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  作者: ひじきとコロッケ
冤罪裁判
2/105

(1)

「主文、被告人をダンジョン労働二千ポイントに処する。理由……」


 はあ、と瀧川(あきら)項垂(うなだ)れた。話には聞いていたが、無罪を勝ち取るのは不可能というのは本当らしい。

 被告人席に座っている国選弁護人の氏間を睨み付けるが、「これでも少しは減刑されたんですよ?頑張ったんですよ?」と無言のアピールをしている。確かに頑張ったのかも知れないが、そもそも冤罪じゃねえかと二ヶ月前の出来事を思い出していた。




「っ……や、やめて下さい!」


 すぐ真横の大声に思わずぎょっとして振り返ると、キッとこちらを睨み付ける女子高生が一人。そしてその周囲に、いかにもその子の味方ですと言った感じで数人の大人たちが控えている。


「この人!痴漢です!わ、わた……私のお尻を!触ってました!」

「は?え?触って……?」


 慌てて手元を見ると……バッグのベルトにくくりつけた傘……だな。これが原因だ。


「あの、この傘が……」

「言い訳するな!」

「この痴漢野郎!」

「最低のクズが!」


 ちょうど電車がホームに滑り込み、ドアが開くと共に両側からがっちり捕まえられたまま降ろされる。必死に「傘が!傘が当たってただけなんです!」と主張しても聞き入れられるどころか、


「なんでこんな晴れた日に傘なんて持ってんだよ!」


 この一言で却下され、連行された。




 瀧川陽はごく普通の会社員だ。ただ、勤めている会社はシフト制の夜勤があり、この日も夜勤明けの帰り。()しくも前日の夜、つまり、陽が出勤した時間帯は今年最大と言われる大型台風が最接近していたために傘が必要だったのだが、一夜明ければ台風一過の快晴。夜勤明けだから前日持ってきた傘を持っているのはごく自然なことだが、「痴漢をごまかすカモフラージュだろ」と受け入れてもらえなかった。オマケに行き先を見れば帰宅する方向だというのが一目瞭然のハズが、なぜかスルーされたりもした。そうしたあれやこれやのせいで余計に動揺してしまい、取り調べも支離滅裂になり、逮捕からわずか二ヶ月で実刑判決が言い渡された。勿論、会社も夜勤だったことを証明してくれたのだが、効果はなかった。詳細?よくわからないうちに有耶無耶にされたとかなんとか、氏間が言ってた気がする。


「気を落とさないで頑張って下さい。それでは」


 形だけの弁護――弁護士費用もたかが知れているし、実績としても残したくない裁判だった――をした氏間は、ポンポンと肩を叩いてから去って行った。


「こっちだ……来い!」


 グイッと腰縄を引っ張られ、仕方なくついていく。これから起こることはだいたい想像がついている。そして、同時に絶望もしている。




 今から約五十年前、(ここからしばらく)世界のあちこちに(テンプレ説明が)ダンジョン(続きます)というもの――勿論、最初はダンジョンなんて呼び方はしなかったのだが――が突如として現れた。

 それは地面に突然開いた亀裂、あるいは高層ビルの地下へ通じる階段の先、または山や丘に出来た洞窟等々。

 最初に発見されたのはアメリカ。それもホワイトハウス前の道路に突如として現れた亀裂。通報を受けた警察が内部に入ったところ、一分足らずで複数の小型モンスターに襲われて数名が殉職、即座に陸軍が出動し、周囲の封鎖と内部調査が行われた。後に「始まりのダンジョン」と呼ばれるようになるこのダンジョンと同様の事態が世界中で報告され、各国の警察や軍隊が対応にあたり多大な犠牲が出る中、一週間ほどで各国政府の要請により国連総会が緊急招集され、紆余曲折の後、この事態は「ダンジョン発生」と呼称されるようになった。

 そしてそれらダンジョンを多大な犠牲を払って調査した結果、通常の場所とは違う現象が数多く見られることがわかった。

 まず、ダンジョン内では銃火器が一切使えない。そして、電気機器やガソリンなどを使用する機械類も。正確に言うと、中に持ち込んでもしばらくは使えるのだが、一時間程度で全く機能しなくなり、毎分数百発を撃ち出す機関銃も直線で数十キロ到達する無線機も悪路を楽々走破する軍用車両もただの鉄の塊と化してしまう。初期の頃に警察や軍が全滅、あるいは撤退を余儀なくされたのはこの辺りが原因である。何しろモンスター相手に景気よくぶっ放していたらいきなり機能停止するのだから。

 次に、ダンジョン内ではこれまで地球上に存在しなかった……おとぎ話や、アニメ、映画の世界にしかいなかったようなモンスターが多数生息している。それらはゴブリンやオークといった定番のモンスターから、今まで知られているどんな空想小説にも出てこないような姿をした物まで様々。一つだけ言えるのはそれらが例外なく、中に入った人間を襲うと言うことだ。

 そして、それらモンスターを倒した後に落ちていたり、時折発見されたりするもう本当に宝箱としか言いようのない外見の箱からいろいろな物が入手出来た。皮や肉、骨と言った、いかにも動物を狩ったときに手に入るような物から、世界にエネルギー革命をもたらすと予想された魔石と呼ばれるようになった鉱石、医療の有り(よう)を根底から覆す薬草やポーション、果てはモンスターと戦うときに効果を発揮する武具。持ち帰った数こそ少ないものの、世界が変わることは間違いないと誰もが確信するような物ばかりであった。

 さらに、初期の頃、ほとんどの国でダンジョン調査に携わっていた軍人たちは、モンスターと戦うことにより身体能力が飛躍的に向上した。さらに身体能力だけでなく、魔法を使えるようになった者まで現れた。

 世界中の国々でダンジョンの調査が活発に行われ、やがてどの国も同じ結論に辿り着いた。

 ダンジョンは世界の常識を塗り替えるだけの物がある。ならば他国に先駆けてダンジョンを探索し、モンスターの討伐を行い、他国より優位に立てるような物を入手すべきだと。

 何かと決断の遅い日本政府も、さすがに国民の安全を守るため……ではなく、あちこちに出来たダンジョンの警戒に当たる自衛隊への風当たりが強いという理由から意外に早く法整備が進み、他国同様、ダンジョンの調査・探索を国家レベルで推進するよう法整備が進められた。

 もちろん法整備は刑法にも及んだ。通常、罪を犯した者は執行猶予等も含め、懲役刑などが適用されてきていたのだが、大きな法改正が行われた。国としてダンジョンから素材を集め、様々な方面で有効活用するため、探索の人員を増やし、持ち帰る素材を増やすという名目と、国民感情のガス抜きの意味も込めて、ダンジョン労働という刑が提案され、僅か半年という異例の速さで刑法改正が成立した。これはダンジョンを探索し、持ち帰った素材を点数評価し、一定の点数になるまで探索させるという刑であり、犯罪者が刑務所でタダ飯を食らうことへの風当たりが強くなってきたことへの対応の意味合いが強く、後に日本の例を参考に諸外国でも採用されるようになった刑である。

 つまり、日本には大雑把に言って三種類のダンジョン探索者がいることになる。

 魔法の適性が最初から高く、高度な訓練と上質な装備で挑む、国家公務員に準じる立場の公式探索者。通称オフィサー。

 魔法の適性に関係なく、民間の独自カリキュラムの訓練を経て、装備の用意も全て自前で行う、民間探索者。通称ワーカー。

 そして犯罪者の更生、社会貢献の名目で最低限の装備で使い捨てるように投入される、受刑探索者。通称クライム。




 俺、瀧川陽は身に覚えのない無実の罪で起訴され、比較的スムーズな審理の結果、年が明けて早々にクライムとなったと言うわけだ。

次話、18時予約です

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身体能力が飛躍的に向上した犯罪者が生まれるって怖くない?
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