貴婦人と賢者
よろしくお願いします。
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次の日から、家庭教師の先生が、二人きた。
貴族としての立ち振る舞いや作法を教えてくれる、ニャック男爵夫人のサターニャ先生。
もう一人は、魔法の知識や読み書き、計算などの知識を教えてくれる元魔法学園の教師、お爺ちゃんのゴードン先生だ。
午前がサターニャ先生、午後がゴードン先生となっている。
週に一回、お休みの日がある。
サターニャ先生からは、記憶を無くしたことについては同情されたけど、忘れた分をビシビシ指導された。
でも、体罰とかじゃないから、普通の面倒見がいい先生なんじゃないかな。
できなければ、淡々と、教えてくれるし。
ある日、礼儀作法の授業で、利き紅茶をした。
サターニャ先生は、いつも赤いドレスを着て、真っ赤な唇をしている。
髪の毛も赤い為、白い肌に良く映えている。
メリハリのある、素晴らしい身体つきの女性らしい女性だ。
いつも口元に当てている扇子は、絹でできた緑色のもので、男爵である旦那さんからもらった、大切な物だそうだ。
授業をしながら、扇子を口元へと動かす先生は、気品と妖艶さが両立している。
「ハナさん、ここに紅茶が三杯あります。少しずつ飲んで、茶葉の産地を当ててみてください。」
三杯の紅茶を一口ずつ飲んでいく。
一杯目は、香りが特徴的だ。
ニ杯目は、甘みの中に、酸味がある。
三杯目は、美容効果が高い、苦味のある紅茶な気がする。
全て、普段から飲んでいる紅茶に似ている。
ナサリーが、毎朝教えてくれていた紅茶の知識をちゃんと覚えていた。
「一杯目は、ラッサ侯爵領の茶葉。ニ杯目は、ムード伯爵領の茶葉。三杯目は、ニンカ男爵領の茶葉でしょうか。」
「三杯とも、正解です。ハナさんは、センスがありますね。大変素晴らしいです。カップの取り方や飲み方も、最初に比べてかなり上達してきました。今後もその調子で、頑張って下さい。」
どうやら正解だったらしく、サターニャ先生から褒められた。
普段褒めない先生から、褒められたのが、凄く嬉しい。
私を褒める時、笑顔になった先生に、ちょっぴりドキドキした。
それから、毎朝の紅茶の時間は、ナサリーと一緒に、利き紅茶をすることになった。
困ったのは、ゴードン先生の方だ。
魔法の知識は、興味があるから覚えるのが早いし、読み書き、計算は、日本語そのままだから、当たり前にできる。
本当に、記憶喪失になったのか、かなり怪しまれた。
結局、最初は天才だと持ち上げられたけど、歴史や地理になるとなかなか覚えられず、先生も苦笑いで、終わった。
聞いた事の無い地名や、想像もつかない魔法の歴史は繰り返さないと覚えられない。
でも、ゴードン先生は、その地名の由来や、特産物の豆知識などを教えてくれるから、面白い。
歴史もお堅い部分だけじゃなくて、その時代にこういう伝説があったとか、こういう文化が流行ってたと聞くのは、楽しかった。
また、地理の最初の授業で、先生にこう質問された。
「ナコッタ男爵領の特産物が何か知っておるかのう?」
長い白い髭を撫で付けながら、つぶらな瞳をこちらに向けている。
先生は、私の返事をゆったりと待ってくれる。
気の長い先生だ。
お年は八十二歳らしいが、背筋はピンと伸びており、頭もお話もしっかりとしている。
「ナコッタ領の特産品は、柑橘類です。」
「ふむ。自分の領地の事を知っておく事は、非常に重要じゃ。いくら他の領地の事を知っていても、自分の領地を知らなければ、領民のことは大事にできないからじゃよ。その点をナコッタ嬢は、よく理解できておる。柑橘類が特産品という事は、父上から、聞いたのかのう?」
「いえ、直接誰かに聞いたわけではなく、普段の食事に頻繁にでてくるから、そうなのかなと思っていました。」
「ふむ。自ら考えて、学ぶこと。これも、非常に大事なことじゃ。だが、近くに知っているものがいるなら、聞いてみるのも、一つの手じゃよ。わしで良ければ、なんでも聞きなさい。答えられる事なら、いくらでも答えて見せよう。」
その後も授業は、和やかに進んで行った。
前世も今世もおじいちゃんを知らないから、分からないけれど、実際にいたら、こんな感じなのかな?
とても質問しやすいし、分かりやすい授業だ。
たまにだけではなくて、普段から褒めて貰えるのも、モチベーションがアップして、勉強したくなる。
前世では、勉強が面白いなんて思った事はなかった。
だから、基礎だけではなくて、応用にも手を出して、しっかり学んでいる自分が信じられない。
授業がお休みの日も毎日、勉強できている。
前世の時に聞いていた先生との相性や、モチベーションが大事と言うのは、本当の話だったんだな。
この世界の貴族としての勉強はどうなるかと思っていたけれど、良い先生に出会えた事で楽しく学べている。
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読んでいただき、ありがとうございます!
また、更新は3日以内に出来たらと思っています。
亀更新ですが、よろしくお願いします!