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放浪のカワウソ  作者: Nihon_Kawauso
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水泳トレーニング

第2章 水泳トレーニング


子供達が生後8週間を少し過ぎた時、母親は彼等を池に連れて行き、泳ぎを教えようと決心しました。そして、ある星空の夜、彼女は、新たな遠出に興奮してはしゃいで大喜びしているこの若い獣達を、それまで彼らの狭い世界の境界線だった高台のへりまで導きました。そこで、雌カワウソが立って偵察している間、子供達の目は不思議そうに斜面や急な窪みから渓谷を越え、雌ギツネが鳴いている森へと彷徨いました。危険が迫る気配はなかったので、雌カワウソとと子供達は、岩が散在する水路に沿って轟音を上げながら流れる川とは対照的に、とても静かに横たわる、微かにに銀色に光る池を目指しました。そこにたどり着くと、母親はゆっくりと泳ぎ始め、まるで子供達に自分について来るように誘うかのように頭を振りながら、小島に上陸しました。そして、彼らの感情に働きかけ、彼らを水の向こう側に誘き寄せるために、枯れたスゲの中に身を隠しました。子供達の鳴き声が示すように、これには効果がありました。しかし、引き離されたことに悲しみながらも、彼らは池に飛び込むのを恐れていました。仕方ないので雌カワウソは、縮み上がった動物たちが立っていた陸地から数フィート以内のところまで泳いで戻りました。そして、彼等を呼びながら、ゆっくりと島に戻りました。


彼女はこれを何度も繰り返し、知っているあらゆる策略を駆使して彼らを説得しました。しかしすべて無駄でした。3晩の間、彼女のあらゆる骨折りにもかかわらず、彼等は誘いに乗って水の中に入ろうとしませんでした。ついに、彼女が諦めかけたその時、小さい方の子供がためらいを克服しました。足場を失うまで水の中を歩き、それから勇敢に泳いで渡り、小さな身をくねらせながらジャンプして上陸しました。そして、その長さ14インチの体に沿って、絹のような毛のすべてから水飛沫を飛ばしました。その後、スゲの上を転がって毛皮をより完全に乾かしました。雄の子供は彼女の行動をじっと観察していましたが、今では一人残されてしまい、戸惑っていました。そして、世にも哀れな鳴き声をを発しながら、しばらく岸辺を上り下りした後、他のカワウソ達を追って渡り、妹がしたように毛皮を乾かしました。やがて彼らは全員泳いで元の陸地に戻ってきました。巣穴に戻るまでに、彼らは4回以上横断を繰り返しました。そして一度だけですが、雌カワウソが餌を食べに出かけて留守の時、子供達が単独で渡ったことがありました。


この夜から彼らの水への恐怖は和らぎました。彼らの順調な進歩に波紋はほとんどなく、すぐに彼らは池の周りをぐるぐる回る母親に同行することが出来るようになりました。妹カワウソが疲れると、雌カワウソはペースを緩め、体を低く沈め、背中に乗せて浅瀬まで運びました。しかし、兄カワウソは常に自分の世話をしなければなりませんでした。その後の上達は非常に速やかでした。そして一週間後には水がとても気に入ったので、巣穴から解放されると、母親より先に池に急いで行き、そこにたどり着こうとするあまりにつまずいたり転んだりしました。


若い動物達は「かくれんぼ」が大好きなので、彼らは母親がやって来る前に身を隠すことがよくありました。彼女の接近に気づくと、彼らは鼻の穴だけが見えるまで頭を水面下に引き込み、興奮でゾクゾクしながらも、発見されるまでハンノキの木が引っ掛かかったかのようにじっと動きませんでした。その後、母親と子供たちは遊びに参加し、時には水面で、しかしより多くの場合は水の深みで一緒に戯れました。そのうち彼らは、あたかも死闘をしているかのように、1つの塊になって浮き上がり、流れの中に浸かったボールのように何度も転がり回りました。水中で遊んでいる時、頻繁に起きることですが、一斉に彼らは離れ離れになり、上陸し、岸辺を一周し、お互い全く見知らぬ同士であるかのようにすれ違いました。そして突然、まるで合図したかのように再び水面に上がり、戦争ごっこを再開します。ある時、彼らがこうして遊んでいたとき、川から1頭のカワウソの笛の音が聞こえてきました。瞬く間に彼らはふざけ合うのを止め、並んで浮かびながら、旅人のカワウソが谷を越えて、その声が微かになるまで耳を傾けました。それから彼らは再びはしゃぎ始めました。


池の中での彼らの動きには、素晴らしい安らぎと優雅さがありました。雌カワウソは彼等を速い流れや渦にもすぐに連れて行きましたが、そこでもより以上に優雅な動きを見せました。彼らは何時間もかけてサーモン池の下の急流を泳いで通過し、長い流れの終わりに水の勢いが弱まる場所で上陸しました。そして岩場の岸を登ってまた速い流れを見つけます。この気晴らしは非常に魅力的でしたが、母親の制止がなければ、この熱心なカワウソ達は安全に戸外に出かけるようになるずっと前に巣穴を出て川に向かっていたでしょう。確かに、一度は彼らのしつこい要求に負け、彼女は屈服して彼らを外に出させました。しかし、この譲歩は彼らの要求をさらに激しくしただけでした。翌日、太陽が尾根の向こうに沈み、高地の影が泥沼に落ちた瞬間に、彼らは彼女に自由を求めました。しかし彼女は彼らの懇願に耳を貸しませんでした。そして、彼らが言うことを聞かず、彼女を強引に通り抜けようとした時は、何度も鋭く咬んで彼らを罰し、彼らを引き留めました。


この頃、彼女は、一生懸命彼等を誘惑して魚を食べさせようとしたのですが、彼らが一向に食べようとしないことにも悩まされていました。彼女がサケの幼魚、マス、ウナギのどれを提供しても、彼らはどれも同じように顔をそむけ、決して触れようとしませんでした。それにもかかわらず、彼女は粘り強く続けました、ある夜、急流の下の深い池のほとりで、雄の子が彼女の口からマスを受け取りました。そして次の夜、夜明け前に彼の妹も同じことをしました。固形食品への嫌悪感が克服されると、新しく獲得した味覚を訓練することで発見した喜びを証明するかのように、新しい食事について会話するようになりました。あるいは、掴んだ魚のうごめきや震えによってその野蛮な情熱がかき立てられると、怒ってシャーという声を上げることさえありました。彼らは獲物を前足の間に挟み、真珠のような歯で繊細な一口を噛み切り、飲み込む前に細かく噛み砕きました。最も注目に値するのは、母親が用意してくれた魚を2匹食べる時の様子でした。マスの場合は頭から食べ始めましたが、ウナギの場合は上半分は手をつけず、下の部分だけ食べました。


魚の食事は重要な変化をもたらしました。子供達は凶暴になり、同時に恐れるようになりました。もはや、彼らを巣穴に留めたり、時折横になって休む川岸の休憩所(holt)に留めたりする必要はなくなりました。母親はもう、子供達を夜明けの叫び声(dawn-cry)に従わせ、自分の導くところに従わせるのに何の困難もありませんでした。それ以来、恐怖感は影のように彼らの生活の上に横たわり、彼らの成長とともに深まっていきました。それは、見慣れない物体を疑ったり、見知らぬ音を聞くと身をかがめたり、水に近づこうとしたりする様子に見られました。水辺監視官が岸に残した瓶のせいで、彼らは大きく回り道をすることになりました。そして、ギクシャク歩くアナグマの足の下で棒が折れる音を聞いて、物音を立てずに動く彼等は恐怖のあまり正気を失いそうになりました。雷雨がその鮮やかな閃光で彼らを怖がらせたこともありました。そしてある日、母親が目を覚ますまでは、輝く虹さえも警戒の源になりました。


こうした些細な恐怖に続いて、3月の終わり頃、カワウソ達にとって決して忘れられない出来事が起こりました。この出来事は、カワウソの子供達を驚かせた以上に、雌カワウソを驚かせました。それはある午後遅くに起きました。雄の子供は2度目の眠りから目覚め、母親の脇腹に頭を乗せて休み、風に吹かれる泥沼の上に薄れていく光を眺めていました。一時的な静けさの間に、葦の擦れる不可解な音が彼の耳を捉え、彼は身を起こしました。その驚いた動きが母親と妹に伝わり、3頭のカワウソは、騒がしい侵入者の姿を草の間からじっと見ていました。次の瞬間、彼らは一匹のキツネが、わずかに足を引きずり、葦の間からよろめきながら現れ、土手から小川に落ち、水を飲み、頭を上げて耳を傾け、また水を飲むのを見ました。それから泥がこびりついた体で骨折って進み、ずぶ濡れになって対岸を駆け上がり、視界から消えました。彼が向かっていると思われる、川を越えてずっと遠くまで行くことは出来ませんでした。その前に猟犬の姿が1頭現れ、さらに2頭現れました。そしてすぐに猟犬の群れの本体が現れました。群れは高地の頂上に溢れるように現れ、沼地に向かって峡谷を流れ落ちて行きました。すぐに彼らは姿を消しましたが、群れが川に近づき、視界いっぱいに広がると、突進の音と混じり、次から次へと鳴き声がカワウソ達の耳に届いて来ました。数分後、2頭の泥に汚れたテリアが鳴き声をあげながら横切ると、沼地はいつもの静けさを取り戻しました。これらすべてをカワウソ達は、歯をむき出し、眼窩から目を飛び出し、太い首の毛を逆立たせ、シューシュー音を立てながら見ていました。すべてが再び静かになった時でさえ、大きな恐怖が彼等を虜にしていました。彼等の野生の本能は奥深くまで掻き立てられました。彼らは耳を傾けて聞き続けました。しかし、かすかな角笛の音以外は何の音も届きませんでした。出かける時間が過ぎても、カワウソ達は動きませんでした。ついに、ホウホウという鳴き声を森に満たしているフクロウによって気を取り戻し、彼等はこっそりと川に降りて行きました。


カワウソは魚を獲りましたが、遊びに興じる時間は一瞬もありませんでした。そして、怯えた生き物達は上部が半分川に沈んでいる倒れた松の枝に隠れ場所を探しました。枝に引っかかった漂流物の中に隠れ、すぐ下には深い水たまりがあったので、彼らは安全を感じ、ついには沼地で過ごした時と同じようにぐっすり眠りました。


翌日もつづく日々も彼等は同じ隠れ場所に行きました。彼らは起きている間、渦巻く水と上昇するマスを眺めていました。そして時々、あたかもニレの深紅の花に引き寄せられるかのように、その向こうの樹林帯を眺めました。森の木の開花が冬の終わりを告げるだけでなく、アヤメ(flag、訳注:刀状の葉をもつ植物)や葦の緑の芽が恥ずかしそうに同じ話を囁き、沼地や谷の野生の水仙がそれを告げました。背の高いモミにいるキクイタダキ(gold-crest)が小さなそばかすのある卵を産み始めていました。池際の一本ポプラにいるツグミ(throstle)が川のほとりで彼女の青緑色の宝物を守っている伴侶に歌いかけました。一方、崖の上のカラスはすでに雛に餌を与えるのに忙しく働いていました。日に日に日差しが強くなり、西風が吹くとプラタナスが新緑の葉を広げました。そして間も無く、下界の慌ただしい活気に呼応して、彼等を覆う森の全ての蕾が開き、春の到来を迎えました。


暑い日の終わり、毛皮を纏った野生動物達は皆自分の毛皮を重荷に感じ、日没と飲み場を待ち望んでいた頃、夜の散歩を徐々に延長していた雌カワウソは、水の一部が静かな水車用導水路(mill-stream)に分流される地点まで、子供達を連れて川を3マイル下りました。彼女は川岸に沿って、粉挽場の敷地(mill-yard)に通じる門まで彼らを連れて行き、そこで3頭全員が立ち上がって、向こうの草原で鳴いているカエルの声をしばらく聞いていました。それから彼らは低い横木(bar)をくぐり抜け、庭を横切り、家の脇を迂回し、騒音が聞こえてくる側溝に向かって急ぎました。彼らが近づくと鳴き声は止み、カワウソが水に入る前に、どのカエルも水底に隠れ場所を探しました。雌カワウソは潜るとすぐに、2匹のカエルを口にくわえて浮上しました。彼女はこれらの皮を剥いで子供達に与えました。それが美味しい食べ物だとわかり、もっと欲しければ自分で獲らなければならないことを学び、彼らは容易い狩に参加しました。そして彼らは生まれて初めて自分で獲った獲物で空腹を満たしました。


ついには、彼らは1匹のカエルをめぐって小さなトラのように喧嘩し、それぞれがそのカエルの所有権を主張しました。あまりにも喧嘩の音が大きかったので、粉屋はベッドから起き上がり、窓を開けて騒ぎの原因を調べました。窓枠の軋む音が彼らを黙らせ、警戒させました。次の瞬間、カワウソ達は全速力で川へと向かっていました。1時間後、襲撃者達は危険が潜む粉挽場の外を通るルートで帰宅を始め、無事に沼地に到達しました。雌カワウソはすぐに眠りに落ちましたが、子供達は起きて横たわったまま、その夜の出来事をずっと考えていました。彼らの頭を占めていたのはカエルではなく、粉挽場の何もない庭でも、そこを横切った時の恐怖でもありませんでした。彼等がずっと思い浮かべていたのは、窓に現れた夜帽をかぶった怪物の姿でした。

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