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  作者: ひじきとコロッケ
七田俊也と川畑花怜
28/105

(4)

「ほう、あの程度ではダメージにもならんのか。なかなか頑丈だな」

「そいつはどうも……で、最強の呼び声も高いお二人がこんなところで何を?」

「ほう、俺たちのことを知っているのか……だが、答える必要は無いな」


 言うなり、哲平が左手を突き出すと、その動きに呼応するように地面が隆起し、固められた土が弾丸のように俺に向けて発射される。


「おぐぅっ……」


 土魔法レベル四……この程度か。大したことないな、うん。

 あえて避けずに食らって、ついでに大ダメージを受けた演技をしてみたが……意外に難しい。アカデミー賞は遠いな。


「おい!」

「わかったわ、二人ともこっちへ」


 知里が二人を誘導、その間は哲平が時間稼ぎ。

 まあ、大した意味は無いなと距離が充分開くまで見送る。


「余裕だな」

「ああ。このくらいなら今から追っても一瞬で追いつくから……な!」


 ドン!と地面を蹴り三人を追うべく、ジャンプ。


「クソッ!土壁っ!」


 素早く反応した哲平が地面から壁を生やすが、こんな物は障害にすらならない。一切減速することなく粉砕して突き抜け、三人の前方十メートルほどにザザーッと滑り込みながら着地する。この着地、ちょっとカッコいいよな?


「邪魔が入らない場所へ行こうじゃないか!」


 返事を待たずに駆けより、二人の襟首をつかむとブンッと放り投げる。ざっと二キロくらいの飛距離になるかな。さすがの一流オフィサー瀧川夫妻も二キロの移動は数分かかるだろ。


「じゃ、そういうことで」


 そう言い残し、放り投げた二人の後を追う。


「待て!」


 ジャンプした直後、何かが足に引っかかった。見ると右足に水魔法で作ったムチのような物が絡みついている。

 あー、うん。油断した。

 こう言うのがあるって忘れてた。魔法自動防御とかそう言うのは無いからな。意識していないと魔法の効果は受けてしまう。だが、振りほどくのは造作も無い。こっちは水の神様とも称される龍神。一瞥するだけでただの水になりバシャッという水音と共に地面に落ちる。


「じゃ、改めて、そういうことで」


 空中二段ジャンプというロマン技を披露しながら、放り投げた二人の方へ向かう。

 遠投二キロ。着地で怪我をしているのはほぼ確実、していなかったら存分に痛めつけてやろう。死んでいたら?うーん、不完全燃焼だがそれはそれとしよう。




 そう考えていた時期が俺にもありました。




「あー、うん。まあいいや。お前らの最期はそれで」


 着地自体はどうにかうまく受け身を取れたようだが、ちょうどそこに二匹の巨大なイモムシが腹を空かせて待っていたらしい。

 受け身を取ったと言っても無傷とは行かず、足をくじいたかひねったかあるいは折ったか。なんにしても逃げようにも逃げられず……頭からムシャムシャボリボリと。


「ま、いいか」


 見ていて気持ちのいいものでは無いのでクルリと振り返ると、目の前に岩石が飛んできていてぶっ飛ばされた。人間相手に手加減した状態だと、こういうときに踏ん張りが利かない。ダメージはもちろん無いが。


「いってえ。いい加減にしろよな」

「うるせえ!クソ、ダメか」

「諦めちゃダメ!水の拘束」

「おお!石(つぶて)!」

「させるかよ!」


 二人がイモムシに放とうとした魔法を気合いで打ち消す。といっても力量の差が大きすぎるので、気合いと言うほどではないけどな。


「貴様!」


 魔力を込めたらしく、ボウッと光を(まと)った剣で斬りかかってきたので左手でつかんで、右手でデコピンの要領で弾くとパキンと折れた。


「何っ!」


 魔力を込めた武器って基本的に強靱で壊れにくい。俺の両親が込める魔力レベルだとそこらのモンスター程度でどうこうなることは無いのだろうから驚くのも無理はないか。


「スキ有り!」


 背後から斬りかかられたが、あえて頭で受けてやると、これまた魔力で強化されているはずの剣からバキッと音がして刃が欠けた。


「こ、こいつは……」


 ちなみに、こう言う魔剣の類いはダンジョン内で発見されるのだが……とんでもない値がつく。小さな国の国家予算くらいになることも珍しくない。今壊した二振りだけで数億は下らないと思う。

 さて、少しだけ相手をしてやる……つもりはない。


「貴様……一体何者だ?」


 この二人は俺が水のレベル0だとわかったとき、態度がガラッと変わった。一応、高校卒業までは家にいさせてもらえたが、会話は最小限で、学校の成績がどうとか言う話も一切せず、進路相談なんてのも全くしなかったな。そして高校を卒業した後、そのまま就職するのは絶対に不利だと自分に言い聞かせ、必死に勉強して大学入学と同時に一人暮らしを開始。バイトと奨学金でどうにか卒業して就職。何一つ相談も報告もしなかったから、この二人は俺がどこで働いていたかもろくに知らなかっただろう。

 この二人は、ダンジョン発生直後に見られた、才能至上主義の権化と言ってもいいくらいに凝り固まっていたと言っていい。そして、弟と妹の方が才能があるとわかってからはさらに俺のことを空気かのように相手をしなくなっていたこともあって、高校卒業後には家に帰ることも無くなって、最後に顔を見たのは、ばあちゃんが亡くなったときの葬式くらいだ。

 でも、思い起こしてみれば……家ではちゃんとメシを食わせてもらえていたし、小遣いも一応くれたし、「参考書を買いたい」と言えば金を出してくれていた。一応アレで、親としての務めは果たしていた。今にして思えば思春期特有の反抗期の延長戦のようなもので、互いにギスギスしていてどう接していいかわからない、って状況だったのかもな。もはや手遅れだけど。

 それに、今に至る原因は両親にはない。確かに裁判の時に親子の縁を切るなんて連絡もあったが、こちらも成人しているのだから親がどうこうってのは別に期待はしていなかったわけだし。まあ、息子の「無実だ」という言葉くらいは信じて欲しかったっていうのは色々望みすぎだろうか?


「ウラ、聞こえるか?」

「ああ」

「コイツらと一緒に十六層あたりへ行きたいんだが、できるか?」

「……すぐそばに転移魔法陣を置いた」

「サンキュ」


 くるりを二人に向き直る。


「俺の正体が知りたいならついてこい」


 すぐそばに現れた転移魔法陣に三人で乗ると同時に転移される。

 転移した先は人工的な石を組み合わせたような通路。典型的なダンジョンの姿だ。

 クルリと二人に向き直るとパーカーのフードを振り払って、顔を見せてやる。人間のような外見だが、決して人間ではあり得ないその姿を。


「特別に教えてやろう。俺は……竜骨ダンジョンのダンジョンマスターだ」

「「!」」


 ダンジョンにダンジョンマスターがいる。その事実が確認されたことはなかったはず。つまりこの二人はダンジョンマスターたち以外で初めてダンジョンマスターがいるという事実を知ったことになる。


「竜骨ダンジョンで瀧川陽は死んだ……とされているが、俺が保護している」

「何?!」


 実際には俺が俺を保護してるって事になるのか?


「言っておくが、今ではお前たちよりはるかに強くなっている。世界中の探索者が束になっても敵わないほどにな」

「馬鹿なことを」


 ま、目の前にいる俺がそんなに強いなんて信じられないだろうけどな。でも、お前らだって手も足も出なかっただろう?俺はここでは能力が十分の一に制限されているが、そのさらに十分の一どころか千分の一も力を出してない。


「俺は、アイツの復讐に協力している。事件の関係者全員、竜骨ダンジョンの奥に送り込んで、始末してやる予定だ。今回の二人は……まあ、色々あってこの鬼火ダンジョンにしたが」

「そんなこと」

「させてたまるかって?いいぜ、いくらでも妨害しな」


 え?という表情の二人。そりゃそうだ。普通ならここで「秘密を知った以上死んでもらう」って流れだろうからな。


「ただし、ここから脱出できたら、な」


 ニヤリと笑ってみせる。

 現在の鬼火ダンジョンの人類到達点は十一層。

 十六層は未知の領域。超一流の探索者たるこの二人でも無事でいられるかどうか。それも準備万端とは言い切れない状況で。


「じゃ、俺はここで。頑張れよ」


 そう言うと、ウラに頼んで外へ送ってもらう。




「色々ありがとな」

「そりゃどうも。色々言いたいことがあるんだが」

「あの二人が来ていたことは想定外だったんだよ」

「そうか」

「参考までに……まだ生きてるか?」

「ああ」

「お前の見立てでいいが、脱出できるか?」

「そうだな……二割、いや一割だろう」

「そうか」

「と言いたいが、それはあくまでも普通の探索者。あの二人なら時間はかかっても八割以上の確率で脱出すると思う」


 さすがに一流探索者。脱出出来る可能性がそんなにあるとは。


「どうする?経過は知りたいか?何ならモンスターを大量に送り込んで始末することも出来るが」

「別に。そのままでいいぞ」

「へ?」

「あの二人がどう動こうと、俺がやることは変わらないからな。脱出したならしたで俺の所に来るだろうし」

「そうか」

「じゃ、今日はこの辺で」

「う、うむ……」

「心配するな。もうここで始末はしないから」

「わかった」

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