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放浪のカワウソ  作者: Nihon_Kawauso
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破壊された家族

第6章 破壊された家族


そこに座って、雄の幼獣は、燃えるような残光が消え、夕暮れが荒れた水面に忍び寄り、空が暗くなり、疾走する千切雲の隙間に星が現れるのを眺めました。それから彼は立ち上がって耳を傾けました。波が岬に打ち寄せ、葦がシューシューと音を立て、砂州に白波が寄せては砕けましたが、彼の耳には母親からの呼びかけは届きませんでした。彼女が自分を見捨てたのではないかと不安になり始めた時、海の向こうから甲高い叫び声が聞こえました。すぐに彼は飛び込み、ほぼ同時に浮き上がり、興奮したペースで湾に向かいました。彼が喜んだことに、母親と妹が泳いで迎えに来ていました。狩をしなければならなかったので、海の真ん中でのふざけ合いは長くは続きませんでした。


カワウソが目を付けた獲物は、葦の茂る湾に頻繁に出入りするカワカマスで、カワウソたちはそのうちの最大の湾に向かって泳ぎました。彼らはユリが生い茂っている近くで水に潜り、茎の壁を半周回もしいないうちにカマスを見つけました。カマスはすでに彼らに気づいていて、隠れ場所に後退すると、突き出していた鼻面を瞬時に引っ込めました。カワウソ達は、彼に逃げ場を与えず、彼を窪地から別の窪地へと追いやり、圧迫し続け、じっと留まっていられないようにしました。彼が閃光のように飛び出し、沖に向かってまっすぐ突き進んでいれば逃げ出すことが出来たでしょう。しかし、彼は最初のユリの茂みから見える所にある別のユリの茂みに避難所を探しました、そしてそこまでカワウソ達が執拗に追いかけました。やがて、彼は雄の子カワウソに掴まれましたが、ふりほどき、海藻の茂みを捨てて外に出ました。そこで、彼は、しつこい攻撃を避けるために、顎を広げ、ヒレを立てて、盲滅法突進しました。すべてが無駄でした。彼は逃げる機会を逸しており、疲れ果てた状態で逃げ切ることは不可能でした。このことを意識し、犬死にするわけにはいかないと決心した彼は、残った力を振り絞って雌カワウソに突進し、喉を掴み、彼女がもがくのを持ちこたえました。しかし、これにより彼は子供達のなすがままになりました。即座に彼らは魚の肩に食い付き、強力な尾を使って彼を水面まで引き上げようとしました。魚は尻尾を打ち振り、しばらくの間、彼らの努力に抵抗することが出来ました。しかし結局彼は疲れ果て、やがてそのもがく塊は湖の水面に浮き上がり、何度も転がり、波の頂上に、そして谷間へと揺られました。そこで雌カワウソは身をよじって自由になり、全開状態ではありませんでしたが、すぐに攻撃に加わりました。3頭はすぐに獲物を打ち負かし、葦原の開けた場所に獲物と一緒に上陸しました。彼らがそれを水辺に引き上げている時、魚がブルっと身震いしました。すぐにお腹を空かせた狩人達は魚を捕まえていた力を緩め、魚を切り刻み、貪り食い、魚の大きな背骨が見えるまであっという間に半分ほども食べてしまいました。宴が終わると、彼らは口元を舐めたり、髭を茎にこすりつけたり、水辺に行ってユリの間で隠れんぼをしたりしました。


彼らが狩の時に感じた歓喜は、興奮してはしゃぎまわる様子と、砂州に向かう途中で葦原を駆け抜ける荒々しい姿に現れていました。彼らは潮の端まで疾走して砂州を渡り、砕波に飛び込み、波の向こうの静かな海に到達し、水しぶきを上げている大きな岩の山に真っすぐに向かいました。上陸すると、彼らは岩の間の通路を通り抜け、背後の崖を蜂の巣状にしている洞窟にやって来ました。そこで彼らは、魚の骨、カニ、ロブスターの殻など、古いごちそうの残骸や、葦でできた古い巣にやって来ました。そこの1つの洞窟では、くぐもった波の反響音が落ちてくる水の音で砕け、カワウソの骸骨が岩の水路を削った流れの端の床を白くしていました。動物達はすぐにそこから出て、入ってきた低く曲がりくねった通路に沿って戻り、外側の洞窟を通り抜けて、隠れ家(clitter)に戻りました。そこで彼らは疲れるまでお互いを追いかけました。それから彼らは海に出て、砕け波の線に到達し、流入路によって上陸するのと同じくらい簡単に、波のうねりを利用して上陸しました。その後、雌カワウソは子供達をヤナギの茂みと古いおとり池(decoy)の間の沼地に連れて行き、そこでウォーターミントを踏みながら進みました。


こうして暗闇の時間が過ぎ、灰色の光が来る日を告げる時、カワウソとその子供達は小川に滑り込み、海の方へ漂っていきました。波立つ水辺に到達すると、彼らは泳ぎ始め、湾を遡上し、前日に犬舎があった島を迂回し、イバラの茂みの近くに上陸し、そこで並んで丸くなリマした。子供達はすぐに眠りましたが、雌カワウソはサケの川への旅の興奮で、夕暮れを待ちわびながら起きていました。彼女は荒地を渡って池にたどり着くことを熱望していました。彼女はついに眠りに落ちましたが、出発時間のずっと前に目覚め、日暮れを待ちながら、荒々しい太陽が沈み、雲が頭上近くをかすめるのを眺めていました。


かなり暗くなる前に、彼女は子供達を起こし、荒地の中心部に向かって丘陵地を登りました。その夜は荒れ狂う夜でしたが、強風の猛威が放浪者達の活力を高めました。彼らはいつもより速い速度でふもとの丘陵地帯を歩き、すぐにブラックリッデンズとして知られる一連の池のある高原に到着しました。彼らはそれらの池で泳ぎ、古いストーンサークルのあるヒースの荒野を通り、湿地の谷と海に注ぎ込む緩やかな小川に到着しました。そこには風はほとんどなく、地衣類でまみれたイバラは静止し、ガマさえもほとんど動きませんでした。しかし、澱み水の上で、鬼火が見えざる手によって振り回される提灯のように踊り続けていました。ピチャピチャと音を立ててカワウソ達は川の近くの浅い池を渡りました。そしてまた水音を立てながら彼らはその先の浅瀬を駆け抜け、その後、風の吹きすさぶ湿原につながる山腹を登りました。疲れ知らずの生き物達が疾走する様子は、新たな漁場に猛スピードで向かう猛獣というよりは、緊急の任務を遂行する闇のエージェントのようでした。彼らは荒れ果てた高地を何マイルも超えました。石塚(cairn)の周囲のある場所では、野生の叫び声の中でも最も奇妙なもの、アナグマの甲高い鳴き声が聞こえました。また別の場所では、湿原を越える唯一の道を通り、そこで医師が仕掛けた罠の新たな車輪跡の間に足跡を残しました。眠っている集落が彼らの行く手に迫り、あまりにも近づいたので、小屋がその周囲に群がる「ドルイドの腕(Druid’s Arms)」の看板が軋む音が聞こえました。それから壁を次から次へと乗り越えて、小作人の所有地まで来て、カワウソの子供達がまだ幼かった時に恐怖の的だった管理人の小屋にたどり着き、古い苗床の上にある荒地の端に到達し、猟犬達がキツネを追ってきたまさにその峡谷を下り、巣穴の近くで流れを飛び越えて、ポプラの向こうにあるサケの池に出ました。


池に魚がいるかどうかを見たくて、雌カワウソは水に滑り込み、滝のふもと近くのお気に入りの場所まで泳ぎました。そこにはサケがいいました。彼女は、サケが彼女の存在に気づく前に近づくために、高速で泳ぎました。しかし、その魚は河口から上がってくる途中でカワウソ達に追われていたので、彼らが来るのに備えていました。閃光のように泳いで彼は下流へ逃れ、雌カワウソを遠く引き離しました。池の端で魚はぐるりと回って、大きな波を上げ、岸辺で見ていた子供達を大いに興奮させました。しばらくすると波が何度も何度もやって来ました。その後、サケは滝近くの白く泡立つ水から飛び跳ねなした。そして、追跡は続きましたが、雌カワウソは子供達の助けなしでは無駄だとわかり、彼らを呼びました。すぐに彼らは池に滑り込み、追跡に加わりました。


今や、サケがどこに逃げてもカワウソ達が待ち構えていました。自分が危険に晒されていることを認識した彼は、下流域に到達しようと大胆にも浅瀬に飛び込みました。3頭の獣が猛烈な速さで水面を切り分けて追いかけ、彼がまごついている間に、雌カワウソは近づいて彼のエラの下に食い付こうとしました。彼には、滑りやすい鱗と敵を鞭打って払いのける尻尾以外に防御手段はありませんでした。しかし、これらは実際役に立ち、食いつかれる前に、彼は深い水域まで奮闘して逃げ込み、そこで追跡者達を簡単に振り払いました。彼は池を次から次へと全速力で通過し、急流のふもと近くにある避難場所を目指しました。彼は川を上る途中でその避難場所で休んでいたのですが、今はそこに逃げ込み、発見されるのを恐れて息を切らしながらそこに留まりました。カワウソ達は間もなく激流の上方に姿を現し、頭をアヒルのように下げ、流れによってぶつかりそうな岩を避け、流れを下りながら魚を探しました。数秒以内に、彼らは魚が疲れ果てて横たわっている場所に近づき、少なくともそのうちの1頭が魚を見つけると思われました。しかし、そうではなく、彼を匿う岩、または泡立つ水が彼に味方します。狩人達は去って行きますが、しかし彼はまだ安全ではありません。彼らが流れに逆らって急流を狩り立てるなら、彼らは彼を見逃すことはほとんどありません。しかし彼らはそうするでしょうか?どうやらそうではないようです――少なくとも今のところそうではありません。日の出が近づいているにもかかわらず、彼らは続けました。彼らは、サケを捕まえることを期待して、邪魔するグリルス(訳註:小型のサケ)を完全無視して、岩の空洞や窪みを徹底的に調べました。東方に広がる薄暗い松林は次第に明るみを帯び、彼らは熱心に泳ぎ続けました。


しかし、木立の間から何か聞こえ、彼らは一斉に探索をやめました。下流で不審な音があり、彼らに警報を発しました。川のせせらぎや木々の梢の荒々しく擦れる音の中で、再びよく透る音が聞こえ、彼らは全身を耳にして聞き入りました。それは角笛を吹き鳴らす音でした。2度狩られたことのある雌カワウソは、猟犬の叫び声を除けば、何よりもその音を恐れていました。そして、笛の音がやむ前に、彼女と子供達はサケ池の巣穴に完全撤退しました。急流に達する前に長い間隔を空けて浮上と呼吸を繰り返し、そこで水から上がり、まるで恐怖そのものが彼らのすぐ後に迫っているかのように、岸辺を疾走しました。頂上で彼らは再び川に入り、滝近くのハンノキの根の避難所に逃げ込みました。


子供達は巣穴の中で安全を感じ、いつものようにトイレをしました。しかし、雌カワウソは耳を傾け、やがて恐ろしい叫び声を聞きました。子供達もそれを聞きました。彼らも母親と同様に警戒体制に入り、敵の接近を知らせる喧騒が大きくなると、避難場所の一番奥に避難しました。すぐに猟犬達が池に入り、巣穴の周りに狂ったように群がりました。

「はっきりした足跡ですね」医師が領主に叫びました。

「奴は間違いなくここにいますよ」

先頭の猟犬たちは、白い歯の間からシューシュー音を立てて立っている雌カワウソの姿を見ることが出来ましたが、彼女に近づくことは出来ませんでした。そこで、テリアを中に入れるために猟犬達は呼び戻され、激しい戦いの末、雌カワウソを水の中へ追いやりました。

「おい!見ろよ!」

という叫びが上がり、水の中に浮かんだ泡が彼女の所在を告げていました。そして次の瞬間、12頭の猟犬が棒(stickle)に向かってカワウソを追い立てました。そこで十数人の男たちが横一列に並び、棒を立ててカワウソが逃げるのを阻止していました。


雌カワウソは大きな池をぐるぐると泳ぎ、今度は岸の下に上がり、今度は猟犬たちの間に入り、かろうじて彼らの顎から逃れました。彼女は何度も子供達のところに戻ろうとしましたが、いつもテリアによって追い返されました。猟犬たちにひどく追い立てられた後、ついに彼女は上陸し、白いテリアに尾にくっつかれたまま、男たちの列を駆け回り、向こう側の水に逃げ込みました。彼女は驚くべきスピードで曲がりくねった道をたどり、急流に達し、狩猟の歴史で有名なロンゲン池に逃げ込むことに成功しました。しかし、猟犬たちは再び彼女をひどく圧迫し、しばらくすると、彼女は丘の中腹の入り組んだ雑木林に出て、そこを横切り、イバラで覆われた古い生垣に到達し、追跡を逃れたと信じ、そこで周囲に耳を傾けながら横たわりました。しかし、彼女は燃えるような香りを残しており、すぐに追手の叫び声が彼女の希望が無駄であることを告げました。それにもかかわらず、彼女はあまりに疲れており、生垣の近くにある池には隠れる所がないので、彼女はそこに留まりました。猟犬たちはすぐに彼女の居場所を嗅ぎつけましたが、藪の密さが邪魔をし、テリアたちが彼女を川に追いやるまでは猟犬が彼女に近づくことは出来ませんでした。浅瀬では、誰の目でも彼女が泳ぐ場所がわかり、潜水時間が短くなっているのがわかりました。最後はすぐにやって来ました。浮上してきた彼女をドズマリーが捕まえ、猟犬の群れは彼女を咥えて振り回し、その命を振り落としました。


その夜、嵐が去った時、粉屋は果樹園の向こうの絡み合った雑木林で2頭のカワウソの鳴き声を聞き、屋内に入る前にパイプから灰を払い落としながら言いました。

「あいつらは母親を亡くして悲しがっているんだ」

彼は正しかった。それは母親を呼ぶ子供達の声でした。


次の夜、そしてその次の夜も彼らはそこにいました。その後彼らは捜索を諦め、荒野へ戻って行きました。


このように自分達だけで生きていくことになった彼等が、なんとかやりくりすることが出来たのは幸いでした。実際、これまで見てきたように、雄の子供はすでに母親の権威に対する反抗と独立への願望の兆候を示していました。


彼は今や自由で、好きなように歩き回ったり、好きなように小道を通ったり離れたり、いつでもどこででも魚獲りをすることが出来ました。彼の妹は彼に対して何の影響力も持っていませんでした。しかし、利己的で頑固なやり方にもかかわらず、彼は信頼出来るリーダーであることが証明され、彼の行動は非合法な生き物の警戒心によって触発(inspire)されていました。彼は遅く起きて早く寝ることにこだわりました。彼は放浪への情熱を抑え、巣穴の選択において稀な判断力を示し、常に強さに重点を置いて巣穴を選択し、緊急時に避難できる深い水域が近くにない巣穴は避けました。遠出に出かける時、彼は通常、上流に1〜2マイルの所で魚獲りをし、夜が明けるまで遊び、その後流れに乗って戻り、途中の急流や小さな滝で獲物を獲りました。しかし、彼と彼の妹は不安に取り憑かれていました。彼らは敵が潜んでいる可能性のあるあらゆる藪、岩、岩石を注意深く調べました。そして一度、最近猟犬に殺されたばかりの同族の遺体に遭遇した時、彼らの不安は恐怖へと膨らみました。それを発見すると、彼らは、息を吹き出す音から分かるように、驚愕し、すぐに支流を捨てて川に向かい、慌ただしい逃避行の末に水車小屋の下流に仮の宿を取りました。翌日、彼らはこの巣穴に横たわっていましたが、次の日には「潮の終わり(Tide End)」の堰池の土手の下に落ち着いていました。そこで彼らは、正午近くに潮が満ちてきて彼らの寝床に侵入した時に目覚め、対岸に避難せざるを得なくなりました。そこにはすでに若い雄カワウソが横たわっていました。彼らがやって来たことに彼は少なからず驚きましたが、彼らが自分と同じカワウソであると見るやすぐに落ち着き、すぐに3頭ともぐっすり眠りました。夕暮れ時に彼らは一緒に旅を続け、沼地の下のサケ池で魚獲りやスポーツをした後、ハンノキの根を探しました。翌日、彼らは再びそこに横たわっていましたが、その日は兄妹が別れ別れになる日でした。というのは、出発の時に、兄が水辺に移動し始めると、その瞬間まで最も忠実な追随者だった妹が、兄に背を向け、その余所者カワウソを従えて森に向かったからでした。彼女は兄を捨てて恋人を選びました。彼女は確かに動物ですが、何の後悔の兆候もなく、これまで生まれてからずっと一緒に暮らして来た兄を捨てることが出来るのでしょうか?彼女の足取りの遅さは、長い間彼らを結びつけてきた絆を断ち切ることを躊躇しているかのようでした。確かにその通りでした。ちょうど下草に入ろうとした時、彼女は立ち止まって振り向くと、兄が彼女を見ていることに気づきました。しかし、次の瞬間、彼女は彼の視界から消え、彼の人生から消えてしまいました。彼女は連れ合いと共に、木こり小屋と石塚(cairn)の脇を通り、遠くのムール貝の湾につながる小道を辿って行きました。

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