(2)
「その様子だと、これからもあちこち出歩きそうだからな。他のダンジョンに近づかないように注意しろ、と言う意味だ」
「それはどうも。あと一ついいか?」
「何だ?」
「名前だけでそいつがどこにいるのかわかる……のか?」
「ダンジョンレベル二十になると使えるようになる能力だ」
「へえ……」
ところでコイツ、ダンジョンマスターと言うことだが……魔族っぽくないか?
「一応、質問としては以上。知りたいことはわかったし、今後の心配もしてもらえたのは感謝する。ありがとう」
「フン」
「ちなみにこれは答えてもらわなくてもいいんだが、どう見てもアンタは人間じゃ無いよな?魔族とかそういうの?」
「違うぞ」
「へ?」
「鬼火ダンジョンが出来たとき、偶然ダンジョンコアの一番近くにいた結果ダンジョンマスターになり、ダンジョンマスターの力を得たことで姿が変わったんだ」
「へ、へえ……」
「ダンジョンレベルが十五になると、人化の秘術を使えるようになる。そうすれば普通の人間の姿になれる。元が人間なら元の姿になるぞ」
「ほう」
「だが、この姿の方が……その、何だ、しっくりくるのでな」
「中二病か」
「んなっ!ち、違うしっ!」
アワアワと、本来の姿の方が力を発揮しやすいだとか、レベル十五になるまでの間にダンジョン内の居住スペースをこの体のサイズで作ってしまったしとか言い訳してるのが何となく微笑ましい。
「っと、一番大事なことを聞いてなかったな。俺の名前は瀧川陽、お前は?」
「む……わ、我の名はウラだ」
「プッ……」
「な、何がおかしい?!」
「さっきまで俺だったのに、急に我、とか……」
「む……う、うるさい!」
この狼狽えっぷり、間違いなくダンジョンが出来た当時は中二病真っ盛りで、そのまま現在に至る、って所かな?だいたい、ウラって温羅か?有名な鬼の名前じゃねえか。まあ、悪い奴では無さそうだ。
「と、ところで」
「ん?」
「復讐と言ってたが、詳しく聞かせてもらってもいいか?」
「詳しく、ねえ……」
あまり話したくないし、平藤は追いたいし。
「追っている人間がビルから出てきたらすぐに教えるぞ」
「そうか……まあ、聞いてて面白い話じゃ無いぞ?」
仕方ないので、掻い摘まんで話す。ただ、ダンジョンマスター交代の件は「トップシークレット」としておいた。
「痴漢冤罪って……お前、女なのに女に手を出したのか?」
「あ……」
説明を端折りすぎた。
「俺、ダンジョンマスターになった時に、前のダンジョンマスターの影響をもろに受けて、姿が変わっちまったんだ。で、あまりにも悪目立ちする感じになったんで、幻覚魔法を被せてある。解除するとこんな感じだ」
角と尻尾を見せると、さすがに少し驚いたようだ。
「へえ……」
「へえ、ってお前もその見た目だろ?」
「ま、そうだが。前のダンジョンマスターの影響を受けてってのは聞いたことが無くてな」
「それだ」
「え?」
「さっきから聞いてると、他のダンジョンのことも詳しいみたいだが……」
「あ、そうか。そうだな。簡単に言うとな……」
地球上に出現したダンジョンの数は、それこそ数知れず。万には至っていないが、五千以上。そして年に一度、ダンジョンマスターが集められる会合があり、それに出席すれば自ずとダンジョンのルール、制限もわかるという。
「そんなのがあるんだ」
「今年は多分来月だな。多分、だが」
「参考までに聞きたいんだが、ダンジョンマスターって人間ばっかりなのか?」
「そうでも無い」
「と言うことはモンスターとか?」
「いや、そうでは無くて」
彼の話によるとダンジョンは突然生成される。そして、その時一番近くにいた、そこそこに知能のある生物がダンジョンマスターになる。この、そこそこに知能のある、と言うのがくせ者で、ぶっちゃけて言うと、前頭葉がある生き物ならだいたいOK。そのために犬や猫のダンジョンマスターもいるという。
そして、ダンジョンマスターになった時点で生物的に進化し、ウラのように体格が発達したり、ダンジョンマスターの能力を発揮するべく、知能が発達したりするという。
「そういう意味では竜骨ダンジョンは別格だったな」
そりゃ龍だからな。しかも、正確に言うと龍神だし。
「ま、ほとんど欠席していたが」
「あ、欠席してもいいんだ」
「まあな」
「と言うか、その会合って誰が主催して集合かけてんだ?」
「始まりのダンジョンって知ってるか?」
「ホワイトハウス前のアレだっけ?」
「そう。そこのダンジョンマスターが主催だ」
「へえ」
「ちなみに開催日前日くらいにコアを通じて連絡が入る」
「割と雑だな」
「ま、攻略が進んでいてヤバい感じのダンジョンなんて無いからな。だいたいどのダンジョンマスターもヒマしてるから都合はつけやすい。それに欠席してもペナルティは無いから気楽なもんだ」
「そうか」
アレだな、「行けたら行くわ」でいいな。
「む?」
「ん?」
「奴が出てきたな」
「そうか。ありがとう」
「いや、大したことは無い」
席を立ち、カップを返却口へ置くと外へ出る。ウラも付いてきたが、平藤を追ってるってのを疑われてる?そんなに信用無いかね?
「よし、追いかける。ありがとうな」
「あ、そ、その……なんだ」
「ん?」
「また、会えるか?」
「まあ、それは……」
「そ、そうか。そうだよな。うん」
これは……アレだな。
「お前……俺が男だって忘れてないよな?」
「あ……」
図星かよ。
ちなみにこの後の追跡でわかったのだが……単にコンビニに行っただけですぐに会社に戻り、帰る様子がなかったので、こちらが根負けして先に帰った。住所はあとでどうにかしよう。