プロローグ
蝉の声、照りつける太陽、吹く風も熱気を運ぶ八月半ば。いつもの場所から周囲をただ眺める。ずっと昔からここにいたが、十数年前の台風で住処が今ひとつになっていたのが不満。
さて、ここに近づく足音を聞くのはいつ以来か。
子供……まだ十歳ほどか?死角になって顔は見えない。
ガタリと音がして、何か呟く声。闇に閉ざされる視界。
「これで大丈夫」
数十年ぶりの、ここが平和だった頃の最後の言葉。
いつか恩を返そう。そう誓った。
諸君、私は復讐劇が好きだ
諸君、私は復讐劇が好きだ
諸君、私は復讐劇が大好きだ
愛憎劇が好きだ
内紛劇が好きだ
追放劇が好きだ
政治劇が好きだ
残酷劇が好きだ
狂喜劇が好きだ
茶番劇が好きだ
対立劇が好きだ
群像劇が好きだ
平原で 街道で
洞窟で 草原で
森林で 迷宮で
都会で 田舎で
式典で 茶会で
この地上で行われるありとあらゆる復讐行動が大好きだ
乙女ゲー知識で理論武装した転生者の一言で小癪な令嬢どもが泣き崩れるのが好きだ
茫然自失となった高慢ちきな王太子がとどめの一言で真っ白に燃え尽きた時など心がおどる
主人公の使役する羽根つきトカゲが勇者たちの馬車を吹き飛ばすのが好きだ
悲鳴を上げて燃えさかる馬車から飛び出した勇者を初級魔法でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった
剣先をそろえた召喚アンデッド歩兵の横隊が枢機卿率いる聖銀鎧神官兵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の偽聖女が既に息絶えた仲間に何度も何度も回復魔法をかけている様など感動すら覚える
自分を追い出した愚かなギルド上層部連中が追い詰められていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ腰巾着どもが私のこなしていた仕事量に悲鳴を上げながら一人また一人と倒れていくのも最高だ
哀れな能なしパーティが雑多な武器を手に健気にも立ち上がってきたのをカトラリーナイフの一振りで木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える
序盤で難関ダンジョンの奥に置き去りにされるのが好きだ
淡い恋心を抱いていた幼馴染みが実はクズ共といい仲で自分に味方がいないと気付かされる様はとてもとても悲しいものだ
貴族の慣例を無視して婚約破棄されるのが好きだ
学園中から鼻つまみにされ虫けらのように追い回されるのは屈辱の極みだ
諸君、私は復讐劇を、地獄の様な復讐劇を望んでいる
諸君、私の作品を読み始めた読者諸君
君達は一体何を望んでいる?
長いタイトルだけで完結するような復讐劇を望むか?
サクッとまとめて全員片付ける、一万字で終わるような復讐劇を望むか?
事前の仕込みを丹念に行い、ターゲットを地の果てまでも追い続ける、絶望にも似た長い長い復讐劇を望むか?
「復讐劇!!復讐劇!!復讐劇!!」
よろしいならば復讐劇だ
ここからは満身の力をこめて今まさに投稿されんとする作品だ
だがこの暗い闇の底で一週間もの間堪え続けてきた我々にただの復讐劇ではもはや足りない!!
大復讐劇を!!一心不乱の長編復讐劇を!!
我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵にすぎない
だが諸君はそれぞれが千回読み返す気概のある古強者だと私は信仰している
ならば我らは諸君と私で総アクセス百万の軍集団となる
長編をランキングの彼方へと追いやり短編で満足している連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせて読ませよう
連中に繰り返される復讐の味を思い出させてやる
連中に作者のクソ長い説明的文章を思い出させてやる
異世界と現実世界のはざまには奴らの常識では思いもよらない復讐劇があることを思い出させてやる
一千人の読者の妄想力で世界を萌やし尽くしてやる
「一文字タイトルの作者より全ての読者へ」
目標 エタらずに最後まで書き上げること
続く第一章『冤罪裁判』状況を開始せよ
書くぞ諸君