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  作者: ひじきとコロッケ
白波一夫
21/105

(5)

なんの前触れもなく更新してみたり

 げ、データを見たログを確認して何があったか推測しようということか。ま、見られてすぐにどうなるわけでも無いからいいか。実際問題として瀧川陽は死んだことになっているし、俺の姿も完全に変わっていて、幻覚をかぶせない限りは瀧川陽の姿にはならないしな。

 とは言え、俺のターゲットへの警戒が強まると少々動きづらくなるというかターゲットを連れ出すのが少々面倒になるのも事実。もちろん、強引に進めたって何も問題は無いし、こういう事態はいずれ来ると想定していたが、ちょっと予定が前倒しになってしまったな。少し作戦変更しようかと思っていたら、男の携帯が鳴った。


「私だ……ウム……そうか……わかった」


 ピッと電話を切ると他の男たちにこう告げた。


「痴漢事件の容疑者……いや、受刑者、瀧川陽だ。すぐに手配しろ」

「は、はいっ!」


 一人がすぐに部屋を飛び出したが……手配って何をするんだろうね?俺、死んだことになってるはずなのに。


「さてと、他には」


 男が机の前に回り込み、メモ用紙に目を付けた。


「フム……」


 パラパラとめくっていく。強い筆圧の痕跡は処分したから大丈夫なはず……ん?


「ほう……見ろ」

「え?これは!」


 思わず覗き込む。

 そこには「瀧川陽」「復讐」「女?」「娘を人質」となかなか物騒なことが書いてあった。クソ、こちらから見えない位置で素早くこんなことを書いていたのか。

 でも、これでどうするんだろうか?

 娘の映像を撮影したときに化けていた同僚の裁判官は少し事情聴取がありそうだが、ぶっちゃけアリバイは完璧だろう。時間的にその同僚が白波の自宅周辺にいたら、出勤が遅れるはずだからな。娘たちが一体誰と会ったのかと言う謎が残るが、これはこれで色々と混乱を招いてくれるだろう。それに、娘たちの警備を厳重にされても別に構わない。本人以外に用はないし。

 では、瀧川陽(俺自身)は?

 ダンジョン内で死亡したという情報自体が誤りだと仮定して動き出すかも知れないが、どうやって俺が生きていることを確認する?あのワーカー四人の証言は「俺が勝手に転んだ」という点以外は正確なはずだ。実際俺はあの亀裂から落ちたわけだし。

 死体も遺品も見つかっていない以上、死んだと断定できない。そういう意見もあるだろうが、ダンジョン内で死ぬと死体も遺品もダンジョンに吸収される。これは探索者の間では常識だ。つまり、死体が無いから死んだことが確認できないと言うのは普通の環境なら説得力もありそうだが、死んだら死体が無くなる環境(ダンジョン)では何の意味も無い。

 瀧川陽の死亡報告があってから間もなく二週間。食料も持たず、ろくに装備も持っていないド素人が二週間もダンジョンで生存できるのか?俺の両親なら平気で五階層くらい踏破しながらバカンスできると言い張りそうだが、俺にそこまでの才能は無い。聞かれたら俺の両親は、そう断言するだろうし、俺がダンジョンに入った経験がないのは明らかという時点で俺の死に関しては疑う余地はなくなるはず。

 そんなことを考えている間に、ざわつきながら男たちが部屋を出るので一緒に出て、裁判所をあとにする。

 少々予定が狂ったが、想定していなかったわけでも無し。まずは裁判員全員の情報が得られたことと一人始末できたことで、一歩前進したと思っておこう。




 一度ダンジョンに戻り、便箋と封筒、切手をダンジョンポイントから変換。PCで必要な文面を書いて印刷し、封筒の宛先も印刷し、切手を貼る。全ての工程で手袋をはめて指紋のつかないように注意して六通の手紙を用意すると外へ出る。少々時間がかかったので、すっかり夜になってしまったが、これはこれで好都合。龍神の能力で夜空に飛び上がると、北へ向かう。そして、北海道から鹿児島まで日本列島を縦断し、あちこちのちょっと片田舎にあるポストに投函していく。監視カメラも無いようなポストを狙っているが、周囲にはかなり気を配る。何しろどういうわけかわからないが、空を飛ぶと光る。幻想的な感じに。一応幻覚魔法でごまかしているが、周囲からどう見えているか確認のしようが無いのが難点。今度カメラで撮影してみるか。

 こんな感じで面倒な作業ではあったが、裁判員六人に全国各地から同じ消印日付の手紙が届く、というのは相手を混乱させられるはず。どれもこれも、電車が一時間に一本というようなローカル線の駅だったり、最寄りの公共交通機関まで車で一時間かかったりとか、そういうところを狙って北海道から鹿児島まで津々浦々。郵便局の位置だけで見ても一日で全て回るのは物理的に不可能だと思う。そうなると、警察とかはこう考えるハズ。


「差出人は複数で手分けして投函した」

「複数が協力し合う組織の可能性が高い」


 実際は一人で、異常な速さで移動出来るだけなんだけど、そういう結論にはなかなか至らないだろう。ダンジョンなんてファンタジーがあっても、それほど身近ではないのでトンデモ超人がいるとかそういう考えにはなかなか至らない。ましてや龍の力で空を飛ぶなんて思いもしないだろう。そして、封筒と便箋についた指紋を必死に調べるだろうが、出てくるのは受取人とその家族、手紙の配達に関わった郵便の職員のみ。全部調べるのに何日かかるだろうか?頑張って無駄足を踏んで欲しいところである。

 そして、手紙の内容はほぼ同じ。それぞれ日時と場所を指定し、一人で来るように指示。当然向こうも色々と対策をしてくるだろうが、それはそれで構わない。第一の目的は裁判員の個人情報の確認であって、正確性を確認してから第二段階に進むのだから。




一方、裁判所では――


「ん?メモの一番最後にさらに何かあるな」

「なんでしょうか?」

「「守道へ」「高校」「逆」……なんだこれは?」

「守道って、同じ裁判を担当した守道成弥さんですよね」

「つまりこれは伝言か?」

「高校、逆……何のことでしょうか?」

「とりあえず伝えてみよう」

次話より新章。次のターゲットの始末に移ります。

月・水・金の12時に更新予約です。


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