予想とは少し違う形で
やっと魔法学園に編入しました。
よろしくお願いします!
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魔法学園は、王都の東側にある。
ナコッタ男爵領からは、馬車で3日の距離だ。
全寮制で、学生一人一人に部屋があり、従者は一人しか連れて行けない。
ナサリーを連れて行くことが決まったら、
「薔薇野雫先生の母校ですね!」
と鼻息を荒くしていた。
「私も凄く楽しみよ!薔薇野雫先生の絵を見て、ナサリーに感想を伝えるからね。」
漫画を読んだ後、すっかり薔薇野雫先生にはまった私は、ナサリーとあれこれ感想を言い合った。
お屋敷にいた他のメイド達にもファンはいて、キャサリンやみんなと話したのは、良い思い出だ。
ナサリーの他にも、私について来たいメイドは沢山居たのだが、ナサリーが選ばれたと聞いて納得していた。
家に、帰る時に土産話を持ち帰るつもりだ。
学園からは、夏休みや冬休みと行った大型連休しか、家に帰ることができない。
その代わりに、学園の中にカフェや文房具屋、雑貨屋等があり、日常生活を送ることができる様になっている。
編入の前日に寮に入った私は、寮母に挨拶をし、旅の汚れを落とした後、編入してからの事に思いを馳せていた。
魔法学園には、チャイムの代わりに、大きな時計塔があり、そこの鐘が定期的に鳴る。
1日の最初の鐘は、ホームルームの5分前になる予令の鐘だ。
ゲームのヒロインは、編入初日に学園の広さに圧倒され、庭の噴水でゆっくりと過ごしてしまう。
そこに、鐘が鳴り響く。
その予令の鐘で、時間が迫っていることに気づき、学園の校舎に向かって走り出すのだ。
全力で走るヒロイン。
そして、角で王太子のショーンと正面衝突する。
ショーンは金髪碧眼の美青年だ。
成績優秀者で、その時間の授業を免除されており、図書館に向かおうとしている所をヒロインとぶつかった。
ばったり倒れるヒロインに謝り、優しく助け起こすと、名前と事情を聞き、優しく教室まで案内してくるのが、彼との出会いだ。
この時の、笑顔で手を差し伸べて、手の甲にキスしてくれるシーンは、ショーンのファンを爆増させた。
声優さんの声も素敵で、見事な王子様なのだ。
私はまず、この出会いイベントをこなさなくてはいけない。
そのために、予令の鐘に注意しておく必要がある。
また、その後は、担任のハンレーとの出会いだ。
ハンレーは、黒髪に赤い瞳のイケメンだ。
重低音のイケボイスは、前世の声フェチ友達を何人も沼に沈めてきた。
クラスに案内された後は、担任のハンレーから、紹介がある。
彼はヒロインの事を男爵令嬢ではあるが、回復魔法を使える聖女だと紹介してくれる。
そして、1番後ろの窓際の席に座る様、ヒロインを促す。
ハンレーは担任として、最初はヒロインをただの生徒として、認識しているが、イベントをこなす事にお気に入りになり、異性として認識してくれる様になる。
コツコツ良い所を見せなくてはならない。
席に座った後、隣にいるのが、友達キャラのエスタロッサ=アンダギー子爵令嬢だ。
若葉色の髪の毛をツインテイルにして、同じ色の瞳をしている。
学校の案内をしてくれたり、ヒロインと攻略対象者の進展具合を教えてくれる。
親切で友好的な子だ。
同じクラスにいる攻略対象者が、宰相の息子ライと異国の皇子ナムロだ。
顎ラインくらいのすっきりした銀髪碧眼の美青年と長い金髪を顔まわりに垂らし、小麦色の肌、赤い瞳をした美青年だ。
ライは自己紹介をすると、勉強の進み具合を教えてくれる。
王太子は、成績優秀者で授業を免除されているのに、自分がそのレベルになっていないことを、コンプレックスに思っている。
勉強について聞くと、図書館にあるお勧めの参考書を教えてくれる。
ナムロは、ゲッティー皇国の第七皇子で、回復魔法を使えるヒロインに興味を持ち、ちょっかいをかけてくる。
ちょっかいには、ちょっとえっちな物もあるから要注意だ。
年下わんこのルーンとは、放課後に会える。
ルーンは、短いくるくるとした茶髪の巻き毛に、緑の瞳の小柄な少年だ。
グラウンドに行くと、一人で筋トレしている所に出くわす。
彼は身体が小さく、筋肉が薄い事を気にして、人一倍筋トレを頑張っている。
筋トレを褒めて、後日差し入れをすると好感度がアップする。
初日は確か、そんな感じだったはず。
私が明日行う事は、予令のチャイムで噴水から建物に向かってダッシュすること。
同じクラスの攻略対象者に会う事。
放課後にグラウンドに向かう事である。
イメトレは、こんな感じだ。
第一印象は良くしていかないと、頑張ろう。
次の日、ナサリーは、私を授業が始まる2時間前に起こして、準備をしてくれた。
髪の毛に可愛い編み込みをして、解けない様に、可愛いリボンで結んでくれる。
普段のコルセットと足首まであるドレスではなく、膝丈のスカートにブレザー。
凄く可愛い。
膝下の黒い靴下。
久しぶりに、とても動きやすい。
これなら、ダッシュしても問題無さそうだ。
寮の食堂はチラホラと人がいるが、どうやら早すぎたらしい。
二、三人で輪になって食べている人達に話しかけにくく、視線を感じながらも一人で食べた。
部屋に戻ってから、忘れ物をしないように、何度も確認をした。
よし、三十分前だし、そろそろ寮をでよう。
「お嬢様、楽しい学園生活になる様、お祈りしています。」
「ありがとう。行ってくるわ。」
ナサリーは、寮に留守番だ。
私は、ワクワクした気持ちで寮を出て、噴水に向かって歩いて行く。
歩く道の両サイドが桜並木になっており、穏やかな風が当たると、満開の桜から、花びらが落ちてくる。
道には、沢山の花びらが落ちており、ピンク色の絨毯の様だ。
桜以外にも、春らしく様々な花が咲いている。
きっと専門の庭師がいて、学園の庭も整えられているのだろう。
噴水までくると、そこには、細かい彫刻が施されていた。
美しい人魚の女性が持っている壺から、水が溢れ出している。
全てが真っ白にできていて、水が反射して、キラキラと輝いている。
確かに、こんなに綺麗な所なら、時間を気にせず、眺めていられる。
私は、噴水の淵に座って、人魚を眺めていた。
暫くすると、予令の鐘が鳴り響く。
すっと立ち上がると、校舎に向かって走り出した。
久しぶりに走ったが、体力は衰えてない様だ。
むしろ、普段の重いドレスで鍛えられている気がする。
軽い身体を嬉しく思いながら、全速力で駆け抜けた。
この角を曲がるとイベントが起きるはず。
そして、予想通りに王太子とぶつかって……。
ふい。
今、避けられた?
王太子には、ぶつかる所ギリギリで避けられた。
私は止まりきれず、そのままバッタリと倒れる。
何で、ぶつからないの?
ゲーム通りにやったはずなのに。
「大丈夫?」
「はい。」
王太子が、手を差し伸べてくれる。
良かった、ここは、予想通りだ。
「誰にも言う気は、無いから安心してね。だけど、もう少しお淑やかにした方が良いと思うよ。」
王太子は、苦笑いだ。
雰囲気が、全然甘くない。
「す、すみません。急いでいて。」
「そうか。予令の鐘がなったからね。でも、君はまず、保健室に行くべきだね。」
膝を指さされると、血が出ていた。
「こっちだよ。着いてきて。校舎の中に入ると直ぐに保健室があるんだ。」
校舎の中は土足が可で、そのまま左に進むと、最初の部屋が、保健室だった。
「ラメラ先生、怪我した生徒を連れてきました。」
「あら、ありがとう。」
扉がガラッと開くと、美しい女性が現れた。
「随分ぱっくりやったわね。すぐ消毒しましょう。ありがとう。君は、怪我して無さそうだから、帰って大丈夫よ。」
先生がショーンに向かって、ウインクする。
「わかりました。では、これで失礼します。」
ショーンは行ってしまった。
こんな事ってある?
手の甲にキスは?
あれ?
全然違うんだけど。
「この椅子に腰掛けて。」
背持たれがある椅子に座る。
「ちょっと沁みるけれど、我慢してね。」
先生は、掌から、水の玉を生み出すと、膝に当てた。
水が酷くしみる。
土や汚れなどを落とすと、水の玉は汚れ、水道に向かって移動した。
「次は、消毒ね。」
白い布に消毒を含ませると、傷口につけた。
「痛い。」
「はい、もう終わりよ。これに履き替えると良いわ。後、保健室を利用した生徒を把握しないとだから、名前を教えてくれる?」
先生は布を捨てると、ニーハイソックスをとり出して、私に渡した。
傷口は、綺麗に洗われていた。
「私は、今日から2年生に編入する、ハナ=ナコッタと言います。」
「あー、今日から編入する噂の聖女ね。初日から、災難だったわね。通りで、顔を見た事ないと思ったのよ。私の名前は、アイナ=ラメラよ。ラメラ先生って呼んでね。確か、聖女ちゃんの担任は、ハンレーだったはず。怪我した事は、伝えておくわね。」
「聖女?」
「回復魔法を使える、貴族の女の子をそう呼ぶの。結構、貴重なのよね。でも、気をつけないと爵位が上の子に虐められちゃうかもだから、上手くやってね。」
先生は、ウインクした。
「さあ、靴下を履き替えて。それに、回復魔法が使えるなら、傷跡も治したりできるのかしら?それが終わったら、私が、教室まで案内するわ。」
私は、膝に手をあてる。
白い光が、膝を包む。
すると、傷口は消えていた。
履いていた靴下を脱ぐと、ニーハイソックスに履き替えた。
「お見事ね。血がついているから、この靴下は捨てちゃうわ。さあ、行きましょう。」
ラメラ先生は、玄関の目の前にあった階段を登ると、二階に上がった。
「右側に一年生の教室が並んでいて、二年生の教室は、左側よ。聖女ちゃんは、一組だから、一番手前の教室ね。」
閉まっている扉に、ラメラ先生がノックする。
少しすると、ハンレーが顔をだした。
「ラメラ先生、どうされましたか?」
「編入生の子が、怪我しちゃって、今まで保健室にいたのよ。だから、届けに来たわ。」
「それで、鐘が鳴っても来なかったんですね。届けて頂き、ありがとうございます。」
「良いのよ。その代わりに今度、合コンセッティングしてね。」
「……考えておきます。ハナ=ナコッタ。私が、君の担任のハンレー=リッツと言う。ようこそ、魔法学園へ。これから、自己紹介するから、入って来なさい。」
「はい。」
扉が、全開に開く。
中にいる生徒の視線が、私に刺さる。
「今日から、このクラスに編入するハナ=ナコッタだ。男爵令嬢で、回復魔法を使える聖女だ。皆、仲良くするように。」
「ハナ=ナコッタです。よろしく、お願いします。」
カーテシーを行おうとして、スカートが短いことに気づき、お辞儀に切り替えた。
「席は1番奥の窓際だ。座りなさい。」
「はい。」
生徒達からの視線が凄い。
やっとの思いで、席につき座る。
「ハナちゃんて、言うのね。私は、エスタロッサ=アンダギー、アンダギー子爵の娘よ。よろしくね。」
良かった。
隣の友達令嬢は、ゲーム通りだ。
「ハナで良いわよ。よろしくね。」
「ありがとう、私も、エスタでいいわ。」
エスタと自己紹介が終わると、ハンレーの授業が始まった。
慌てて、ノートとペンを取り出す。
授業は、算数だった。
私は、内容が中学生レベルである事を確認して、ノートを取るのを辞めると、後ろの席から、生徒たちを眺めて1時間を過ごした。
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