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放浪のカワウソ  作者: Nihon_Kawauso
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揺籠で

第1章 揺籠で


彼が産まれたのは、丘陵地帯のくぼみにある泥沼の中でした。彼の母親は、無力な幼ない子供達のための安全のために、この近寄り難い困難な場所を選びました。沼地の中心にいれば、洪水や、そして、彼女にとってさらに重要なことですが、人間からは安全だろう、と彼女は考えました。彼女は自分好みの巣穴(hover)を見つけることが出来ませんでしたが、より良いものがないため、彼女は、沼地から流れ出る川にある突き出た岩棚を選びました。そこでは、谷を吹き上げ高地に吹き荒れる刺すような風を土手が防いでくれました。彼女は岩棚を拡張した後、巣穴を形作り、それを枯れたイグサや萎れた草で整えました。そして、彼女は自然が彼女に与えた最も柔らかい産物、つまりボロボロの葦、羽毛、そしてヒヨドリの種を敷き詰めました。彼女は夜な夜なこれらの貴重な戦利品を求めてゴミを漁りました。例え完成する前であっても、その中に預けられた子供達にとって居心地の悪いものにならないようにするためでした。


彼女の愛情を分かち合えるのは2頭だけでした。それは、狩られる者が子に注ぐ熾烈な愛情でした。彼等が産まれた時から、彼女は彼等を奪い去られる恐怖に取り憑かれました。しかし幸いなことに、子供達自身は恐怖を知らず、自分達を愛撫して乳を与えてくれる暖かくて毛皮に覆われた母親以外何も知りませんでした。幼獣と母獣は一体でした、なぜなら彼女は餌を得る時以外はほとんど子から離れることがありませんでした。そして彼女は、早く彼等のもとに戻るために、熱に浮かされたような勢いで獲物を探し、貪り食いました。彼女は沼地そのものの中で時々餌を探しました。それは本当です。でもいつもは、長く起伏のある坂のふもとにある川に行かなければなりませんでした。狩場が遠く離れていることの不便さはしばしば彼女に重荷になりましたが、彼女はそれを我慢し、沼の安全な棲家から子供達を移動させることは一瞬たりとも考えませんでした。


1月の灰色の空のもと、雨、みぞれの降る中で、荒野とその中の沼地以上に侘しい景色はありません。それでも、空洞になった土手には、カワウソと、彼女が真冬の冷たい慈悲に託した、盲目で綿毛に覆われた小さな動物達が、巣穴(hover)の中でぴったりと寄り添って横になっていました。そして、厳しい季節は時々やわらぎ、太陽が冷たく湿った大地に暖かさを与える明るい日々に少しづつ変わっていきました。沼地とその周りのすべての丘が光に包まれ、巣の端から覗き見える増水した小川は銀色に輝いていました。冬を過ごす動物達(winterlings)への自然の恵みをすぐに受け入れたカワウソは、誰にも見られてないことを確かめ、子供達を唇の間に挟み、薄暗い巣穴(hover)から運び出し、うずくまる姿を遮る草むらの上に彼等を置き、いつでも守れるようにしました。そこで幼獣達は体を伸ばし、健康をもたらす光線を浴び、静かに満ち足りていました。しかし、太陽が雲に隠れると、彼らは温もりが失せたことに不平を漏らしました。そして、そのような無情な扱いに対してもう一人の母親に抗議するかのように、瞬きする目を空に上げました。


この時すでに彼等の目は開いていました、まるで自分達の安全を絶えず見守っているような、黒くて落ち着きのない目でした。もちろん、その雌カワウソはなんとか少し眠ることができましたが、それは非常に浅いものでした。鳥の驚く音、あるいは突風が吹いた時突然葦がカサカサ音を立てた時でさえ、彼女は隠れていた草から頭を突き出しました。そして大抵の場合、地平線と目の届く範囲内の地面を注意深く観察し、その後再び横になり、短い睡眠を取りました。しかし、彼女の疑念を正当化するような侵入が何もない朝が続くにつれ、彼女の警戒心は徐々に緩みました。そしてある正午、彼女は夜の採餌にとても疲れていた時、彼女の持ち場で丸まり、ぐっすり眠ってしまいました。


彼女が眠っている間、鳴きながら地表の獲物を探していた一羽のノスリが、カワウソの子供達を見つけました。彼らが格好の獲物だと思い、容易い獲物を捕らえようと彼は急降下を開始しました。彼がその小さな子を捕まえようとした時、奇妙な鳴き声で目覚めた母カワウソが隠れ場所から立ち上がり、彼の前に立ちはだかりました。彼女の姿を見て、ノスリは驚いて逃げることだけを考えましたが、母親は復讐すると決意していました。彼女は稲妻のように素早く彼に向かって飛びかかり、彼女の足元の小山(hummock)が下に崩れ落ちていなかったら、鳥は大きな翼を必死に羽ばたいて飛び立とうとしていましたが、彼女は間違いなく鳥を捕まえていたでしょう。彼女の獰猛な目と逆立った体毛は、襲撃者の退却を見つめながら立ち、激怒してシューシュー音を立てている彼女の姿を、見るのも恐ろしいものにしていました。それから、争いが他の動物の注目を集めることを恐れ、彼女は鳥から目を離し、泥沼へ近づくものがあるかどうかを注意深く観察し、子供達を巣に連れて帰りました。そこで彼女は、彼らが眠りに落ち、芝生の上の日当たりの良い休息所を忘れるまで、彼らを愛撫して彼らの不満を静めました。この出来事はこの雌カワウソを非常に悩ませたので、子供達がいくら駄々をこねても拒絶し、2度と子供達を捕獲される危険に晒すことはありませんでした。


巣穴(hover)の単調さを打破するために、四肢が強くなった子供達は、睡眠の合間に巣の広い手すり壁(parapet)によじ登って、狭い野原の中で動くものに注目しました;身を震わせる草、流れの中で行ったり来たりするイバラの小枝、風にうなずく葦、そして何よりも、餌を獲ったり喉の渇きを潤したりするために小川を訪れる生き物達;彼らはシギの一歩一歩、そして長い嘴による全ての突きを観察しました;彼らは突き出た岩棚に止まって池で魚を釣る陽気なカワセミを驚きの目で眺めました;彼らは、葦から水を盗んで飲んだ年老いた雄ギツネに鋭い好奇心を感じ、彼等の若い鼻孔を働かせてそのキツネの強い匂いを嗅ごうとしました。足の裏を広げ、水掻きのあるつま先をすべて広げて足場を確かめると、彼等は、巣の端まで進み、薄暗い灰色の頭を草のカーテンの中に突っ込みました。そして、下でゴロゴロと渦が鳴るのを見下ろしながら、彼らの人生がそこで過ごし、そのあらゆる変化を知ることになる要素(訳注:水のこと)について考えを巡らせました。


彼らは他のどの若い生き物よりも子猫に似ていましたが、違いは小さな耳と内気で野生的な目にありました。しかし、彼らの表情が恐れを示していたにも関わらず、彼らは土手をよじ登って沼地に大の字になった時でも、自分達を襲う危険にまだ気づいていませんでした。雌カワウソはどのような天候の時でも彼等をそこへ連れて行きました。そして、彼女が餌を探し終えた瞬間に急いで彼らの元に戻ったのはこの義務のためでした。時々、獲物の不足や採餌の難しさのために、夜遅くまで彼女は手間取り、彼女の帰りを待ち望んでいる子供達の忍耐力をひどく痛めつけました。彼女が帰ってくる音に聞き耳を立てる合間に、彼らは乱れた巣の周りを歩き回り、彼女の気配がないまま時間が経つにつれて速度を上げていきました。やがて、嵐や土砂降りの中でも聞こえる甲高い笛吹音(whistle)が彼らの耳に届き、彼らは喜び勇んで踊りだしました。彼女が足を岩棚の上に置くとすぐに。2つの毛むくじゃらの頭と小さな赤い舌が、息を切らしている母親を迎えました。そしてその後、彼女が大葦原の向こうの遊び場(gambolling-ground)に向かうと、はしゃぎ回る子供達が彼女を追いました。そこで彼らは暗闇の中で心ゆくまで遊びまわり、日が登って濃い霧が泥沼を覆っても続けました。巣穴に戻ると、雌カワウソは彼らに乳を飲ませて眠らせました。そして、彼女の変わらぬ習慣として、彼らと巣穴の入り口の間に横たわり、寒さと危険から彼らを守りました。


これらは母カワウソにとって幸せな日々でしたが、雄の子のわがままさのせいで長くは続きませんでした。彼は自分は一人で外を出歩けるほど大きいんだと頭の中で思い込み、ある夜、彼は思い切って外に出ました。母親が彼を見つけたとき、彼は葦原の半分を過ぎたところでした。この初めての自立表明には彼女はほとんど心配しませんでしたが、2日後に彼女は不安で我を忘れそうになりました。その日、彼は白昼堂々散歩を試み、ほぼ逃げ出すことに成功しました。彼は岸辺を越えそうになっていました。彼女は彼を尻尾を咥えて引き戻し、罰として彼を鋭く締め付けました。そして次の日、懲りない男の子はさらに遠くへ行ってしまいました。しかし、彼女は彼が草むらを越える前に彼の不在に気づき、彼を連れ戻し、巣に転がして激しく噛みつきました。こうして従順でないことは巣穴に不幸をもたらしました。そして子供は、彼が鬼婆だと思った母親から後退り、一番奥の隅に足を引きずって行き、そこでは繊維状の根が低い天井から突き出ていましたが、そこで不機嫌そうに一人になり、傷を舐めました。


今では男の子の軽率さに気づいた雌カワウソは、以前は時々していたように日中に巣を離れる気がなくなりました。しかし、ある正午、自分自身の空腹と、子供達の餌を求める哀れな願いに突き動かされて、不安を脇に置き、彼等を自由に任せてこっそり外へ出ました。彼女は四つ足で出来るだけ限り早く走り、泥炭の地面を裂く裂け目に沿って丘を下り、下の空洞にある膨らんだ池に飛び込み、いくつかのハンノキを越えて草地を駆け抜け、誰にも見られずに川に到着しました。川は土手ほどの高さでかなり変色していましたが、長い探求の末、彼女は1匹のウナギを捕らえました。向こう側の茂みの下に上陸すると、彼女は魚の半分を食べ、すぐに川に滑り込み、流れに乗って下りました。彼女は速いペースで川の屈曲部を次々と曲がり、水が澱んだ所で上陸し、伐採された木々を飛び越え、同じように誰にも見られずに沼地に戻りました。彼女が落胆したことに、巣には誰もおらず、放置されて冷たくなっていました。彼女は悲嘆に暮れ、家出人達を探しに出かけました。彼女は彼らの足跡を追って葦原まで行き、そこを狂ったように駆け抜けました。そして、恐れなど知らずに無邪気に屋外で遊んでいる彼女の2頭の子供達に遭遇しました。母親の姿を見つけると、家出人達は罪の意識などさらさらなく、手足を不恰好に動かして全速力で母親に会いに駆けつけました。そして、彼女を真昼間の乱痴気騒ぎに参加させるために、おどけた仕草を見せました。彼等の予想と違って、彼女の反応は、彼らを物陰に引きずり込み、より小さい方の子供を口にくわえて巣に運ぶことでした。そして首謀者の元に戻ると、首謀者は激怒して金切り声を上げ、ついに巣穴の下の池に突っ込まれました。黒い毛皮をまとったその生き物は、特に雌カワウソが露出した空間を水を跳ね飛ばして行く際に目立つ物体でした。しかし、幸運なことに、彼女と子供達は両方とも、泥沼を見下ろす丘の上で時折現れる監視員の目から逃れることが出来ました。それでも、この哀れな無法動物は鋭い教訓を教えられ、2度と日中はいかなる口実でも子供達のそばを離れることはないと決心しました。彼女は彼らの逃走に非常に動揺したため、彼らの中で恐怖が目覚め、その恐れが彼等に注意を促すようになるのを望みました。


その間、彼女は彼らが遠くまで彼女を追いかけることが出来、彼女が彼らに教えたいと思っていた多くの教訓を学ぶことができる日が来るのを待ち焦がれていました。そして彼らの速やかな成長を促すため、彼女はできる限り多くの時間を彼らと遊ぶことに費やすことにしました。

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