屋上の少女
「高いなぁ……」
少女は校舎の屋上の淵に立ちそう言った。
一歩前に足を踏み出すだけで校舎3階分の高さからまっすぐに墜落するだろう。
少女は落下地点を恐る恐る覗きこんで赤レンガできれいに舗装された道を確認した。
この高さで頭から落ちたら死ねるのだろうか。
それともレンガとはいえ死には至らないのだろうか。
水泳の飛び込みのように勢いをつけたらどうだろうか。
少女は無駄なことをいくらか考えながら、いつの間にかガクガクと尋常じゃないほどに震えている自身の脚に気づいた。
「やっぱり怖いよなぁ」
体の異常とは裏腹に不気味なほどに冷静な声で少女は呟いた。
このままでは不意に落ちかねないと判断したのか、少女はゆっくりと屋上の縁に座りこむ。
高校に入ってすぐにいじめっ子のターゲットにされた。
「チョロそうだったから」だそうだ。冗談じゃない。
親は乱れた容姿、汚れた制服を見て遊び倒していると決めつけヒステリックになった。
下がっていく成績もあり、周りに当たり散らかすほどになった。
教師は学校の面子を保つため、面倒事を避けるために見て見ぬフリをする。
それから……、
とにかく理不尽な目にばかりあってきた。
そんなことを思い返し、少女は決心したように立ち上がった。
下を再度覗きこむと、やはり足が竦み身震いする。
それでも唾を飲み込み、くるりと身を反転させると――
――ニコリと微笑み、ゆっくりと後ろへ倒れこんだ。
ゆっくりと空が遠くなる……。
* * * * * * *
「もうよろしいですか?」
仰向けで地面に放心状態で寝転がっている少女に、スーツの男が話しかけた。
少女はハッとしたように男のほうを向き、ニコッと微笑むと勢いよく飛び起きた。
そして、男のほうにグッと親指を立てた腕を突き出し、
「スッキリした!」
と元気よく答えた。
「飛び降りって思ったより怖くないんだね」
「そりゃあ、後ろ向きに飛びましたからね」
「えっ、見てたの!?はずかし〜」
そんな友達のような会話をしながらスーツの男と先日交通事故で死んだ少女は学校の敷地を後にした。