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  作者: ひじきとコロッケ
守道成弥
30/105

(2)

 と言うことは転落した後に会った人物?馬鹿げている。

 だが、荒唐無稽だと笑い飛ばすわけにはいかない。

 何が何だかわからないが、事実として裁判官と裁判員が行方不明。そこに瀧川の死にたいする復讐として動いている者がいるだろう事はほぼ確定だ。

 となると、本人が思っている以上の者をターゲットにするのは充分に考えられる。


「現時点では裁判官と裁判員がターゲット……だか、それだけか?」


 逮捕のきっかけとなった高校生は?無罪を勝ち取れなかった弁護士は?あるいはこんな、今にして思えば証拠と呼べそうなものがことごとくいい加減な状態でありながら起訴に踏み切った検察は?


「マズいな。対象がどれだけになるか見当がつかない」


 もしも、逮捕に関わった警察官や取り押さえるのに協力した乗客までターゲットにしているとしたらどれだけの人数になるだろうか。裁判の資料に載っているだけでもかなりの人数になるだろう。

 裁判員へ手紙が届いた時点から警察が対応を開始しているのは聞いているが、裁判官は通常捜査に加われないし、今回はむしろ捜査に関わる方が危険と言うことで距離を置かれており、捜査状況はよくわからない。対象が相当に広いかも、と言うことに気付いているだろうか?


「ええと……」


 少しでも情報を提供しておこうと思い、捜査本部の連絡先は受け取っているので、電話をかけてみる。


「クソ、繋がらないか」


 時間が時間だから仕方ないかと電話を切り、立ち上がると窓際へ。すぐ近くに車が停まっていて、その中に自分を警護するために警官がいるのはもちろん知っている。彼らに直接懸念を伝えれば何とかなるだろう。そう思ってまだ少し肌寒い中、外に出るために上着を手にし、部屋を出ようとした。




「ん?え?な、何?何が?!」


 いきなり音もなくドアが開き、なんだかモヤモヤ(光学迷彩)した物が近づいてきたらそりゃ驚くよな。


「守道成弥だな?」

「な、何なんだよ?!」

「質問に答えろ」

「そ、そうだが……え?コレは」


 本人だとわかれば充分。近くにいる警官に気付かれると面倒なので、すぐに全身を水で包み、気を失わせて担ぎ上げる。全く、もう少しダイエットしてほしいものだな。重くはないがコレじゃ入ってきた窓を通るのに苦労しそうだ。

 思った通り窓を通るのに四苦八苦して時間を食ったが、外に出てしまえばあとは簡単。幻覚魔法で隠したまま、近くに停めておいた車まで行き、あとはそのままダンジョン直行。いなくなったことに気付くのは明け方だろうが、時既に遅し、だ。




「こ、ここは……?」

「やっと気付いたか」


 なかなか目を覚まさないからうっかり殺してしまったかと心配してしまったが、杞憂だった。ま、どうせ殺す……っと、言葉を間違えてはいけないな。殺すんじゃない。死んでもおかしくないところに放り出すだけだ。俺の目的は殺すことではなくて、ダンジョンの奥に放り出されるという、俺と同じ目に遭わせるまで。だってほら、俺は死んでないんだからな。


「だ、誰だ?!」

「誰でもいいだろ?」

「なっ!」

「事情は理解しているな?」

「……瀧川陽、か」

「ご名答」


 一応情報共有はされているんだな。こんなに簡単にさらえるほど不用心だけどな。


「予想していると思うが、俺は瀧川陽の関係者だ」

「そうか。で、何が望みだ」

「望み?」

「そうだ。金か?それとも」

「何を今更」

「は?」


 守道は俺が身代金の要求をするとか考えていたのか?今までいなくなった(・・・・・・)者が一人も帰ってきていないことは知っているだろうに。


「仕方ない、簡単に説明しようか」

「待て、その前に「黙れ」


 少し本気で睨み付けるだけで、「ひっ」と黙った。ウンウン、素直でよろしい。

 ん?何か後ろ手でゴソゴソやっているな。全く諦めの悪い奴だと、ぐいと腕を掴み上げたら、カタンと小さな箱が落ちた。


「緊急用の発信器か」

「……」

「沈黙は正解と受け取るよ」


 スイッチを押したときに電波を発して居場所を伝えるタイプだな。ま、どんなにすごい機械だとしても、ダンジョンという通常とは違う空間の九層なんて深さから電波が届くわけがない。それにダンジョン内ではこの手の機械は使えないようになっているし。

 つかんだそれを軽くぐしゃりと握りつぶし、目の前で破片を落としてやると青かった顔がさらに青くなった。

 どこまで青くなるか実験してみても良いが、おっさんの顔の観察はつまらんからやめよう。


「ここは竜骨ダンジョン。瀧川陽が送り込まれ、死んだ場所。そして俺は竜骨ダンジョンのダンジョンマスター。わかりやすく言えば、ここの支配者であり管理人。そして、瀧川陽の境遇に同情し、彼の冤罪に関わった者全員を始末する予定」

「し、始末って……」

「ん?わからないか?言葉通りの意味だぞ?」

「え……と……」

「と言っても、お前が想像するよりはかなり緩いぞ」

「緩い?」

「ああ。別に俺が直接お前をどうにかするって事はしない。ただここに放置するだけ」

「放置って」

「お前がこの先何をしようと自由って事」

「自由……?」


 俺の言葉が意外だったのか、少し顔色が戻ったようだ。なるほど確かに、「ここでお前を殺します」と言われるよりは、「放置する。好きにしろ」の方がまだマシに聞こえるんだな。

 現状認識の甘い奴だ。


「ここにずっといてもいいし、どこかへ移動してもいい。どこへ行くのも自由だぞ?上に行こうと下に行こうと自由だ。っと、参考までにここは九層だ」

「き……九層?!」

「人類未到達だ。うちのダンジョンは道が入り組んでいるからここまで来るのに普通に歩いただけでも一ヶ月以上かかるかな?」

「い、一ヶ月?!」

「俺自身は試したことないからわからんけど」


 試すつもりもないが。


「そうだ、特別サービスでコレをやろう」


 数枚の紙を手渡すが、ブルブル震えていて紙を受け取るにもひと苦労している。


「落とすなよ?落としたら数分でダンジョンに吸収されるからな」

「これ……は?」

「門外不出、ここから地上までの最短ルートの地図だ!」


 もちろん内容に嘘偽りは一切無い。俺は正直なんだ。


「じゃ、そう言うことで。頑張れよ」

「え……ちょ……待って」


 それ以上聞く気は無いのでコア部屋に戻る。

 地図に嘘はない。だが、ただ単に歩いた場合でも、かなりの距離があるので、それなりに日数はかかるはず。多分一ヶ月ってのは休みなく全力疾走した場合、かな?それに、各層にいるモンスターは本物。九層なんかは丸腰で勝つのは俺の両親でも難しいだろうと言うレベルがそこら中にいる。人類未到達は伊達じゃないんだよ。

 それと、地図には罠についての記述がない。ベテラン探索者でも即死しかねない罠がそこら中にあるし、なによりまずあの収容所のオーバーハングを何の訓練も受けていない素人が道具も何も無しで登れるかというと……ま、結果は見るまでもない。

 直前の三人の始末に色々と手がかかったので、コイツはあっさりと片付けたが、これはこれでスッキリしていい。

 さて、次は誰にしようか。

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