだけだし。

 さて、出迎えるにあたり、2LDKの奥の部屋へのドアは閉じておく。


「い、いらっしゃい。入って」

「お、お邪魔しまーす」


 少しは疑えよと思うが、頭の中身がだいぶピンク色になっているようで素直に従った。このまま背後からブスリとやっても大丈夫なレベルだな。


「へえ……ここが」

「あ、あのっ……あまり見ないで下さい」

「あはは、ゴメンね……あれ?奥にも部屋があるの?」

「あ、はい……その……お、驚かせたくて」

「へえ……どれどれ」

「ま、待って下さい!」

「え?」

「目、目をつぶって下さい」

「目を……うん、いいよ」

「これを」

「目隠しか、本格的だね」


 実に素直に目隠しに応じる。馬鹿だな、コイツは。


「こっちです」


 目隠しした状態でスイスイ歩けるわけがないので、仕方ないから手を繋いで誘導する。つか、強く握ってくるな気色悪い。後で念入りに洗おう。イヤ、切り落として再生したいくらいだ。

 さてと、きちんと本人の同意を得ているのでダンジョン内へすんなり転移。九層の収容所へご招待して目隠しを取ってやるなり腹に一発蹴りを入れて数メートル吹っ飛ばす。


「ぐあっ……な、何を……え……こ、ここ……どこ?」

「一度に色々質問するとは良いご身分だな。だが特別に答えてやる」

「お、お前……は……?」


 コイツが勝手に恋心を抱いていた姿はもちろん幻覚。いきなり別人が現れてかなり混乱しているようだが別にどうでもいい。


「ここは竜骨ダンジョン。お前たちによって冤罪になった瀧川陽が命を落とした場所だ」

「瀧……え……ダンジョン……命を落とし……え?」

「正義の味方を気取って、何もしていない無辜(むこ)の人間を有罪に仕立て上げた気分はどうだった?」

「え……と……」

「完全な冤罪被害者を創り上げた気分はどうだ?そしてその冤罪被害者が死んだ場所に連れてこられた気分はどうだ?」

「冤……罪……?」

「これ以上は説明する気にもならん。とりあえずここが人類が未到達のダンジョン深層だと言うことだけ知って、ここで野垂れ死ね」


 何か言いかけていたが聞く耳持たずに転移。アパートの部屋を片付ければ全て終了。警察がどう動くのか、興味が無いと言えば嘘になるが……ま、どうでも良いか。




 翌日、念のために平藤のアパートへ向かってみると、警察が色々やっていた。規制線のあの黄色いテープで道路を一部封鎖し、平藤の部屋の中を隅々まで調べているようだが……何も見つからないと思うよ?

 アイツのスマホの位置情報でも追いかけるかと思ったが、どうやら平藤が自宅を出てしばらくしたところで電池が切れたらしく、どこへ行ったのか追えなくなっているらしい。充電くらいしておけよ馬鹿と思ったが、死んだ人間(・・・・・)を悪く言うのもちょっと気が引けるのでやめておこう。そこまで良心を捨ててはいない。

 で、警察は仕方なく行方不明になった当日に向かったここに来た。そして、チャイムを鳴らしても誰も出ず、思い切って開けてみたらもぬけの殻。鍵はかけてなかったからな。指紋の類い?残してないぞ。残っていても問題ないけどな。

 とりあえず片付いたと言うことで引き上げよう。仮に……そう、仮に何かが見つかったとしてもそれは平藤が勝手に恋心を抱いた謎の女性が捜査線上に浮かび上がって混乱に拍車をかける程度。そこから俺につながる線はない。何しろ、そんな人物、実在しないんだからな。


一章一話になります。多分次も

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