前書き
放浪のカワウソ(The Life Story of an Otter)
John Coulson Tregarthen 1909年
英国で書かれたカワウソの古典小説を翻訳しました。
1909年に書かれた古典なので、ここに公開しても問題ないと判断しました。
先に翻訳して載せたLiersさんの物語と比べて、この小説は文体も素晴らしく、内容的にも動物文学の上位に来るものです。
特にカワウソを主人公として本格的に扱ったものはこの小説が最初です。「Tarka The Otter」もこの小説がなかったら生まれなかったでしょう。Williamsonはこの本からアイデアを得て、より良いものにしようとしてTarkaを書きました。
Liersさんの本は、悲しい話も沢山ありましたが、ハッピーエンドで終わりました。Tregarthenさんのこの話は悲しい結末で終わります。中頃では母親がカワウソ狩で殺されます。主人公のカワウソも最後には同様にカワウソ狩で殺されます。Liersさんの話は罠猟の残酷さに焦点を当てられたいましたが、この話ではカワウソ狩の残酷非道さに焦点が当てられています。その頃の英国ではカワウソ狩は楽しいスポーツでした。犬に追われ、狩られ、最後にはよってたかって殺され、死骸はバラバラにされ、手足、頭、尾は戦利品として参加者に配られ、残りは犬達に与えられます。この話では殺された主人公のカワウソはバラバラにされず、健闘したということで剥製にされてケースに展示されますが、そのようなことをされてカワウソが喜ぶとでも思ってるのでしょうか。
Nicola Chesterさんの「Otters(2014)」からの引用。
「1909年に、コーンウォールの博物学者、動物学会会員で校長だった John Coulson Tregarthen は彼の本『The Life Story of an Otter』を出版しました。この本はカワウソに対する偏見に挑戦し、彼等に対する公共のイメージを改善しようとするものでした。この話は、彼が非常によく知っている動物についての緊密そして詳細に描いたものです・・・・
・・・小説を書いている時、彼は動物の毛皮の中に身を置き、その目で見、そしてその感覚に浸りました。彼は動物の死からも目を背けませんでした。感傷的にもなりませんでした」
(翻訳について)
この小説中には村人達の会話が多くあり、ブロークンな英語が多数出てきます。私には解読は不可能であり、英語ネイティブな外人さんにメールを送って助けを求めました。その方は気安く応じてくれ、私のしつこいメールに丁寧に答えてくれました。この小説の翻訳はその外人さんの助けなしには不可能でした。当然謝辞を書くべきなのですが、問い合わせたところ、固辞されました。名前も一切出さないでくれとのことでした。なので謝辞はつけませんでした。
(巣穴について)
カワウソの巣穴は普通「holt」なのですが、この小説には様々な単語が使用されていました。「holt」の他に「hover」、「clitter」、さらには「Kieve」が使用されていました。「holt」の他は辞書にすらありません。「hover」はホバークラフトに使用する、ふわふわ浮くことを意味し、巣穴の意味は全くありません。恐らく大昔に使用された用法だと思います。「hovel」は「ボロ小屋」「掘立て小屋」という単語なので、またもな巣穴ではなく、野宿などで使用する「オンボロ巣穴」だと思われます。「clitter」も全く辞書になく、外人さんに判断してもらって、多分避難用に使用する一時的な隠れ場所と判断しました。さらに「Kieve」という単語も3回出て来まして、これも外人さんは隠れ場所の一種だろうとのことでした。よく考えてみると、ムソルグスキーの「展覧会の絵」に「キエフの門」というのがあることを思い出し、「キエフ」「門」で検索してみると、「Golden gate of Kieve」というものがあることがわかりました。巨大な頑丈な門です。なので、これは「攻略不能の頑丈な避難場所」と判断しました。さらにカワウソは「couch」という、葦原などで、葦を押し倒して簡単な「青空寝椅子」も使用します。