故郷に戻る
第11章 故郷に戻る
老人の目から消えると、カワウソは崖の方へ向かい、そこで体を寄せて横たわり、日が暮れるのを辛抱強く待ちました。その時連れの元に戻るつもりでした。彼が水の中に入った時、日はまだほとんど明るいままでした。出かけるのには早い時間でしたが、それほど遠くに行かないうちに、彼女が自分に向かって泳いでくるのを見つけました。そして彼女が幼獣を口にくわえているのが見えました。銃声が聞こえ、彼女は自分の子供達の安全を心配し、一番小さな子供を最初に隠れ家(clitter)に移動しました。海は荒れていて、波飛沫で目がくらむほどでしたが、彼女は貴重な荷物を持ち続け、岩の後ろの洞窟に到着し、そこの巣にずぶ濡れの子供を置きました。それから彼女は別の子を求めて急いで戻りました。その子を最初の子の横に置き、また別の子を連れ出し、さらに別の子を連れてきて4頭全てを安全な場所に揃えました。
彼女は最後の1頭を巣に置くとすぐに、猛烈な空腹を和らげるため、獲物を求めて崖とアザラシ岩(Seal Rock)の間の海底を探索している連れに加わりました。何時間も2頭は海底を探しましたが何も得られませんでした。しかし、彼らが諦めようとした時、大きなイセエビが入った壺(stray pot)を見つけました。これは予想してなかったので2頭は喜びました。獲物を手に入れようと必死になり、飢えた動物達はネズミ捕りの周りのテリアのように、コリヤナギの枝で出来た檻の周りに群がり、格子の間や上部の開口部から中に入る道を見つけようとしましたが無駄でした。その開口部は波で岩に何度も打ち付けられたためほとんど閉じていました。それはとても焦ったい状況でした。カワウソ達の唯一の望みは、潮と大波のうねりで檻が岸に打ち上げられ、崖に打ち砕かれてイセエビが自由になるまで、檻の近くで待つことでした。それで彼らは長い夜の間、息をするため以外はそこを離れませんでした。最終的に、彼らの忍耐は報われました。波が罠をつかみ、何度も何度も転がし、2つの岩の間に挟み込み、棒の1つを打ち砕いて穴を開け、雌カワウソがなんとかそこを通り抜けました。瞬く間に彼女はイセエビを掴み、噛み砕いて昇天させました。彼女を覆っていた波が引くとすぐに、彼女は獲物を貪り始めました。彼女がごちそうを食べている間、カワウソは中に入ろうと必死に努力しましたが失敗し、やがて諦め、柵の間から漏れ出た破片で満足しました。潮が満ちてきましたが、この小さな生き物は、水の急流や、壺の重しになっていた石による打撃にも動じず、触角と甲羅の硬い部分を除いてすべてを食べ尽くすまで、その場に留まり続けました。それから、入ってきた通路を戻って去り、夜明けの光の中、岩礁や岩棚を避けて、真っすぐに隠れ家(clitter)に向かいました。彼女の頭にあるのは、お腹を空かせた子供達のことだけでした。太陽がまだ高く昇る前に、彼女は子供達にたっぷり乳を与えることが出来ました。
その日、雪解けが始まり、アザラシ岩(Seal Rock)に1羽のヒメウが現れました。崖からの水滴を避けるために居場所を変えていた雄カワウソは、しばらくヒメウの魚獲りを観察した後、自分も始めました。長く実りのない探索の後に、彼は陸に上がりました。しかし今、彼は窮状にあり、もはや自分の安全に気を配ることもせず、無防備な花崗岩の岩の上で横たわっていました。幸いなことに危害はありませんでした。彼と連れは夜通し岩の向こうの深い水域で魚獲りをしましたが、まだ魚は1匹も見えず、太陽が海から顔を覗かせると彼らは絶望して崖に戻りました。正午、母親は弱々しく小さな子供達をじめじめした洞窟から連れてきて、穏やかな暖かさを楽しむために太陽の光の当たる場所に寝かせました。しかし、彼らはすぐに餌をくれと泣き叫び始め、彼らの泣き声で敵に居場所を知られるのではないかと心配したので、彼女は彼らを巣に連れて帰り、そこで、休むことのない潮のすすり泣きに誘われて、ついに眠りに落ちました。
海鳥の鳴き声で目が覚めた時、彼女は2時間ほど眠っていたかもしれません。彼女は急いで隠れ家(clitter)の端まで行きました。雄カワウソはすでに立ち上がってカモメの群れを見つめていました。カモメの興奮した動きは彼らが魚の上を舞っていることを示していました。彼らが見ている間に魚の群れは消え、カモメたちは魚の群れが水面に戻るのを監視するために(彼らは素晴らしい偵察兵である)分散しました。鳥達が、カワウソ達とアザラシ岩の間の激しく揺れる水域に集まった瞬間、それを待っていたカワウソ達は海に滑り込みました。すぐに、鳥のくちばしにある銀色の戦利品が識別できるほど近づき、2分後には彼らは魚の群れの真ん中にいました。
幸いなことに、その魚はスプラット(sprat、訳註:小型のニシン)だったので、カワウソ達は上陸せずに食べることが出来ました。もし群れが水面に長く留まっていれば、彼らはお腹一杯になったでしょう。しかし、必要な量の十分の一も食べ尽くす前に、魚は再び深みに向かいました。カワウソ達は息の許す限り追いかけ、水面に上がってくると体を上げて魚が行った方向を見つめました。何度も彼らは立ち上がってうねる海面を見つめていましたが、夕暮れが近づきカモメたちが崖に撤退すると、彼らは止め、アザラシ岩に上陸しました。
数匹のスプラットでは飢えを和らげるどころかむしろ増加させてしまったので、しばらく休んだ後、戦いが待ち受けているなど夢にも思わずに、再び魚を探し始めました。というのは、彼らが海底に着く寸前に、1匹の小さな魚が2つの海草の塊の間の隙間を突っ切って横切ったからでした。それを追いかけてすぐ後ろから大きなアナゴがやって来ました。すぐに彼らは追っ手の追跡に乗り出し、昆布から岩へ、岩から昆布へと獲物を追いました。そして、突然方向転換して、追われているとは気づいていないアナゴのすぐ近くまで近づいた時、彼らは下から上昇し、身を捩らせて魚の肉厚の喉に食い付きました。彼らの歯が噛み合うと、魚は襲いかかってきた者達を振り払おうと必死にもがき、静かな深海が振動しました。しかし、彼らは犠牲者が静かになるまで耐え続けました。それから、尻尾と後ろ足を使って、彼らは獲物を何尋も海面まで運びましたが、息が切れたため魚を手放す他なく、そして海面に浮上しました。彼らが再び戻ってくるまで、ほんの数秒でした。しかし、傷を負った魚はその休憩時間をうまく利用し、彼らが洞窟を点検した時、すでに洞窟の入り口に到着していました。彼らは再び魚を水面に向かって引きずり始めました。怪物は彼らに食いつかれて身悶えし、持ち上げられながら先の突き出た岩に尻尾を巻き付けようと何度も試みました。しかし、掴むことができず、星がちょうど水を通して見えるまで、上へ、上へ、そして上へと運ばれました。それからカワウソは再び魚を放し、呼吸するために水面に出ることを余儀なくされました。3度目の試みでは、彼らは魚を捉えるのがやっとの状態でした。それほど魚の抵抗が激しかった。しかし試みでは、凄まじい格闘の末、彼らはそれを水面に上げることに成功し、彼らは幽霊のように静かな獲物の横に横たわって休んだ後、魚を陸に上げようと試みました。間も無く、彼らは潮が流れて行く崖の方まで魚を曳航し始めました。しかし、彼らが遠くに行く前に、アナゴはより強力な敵を選び出し、雄カワウソに巻きつき始めました。しかし、カワウソの滑りやすくしなやかな体形を掴むことができず、まるで自分の無力さへの怒りを発散するかのように海を打ちつけました。それから、頭を振ったり、顎をカチカチ鳴らしたりしました。しかし、カワウソ達は無慈悲にそのまま運び、寄せては砕ける波の端に近づくまで断固とした態度で進みました。そこで極度の疲労から魚を解放し、しばらく休んで体力を回復してから、逆巻く波に乗り込みました。魚は瀕死の状態にあるように見えましたが、突然、砕ける大波の声に呼び起こされたかのように、カワウソ達から身を振りほどき、大きな渦巻きと共に水面下に消えました。まるで閃光のように、カワウソ達は魚を追いかけましたが、2度とも手ぶらで浮き上がりました。3度目に魚は彼らの間に現れました。ほとんどすぐに、さらに大きな波が彼らの上でうねり、カワウソ達をその水塊に埋めこみ、砂の上に投げつけました。その砂の上をカワウソ達は獲物を少しずつ引きずり上げ、波の届かない広い岩のテーブルにたどり着きました。水から上がったにもかかわらず、アナゴは雄カワウソがその大きな背骨を噛み砕くまでもがき続けました。飢えた生き物達が、決して満足出来ない飢えを満たすため、切り刻み、むしゃむしゃ食べては飲み込んでいる間、魚は静かに横たわっていました。ようやく彼らは満腹し、もうこれ以上食べることが出来なくなると、もう夜でしたが、飢餓の日々の終わりを告げる狂宴を終了し、粗末な隠れ家に引きこもって寝ることにしました。
穏やかな天候が続いたため、スケトウダラやカレイが沿岸水域に戻ってきたため、豊富な餌のおかげですぐにカワウソ達は良好な状態を取り戻し、一方、子供達のやつれた様子は消え失せ、速やかに成長し始めました。その時から、雄カワウソと連れとを結び付けていた絆はどんどん緩んでいき、子カワウソ達が泳ぎを覚えてから1週間後、雄カワウソは完全に彼女の元を離れ、孤独な生活を再開しました。
しばらくの間、彼は岬とカモメ岩の近くの崖に留まりました。それから、これらの溜まり場(haunts)に飽きてしまい、彼は反対側の荒々しい海岸に渡り、春の息吹が彼の放浪の本能を活発にし、古巣(old trail)への憧れを引き起こすまで、何週間もそこに留まりました。そこで彼は侵入した岬の地点から再び歩みをたどり、満月の夜に河口を「潮の終わり(Tide End)」まで遡上しました。そこで魚を獲った後、彼は村人たちが起きて活動する前に鉄棒の束の山を隠れ家にしました。近くに人間がいるにも関わらず、彼はぐっすり眠り、夕暮れになると明かりのついた小屋を通り過ぎて森の方へ泳ぎました。そこに上陸し、真っ直ぐ木々の間を突き抜け、獣道の行き止まりにある粗雑な壁に到達するまで立ち止まることなく進み続け、その壁の上に立って、その向こうの湿地帯から聞こえてくる嗄れた鳴き声に耳を澄ましました。やがて彼は、イグサの生えた荒れ地に銀色に光る一番大きな池に向かってこっそりと進みました。しかし、半分まで進んだ時、彼の声が聞こえたか姿が見られた違いありません。カエルの合唱が止まり、すぐに沼地は霜に覆われた時のように静まり返りました。水際に近づくと彼は飛び込み、瞬く間にカエルを獲って戻ってきて、皮を剥いで食べました。これは、彼が捕まえて食べた約10匹の最初のもので、ハンノキの影になっている排水路のような水域に移動する前に、彼は長い間そこで食事を楽しみました。ついに彼は十分食べたので、湿地を出て川に向かい、何マイルも何マイルも川をたどり、沼地に到達し、彼が生まれた空洞のある土手に横になりました。
その間、カワウソ狩りが始まり、田舎の男たちは皆、カワウソの足跡を探していました。切り尾のキツネ(bob-tailed fox)の謎の失踪以来、野生生物にこれほど強い関心が寄せられるようになったのは初めてでした。冬の間中、彼は農夫達の炉端(chimney-corner)で話題になっており、領主の耳に頻繁に入って来ました。ほんのわずかな関連があるだけで、その生き物を思い出すのに十分でした。水の流れる音、法廷でのサケ密猟者の姿、さらには教区教会の仕切りに刻まれた足の短い動物の光景さえも。実際、彼の気を引くものは日常生活の至る所に溢れていました。
雪が残っている間、彼は毎朝池に足跡を探しに行き、最初の水仙が咲くとすぐに、川に手を浸してその温度を試し、水が十分に暖かくなって猟犬達が獲物を追えるようになる日を待ち焦がれました。その間、彼はカワウソ猟犬の主人としての様々な任務で忙しい身にありました。彼は毎日犬舎を訪れ、猟犬たちが足を鍛えるために路上運動を確実に行えるようにしました。彼は多大な苦労の末、近隣の敷地の管理人たちを説得して、狩猟の悩みの種であった罠を取り除くことに成功しました。開幕日の2週間前、彼は馬に乗って水道執行吏、粉屋、荒地猟師、アイキー爺さん、沼地猟師に会いに行き、カワウソを見張ってくれるよう頼み、それぞれに言葉をかけて別れました。
「よいかな、皆の衆、朝でも、昼でも、夜でも、もしカワウソの足跡を見つけたら、必ず私に知らせて下さい」
港の噂話で言われているように、カワウソの発見と死につながる情報に対して彼が10ポンドの報酬を提供したというのは真実ではありませんが、もしその金額の2倍のオファーがあったとしても、追跡者達はこれ以上の熱心さを示さなかったでしょう。捜索が始まる前からその証拠はありました。遠方からも近くからも、その企てに参加しようとする人々は全て、捜索水域の割り当てのために決められた時間に現れたからでした。この異例の手順は、シーズン開幕前に正式に担当区域が割り当てられなければ起こるであろう争いや不当な争いを避けるために、領主の要請によって採用されたものでした。
ラフトラは、『私たちの村の年代記』の中で、この会合について詳しく説明しています。それは「ドルイドの腕(the Druid’s Arms)」で行われ、主人のルーベン・グリブルが議長席に座りました。彼と赤ひげを生やした水道執行吏の間には、ホーム・ファームの由緒正しい借家人が座っていましたが、表向きには川に関する幅広い知識を持っているという理由で呼ばれました。しかしそれは実際には彼のよく知られた調停能力のおかげであり、その夜の議題が始まるとすぐにそれが必要とされました。最大の困難は執行吏のサンディにあり、サンディはその職責によりタイドエンド(Tide End)からローンターン(Lone Torn)までの全域を主張しました。出入り口にいる人々を数えると、スコアは1点差でしたが、彼は自分が取った法外な要求を維持することに熱心であるように見えました。粉屋と荒地猟師が彼に、自分たちの好みの範囲と、テーブルを囲む全員が自分たちにその権利があると考えている範囲を要求した時、彼はまるで彼らが他人同然であるかのように彼らの要求を無視しました。ラフトラが言うように、ハイレンジャー卿は浮浪者達に対してでさえ、相手をこれ以上侮蔑することは出来なかったでしょう。この傲慢な態度は皆を激怒させました。実際、ジョーディと喧嘩っ早い男達が出来たことは、皆の握り締めた拳を執行吏から遠ざけることだけでした。そういう有様でしたが、怒りの言葉が交わされ、ジプシーとスコットランド人の争いが差し迫っていると思われたとき、年老いた議長は立ち上がり、細い手を上げて沈黙を命じ、こう言いました。
「友人諸君、喧嘩しないでください。どうか、喧嘩しないでください。殴りあいになるくらいなら、カワウソなぞいない方がよかった。それでも、全ての男性が良い担当区域を取得することに、どれほど熱心であるかを知るのは、私にとって嬉しいことです。あなた達の熱心さは、私達のこのスポーツに対する愛がかつてないほど強いということ以外に何を意味するのでしょうか?私もあなた達の一員に加わりたいです。心からそう思います。また若い時の私に戻り、夜明けに戸外に出たいです。その時、太陽は石塚を照らし、目覚めたばかりの世界は新鮮で芳しく、そして、放浪する動物の足跡に出会う、その喜びを私はまた味わいたい。今この瞬間、私の目には5つの丸いつま先と、彼の隠れ家(Kieve、訳註:キエフの大門のような頑丈な避難場所)まで狩り立てたカワウソの徴(seal)が見えます。彼の狩については聞いたことがあるでしょう。私のような老人の舌ではうまく言い表せません。大騒動だったと言うべきでしょうか。私に持ち込まれた問題について触れている間、友人の皆さん、ご寛容、そしてさらなる忍耐をお願いします。あらかじめ言っておきますが、あまりやりすぎないで下さい。他の人を締め出すためだけに、自分が探しきれないほど多くの水域を要求しないで下さい。英国人であろうとスコットランド人であろうと、スポーツマンにとって「自分も取って、相手にも取らせる」は良い標語です。そして、私の隣にいる私の友人は、いつも寛大な男がするように物事を判断し、私達が信じていたような良き隣人であることを証明するだろうと私は確信しています。」
「マクファーソンさん、3年前に馬車(coach)があなたを交差点でおろして以来、私たちはあなたを私達の一員のように扱ってきました。あなたのアクセントを理解できるようになってからはなおさらそうです。確かに、ザシー・ケリナックが仕事をもらえなかったため、少し残念ではありましたが、それは1、2か月だけでした。私たちはそれを隠すために最善を尽くしましたし、それは私たち自身の間で同意しました。それはあなたの責任ではありませんし、「ピッチと羽根(訳註:ピッチやタールを塗って羽根をまぶす刑)」や「ポンプ(訳註:水責め)」などやる必要はないでしょう。考えてみてください。教区が自分たちの全世界であるような、丈夫でタフな人々のことを、彼らは私によくしてくれます。そして、なんと言いますか、私たちの目をまっすぐ見て、そして恐れも見返りも求めずに彼らの義務を果たす、そのような余所者に対してもやはり親切にすべきです。では、あなたに伺いますが、私たちに少しばかりの友好的精神と地元の感情に些か配慮していただけないかと、頼むのはあまりに厚かましい要求でしょうか?」
ここで話し手は口を止めました。しかし、執行吏は屈服する気配を示さなかったので、続けました。
「さあ、さあ、サンディ、私達と同じように問題を見てください。ウィリアム・リチャードとマシュー・ヘンリーはこの湿原で生まれ育ち、生涯を通じてこの川を知っていました。それが正しいかどうかわかりませんが、彼らは自分たちに1つや2つの水域の権利があると考えているのではないですかな?あなたはそのことを考えたことがありますか? いいえ、あなたには出来ません、考えもしません。友よ、強くなりなさい、そして道を譲ってください。」
さて、この訴えが執行吏以外の全員にとって抵抗し難いように思われたのは、老人が言ったことというよりも、その言い方が原因でありました。そして本当に、この講演者の声と態度は、低い垂木が張られた部屋にあふれる豊かな光のように穏やかで、人々の心に訴えかけました。しかし、この陰気なスコットランド人は、通用口から急いで姿を消した主人が、古いりんご酒が入った、両手持ちの取手がついた水差しを持って戻ってきて、魅惑的な液体の影響で道理を悟らせるまで、少しも動揺していないようでした。4杯目で彼は潔く譲歩し、水車小屋の上の3マイルの水路を粉屋に譲りました。6杯目で彼はムーアプールの上流の水域の許可を荒地猟師に与え、彼もまた自分の小屋の近くの小川を手に入れました。池はアイキー爺さんの所有物だったので、当然のことながらリッデンズは彼の権利になりました。沼地猟師は沼地の権利を得ました。そして密猟者たちは残った水域を分け合いました。選択の順序は、主人の閉じた手から引き出した藁の長さによって決まりました。ジョーディとトムは、自分たちの職業のリーダーとして、一番目、二番目に藁を引きましたが、残念なことに最も短い藁を獲得しました。
川船または沼地に船を乗り入れて、14人の男達は毎日少なくとも1〜2時間かけて捜索を行いましたが、恐らく、カワウソ狩猟の最も古い地域であるウェールズ公国の外では匹敵するものはない規模だったでしょう。しかし、カワウソは湿原を越えるいつもの道をたどったにもかかわらず、追跡者達は一度もカワウソの徴候に出会うことはありませんでした。その理由はそれほど難しくありません。川底と小川の大部分は岩で、浅瀬と上陸場所は小石で、砂嘴(spits of sand)はほとんどありませんでした。追跡者たちが足跡を見つけるために頼ったのはこれらのうちの最後のものであり、夜明けには、彼らが金や宝石を探すのと同じくらい熱心にそれらの上にかがみ込み、船を操っているのが見られました。カワウソはそこに足を踏み入れたことがないので、何も見つかりませんでした。確かに一度、彼はムーア・プールの弓の射程内(bowshot)に自分の足跡を残しました――その足跡はあまりにも明白で、叫び声を上げているように見えました。しかし、執行吏がその場所に到着する前に、川が増水して足跡を消し去ったので、執行吏は自分が発見にどれだけ近づいていたのか全く知りませんでした。
捜索が1か月近く続いた後、男達と領主は、カワウソがその地域を放棄したのではないか、あるいはカワウソの毛皮が、カワウソを捕らえたどこかの管理人の寝室の床を飾っているのではないかと恐れ始めました。その時偶然に、荒地猟師は自分の小さな所有地の境界近くで足跡に遭遇しました。彼が言うには、予期せぬ光景にびっくり仰天しました。しかし、気を取り直すと、地主の言葉とその目の表情を思い出し、太陽が荒野の上にほんの手幅(handbreath、2.5-4インチ)を残して沈んでいましたが、彼は泥炭をその場に残し、領主の邸宅に向けて早足で出かけました。彼は興奮していたので、森に着くまで猟犬がいることを忘れていました。しかしそこで、彼が急いでやって来るのを不思議に思って見ていた木こりが驚いたことに、彼は突然向きを変え、領主に途中で出会って道程を節約しようとして交差路に向かいました。
幸運なことに荒地猟師は、馬で通りかかった地主が通りかかった時、ちょうど丘の頂上に到着して彼に呼びかけ、領主が手綱を引いた場所まで息を切らして駆け下りました。
「やっとあいつの足跡を見つました、領主様」
彼は喘ぎながら言いました。
「良い知らせだ。忙しい一日だったが、お前と一緒に戻ろう」
「しかし、遠いですぜ、旦那」
「構わん」
それで、猟犬たちを猟犬指揮係に任せて、領主はその男と一緒に湿原まで行き、荒地猟師が小屋から持ってきたランタンの光で足跡を調べました。
「これはあいつのだ。間違いない、ピアース。こんな所であいつらに出会うとはな」
「あいつのか、そうでないのかわかりませんが、そういえば、私はこれまでに何度かここら辺でカワウソを狩り立てたことがありますが、すべて同じ方向に進んでいますな。小川から川まで移動する時のあいつらの獣道ですな」
「ああ、それは面白い。しかし、なんとでかい足跡であることか。こいつの体重はどのくらいあると思う?」
「見当もつきませんでさあ、旦那」
「足跡が出来てから数日は経ってるなあ、ピアース君」
「そうでさあ、全くその通りで、旦那はオイラが見つけるのが遅かったとお思いで?」
「もちろん思ってないとも、お前を責めているんではない、取り違えないでくれたまえ」
「奴は生きててこの地域にいまさあ、旦那」
「そうだとも、間違いなくあいつはこのあたりにいる。それがわかって嬉しいよ。みんな勇気づけられるだろう。素晴らしい日だ。あいつを見つけたら、その日は赤文字の日になるだろう(訳註:忘れられない幸福な、あるいは注目に値する日『教会のカレンダーで聖日を赤でマークする習慣から』)、そうだろ、ピアース君?」
それから彼は立ち上がりましたが、すぐにまた膝をついて最後の確認をしました。そして、彼は渋々ながら立ち上がり、金貨を荒地猟師の手に滑り込ませ、再び馬に乗り、男におやすみを告げて馬で駆けて行きました。
荒地猟師が領主に会いに行く途中、彼は郵便配達の女に追いつき、カワウソのことを話しました。十字路の鍛冶屋は彼の言ったことを立ち聞きしmさいた。そして、この2人からの知らせは、あっという間に、そして遠くまで広まったので、翌日の日没前に、カワウソの足跡がマシュー・ヘンリーの担当の水域で見つかったこと、領主がそこに行ってその足跡を自分の目で確かめたことが田舎中に知れ渡りました。この知らせを聞いて追跡者たちがどれほど興奮したかは想像に難くありません。彼らのほとんどは日が上ると共に川沿いにいて、全員がいつもより何時間も長く外に出ていました。地主は、カワウソを見つけたという知らせが今にも伝えられるかもしれないと思って、家を出るのを恐れました。彼は、猟犬指揮係のリンペティに犬小屋で食事をとり、小屋で寝るようにと命令さえ出していました。
しかし、カワウソの計画は敵の希望と期待に反していました。足跡が発見されてから3日目、彼は荒地を捨てて湾に向かい、そこでムール貝やヒラメを飽きるまで食べました。それから彼は河口を岬まで下りました。彼は引網やスピラー(訳註:多くの短い糸とフックが取り付けられた長い釣り糸)から最良の魚を奪い、ある時は実際にwhiffing(訳註:手釣りでスケトウダラやサバなどを釣る漁法)の釣り糸からバスを奪ったこともありました。
こうしてさらに一か月が経過し、その終わりまでに、近隣住民の評価で非常に高い位置にあった追跡者達が軽視され始め、さらには笑われるようになりました。大雨によって川や小川が狩猟に適さなくなり、見込みのない探索を中止するための正当な口実が与えられたことは、彼らにとってまさに歓迎でした。粉屋の馬小屋のドアについた跡が証明しているように、洪水は確かに大規模なものでした。今でも港の老人たちは、泥炭水で海がこれほど遠くまで染まったのはそれまで見たことがなかった、と言い、魚の群れが「すごい見物」だったと口を揃えて言います。
サケが川を遡上するにつれて、港と河口は生命に溢れているように見えました。人々は魚が通り過ぎるのを見るために様々な場所に集まりました。村人たちは魚が堰を通過する「潮の終わり(Tide End)」の橋に群がりました。ジョーディとトムは松の下の滝のそばに立っていました。粉屋は庭のふもとで、魚達が新しい魚梯(ladder、訳註:魚がさかのぼれるように作った階段状の通路)を上っていくのを眺めていました。
「大きいのが泳いでるぜ、ルーベン」彼はそばにいる主人に言いました。
「確かにな、あいつらの中で大きい方だ。今重たそうなのが上がっていったな。あいつはやるかもな。いや、やらないかな。この水の中はマラキの所の鶏小屋みたいなものだ。取り放題だろうな」
粉屋の返事がなかったので、彼は耳元で怒鳴りました。
「クストナ!俺の言うことを聞いてるか?」
「聞いてるよ!もちろん!オイラはツンボじゃねえ、この間抜け!お前の声は12個の洪水が束になってやってきたみたいにでかいぜ。アホタレ、一体お前は何が言いたいんだ?」
「俺が言いたいのは、あいつがもうすぐ現れるだろうってことさ」
「あいつって誰だ?」
「あいつが何かだって?このご時世で、あいつと言ったら決まってるじゃねえか」
「お前はオイラを揶揄ってんのか?」
「揶揄う、もちろんそうだとも。お前の頭は何にも感じないのか?あの獣は俺の気に触るんだ。いつもあいつのことが頭の中にある。おかげで眠れやしねえ。もし寝ても、夢の中に出てきやがる。あいつはやって来る。間違いなく現れる。そして猟犬達が見つけて殺す。もしそうでなかったらこの教区は一体どうなることやら。領主から「葦を燃やせ(Burn the Reed)」のトムまで、みんなしょぼくれた有様だ。そしてお前は、何かうまいことにありつける唯一の人間だ」
洪水が収まり始めると、カワウソは確かに現れ、最初の夜は何時間も何時間も目的も持たず、急流の下の池でサケを追いかけました。夜が明けると、彼は川に突き出たツタに覆われた木の枝に登り、その居心地の悪い場所でなんとか眠りにつきました。その夜は隠れ家(Kieve、訳註;頑丈な避難所)で過ごしました。早朝、荒地猟師は彼らの宴会の残骸にいるノスリの邪魔をし、足跡を探しました。しかし、流れが危険なほど速く、危うく足を流されそうになったので引き返しました。川はまだ狩猟に適した水位にまで下がっていませんでした。しかし、水位が下がるとすぐに、執行吏、粉屋、その他の全員は再び外に出て、カワウソが活動を始めたと確信し、以前の失敗にもかかわらず、後退した水域に残された多くの新しい砂嘴の一つで、彼の足跡を見つけることを期待しました。