筋肉は嘘をつかない
年下は甘やかしたくなります。
よろしくお願いします。
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「お嬢様、お帰りなさいませ。学園はどうでしたか?」
ナサリーが、笑顔で出迎えてくれる。
「とても楽しかったわ。帰ってきて直ぐで悪いのだけれど、この後グラウンドに行きたいから、ドレスから制服に着替えさせてくれない?」
「かしこまりました。誰かと待ち合わせですか?」
「ええ。待ち合わせとは、少し違うんだけど、でも大事な用事なの。後、新しいハンカチが欲しいわ。」
「そうですか、ではまた可愛くさせていただきますね。ハンカチは、こちらをお使い下さい。」
ナサリーの匠の技術で、数分で朝の髪型に戻った。
これはこれで、やっぱり可愛い。
「ありがとう。そんなに遅くならない内に帰る予定よ。行ってくるわ。」
「いってらっしゃいませ。」
さて、グラウンドに行きましょう。
寮をでて、授業で使ったグラウンドへと向かう。
人影は、一人分だけで、他には誰も居ないみたいだ。
重い岩に縄をつけて、腰と繋いで走っている。
前世で、タイヤを引いて走っている様な感じかしら。
岩を引きずっただろう後が、あちらこちらに付いている。
「随分、頑張っているわね。」
「え?あ、人が居たんですね。全然気づかなくてすみません。」
ルーンが、こちらに気づき、後ろを振り向いて驚いている。
「今来た所だから、気づかなくて当たり前よ。」
額から、汗が滴り落ちている。
どれだけ走っていたのか、想像がつかない。
半袖のシャツに、制服じゃないズボンを履いている。
木綿とかで、できたズボンかな?
制服のズボンより、生地が伸びそうだ。
運動着の代わりかな。
シャツが、汗で濡れている。
「一年生、かしら?頑張っていて、凄いわね。」
「はい、一年生のルーン=リーマムです。別に凄くないですよ。僕は、騎士を目指しているのですが、全然筋肉が付かなくて、その為に走り込みをしてるんです。」
「私は、二年のハナ=ナコッタよ。岩の後が何往復分もついているから、ルーンくんの頑張りは凄くわかるわ。この努力は、中々できない事だと思うわよ。それに。」
私はルーンに近づき、ハンカチで汗を拭う。
「沢山、汗をかく位、頑張ってるじゃない。努力した事は、きちんと認めるべきよ。」
「あ、ありがとうございます。ただ、汗臭いと思うので、余り近づかない方が良いですよ。」
「何言っているの。全然臭くないわよ。頑張ってる匂いだもの。」
私は、ルーンの二の腕辺りを触る。
固い。
これで、筋肉ついてないのは、嘘でしょ。
ゴリラみたいな筋肉じゃなくて、細マッチョなだけなんじゃないかな。
「それに、筋肉がついてないって言ってたけれど、嘘じゃない。こんなに固いわ。」
「え?いやいや。そんな事ないです。周りの奴らに比べれば、僕なんて全然柔らかいです。」
「嘘よ。私のと比べてみれば、すぐわかるわ。貴方の腕は十分固いわよ。」
私は制服の上着を脱ぎ、腰に巻くとシャツの袖を捲る。
長袖を二の腕辺りまで捲るのって、シャツの生地が厚くて、結構大変だ。
「細いし、白い……。」
「ほら、触ってみたら、固さがわかるわ。」
「え、でも僕なんかが、触れません。」
「触らないと、貴方が固いのが、わからないでしょ?」
「いや、柔らかそうなのは、見れば分かります。」
「ほら、私のが柔らかいなら、貴方のは固いのよ。」
「いや、ナコッタ先輩は女子ですし。」
「男子とか女子とかじゃなくて、貴方の筋肉は凄いっていう話よ。もう、良いから触って比べると良いわ。」
ルーンの手を掴んで、私の二の腕を触らせる。
「や、柔らかい。ふにふにしてます。」
「ね。やっぱり、貴方の腕は、固いのよ。十分な筋肉がついているわ。」
「あ、ありがとうございます。」
「努力は嘘をつかないって言うわ。走り込みで腕がそれだけ固いなら、全身の筋肉もついているはずよ。あんまりハードな走り込みは、身体に悪いから無理しすぎちゃダメよ?」
「いや、本当に沢山鍛えないとダメなんです。周りに追いつく為には、倍以上やらないといけないんです。」
これだけ、褒めてるのに、否定し続けるの逆に凄いな。
「……そんなに言うなら、今度は、腹筋とか、太腿の筋肉でも比べてみる?」
「え?腹筋に、太腿?僕と先輩のを……。絶対ダメです。そんな破廉恥な事、出来ません。」
ルーンの顔が真っ赤になった。
顔を凄い勢いで、横に振っている。
「それなら、やっぱり、ルーンくんの筋肉は、固いのよ。見た目は細いけれど、筋肉はついてるなんて、女子からしたら、とっても魅力的に見えるわよ。」
「そ、そうでしょうか。僕の婚約者からは、もっと鍛えた方が良いと言われます。」
「ルーンくんは、婚約者がいるのね。」
「はい。あ、すみません。婚約者がいる僕なんかが、先輩の腕を触ったりしてすみません。」
「いや、触らせたのは、私だからそこは別に良いの。それより、そんなに鍛えてもまだダメと言う婚約者に問題があるわね。」
ルーンの婚約者はどれだけ、ゴリラが好きなのか。
見た目が可愛い系で整っているルーンを、実は脱いだら凄い細マッチョにしておいて、もっと筋肉つけろなんて、どれだけ理想が高いの。
「婚約者の父親が、元騎士団長なんです。見た目から凄い筋肉で、親戚も全員筋肉が凄いらしくて。伯父にあたる現騎士団長が好みらしく、婚約者は、細い僕のことが好きではないみたいで……。」
「なるほど。筋肉の英才教育で育った婚約者なのね……。ルーンくん、大変ね。」
「ええ。わかってくれますか。僕の家系は、元々筋肉が付きづらいんです。父親も祖父もみんなガリガリです。僕は、これでも鍛えてるつもりなのに、婚約者には、ガリガリねって鼻で笑われました。義理の父親になる予定の方にももっと鍛えた方が良いと会うたびに言われるんです。」
ルーン、涙目だ。
今までが相当なストレスだったのね。
十分努力しているのに、会う度に言われるなんて、辛いな。
だから、卑屈というか、自分を卑下してるんだろうか。
努力している可愛い年下は、慰めたくなる。
「貴方は一つも悪くないわ。私はルーンくんの事、きちんと努力していて凄いと思う。」
「え、先輩にだ、抱きしめられた?あ、頭まで撫でられた。ダメです。僕、汗まみれで汚いです。触らないで下さい。」
「そんなに慌てなくて大丈夫よ。さっきも言ったけれど、全然臭くないから。それに、私がしたくて、しているの。頑張っているルーンくんは、凄いって言いたくなったの。」
「や、柔らかいじゃない、い、良い匂いじゃなくて、は、離れてください!」
「ごめんなさい。胸がないから固いし、私が臭かったかしら。」
「違います。先輩は、柔らかいし、良い匂いがします!」
「それなら、何の問題もないわね。良かったわ。」
「そうじゃなくて!」
ルーン、面白い。
顔が赤くなってるし、表情がコロコロかわってる。
胸が固いとか言われたら、どうしてやろうかと思ったけれど、あれだけはっきり柔らかいと言われると、それはそれで照れるな。
少し、濡れた髪をわしゃわしゃかき混ぜる。
前世で飼っていたわんこを撫でている気分だ。
匂いも、ドッグランで走った後に似ている。
「わー、もーダメです。離れて下さい。」
「わぁ。」
ルーンに、たかいたかいをされた。
脇の下に手を入れられて、ルーンの目の高さに合わせて、持ち上げられる。
「良いですか?男にこんな事をしてはいけません。良い匂いがするのとか、身体全部がどこもかしこも柔らかいのとか、婚約者でもない男がわかってはいけないんです。淑女は、こんな事してはいけません。」
ルーンに説教された。
ちょっと、やり過ぎたかな。
さらに顔が赤くなってる。
後半、楽しくなっちゃったからな。
「ごめんなさい。ルーンくんを元気づけようと思ったら、やり過ぎてしまったわ。」
「そ、そうだったんですね。いや、反省してくださってるなら、それで良いんです。僕も持ち上げてすみません。」
ルーンは、私をそっと降ろす。
「お詫びと言っては何だけど、良かったら、このハンカチ使って。ルーンくんにあげるわ。」
ルーンにハンカチを差し出す。
「いや、先輩のハンカチを頂けません。」
「良いから、使って。頑張ってる後輩を応援したくなったの。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
「毎日、ここで練習するの?」
「ええ。予定が無ければ、そうするつもりです。」
「わかったわ。ルーンくんが、頑張り過ぎてないか、時々見に来るわね。」
「いや、そんなに気遣わなくていいんですよ!」
「私がしたいのよ。」
「そうですか……。良いところが見せられる様に頑張ります。」
「頑張り過ぎちゃダメなのよ?」
「程々に頑張ります。」
「そうそう。それが良いの。じゃあ、頑張り過ぎないうちに、寮に帰るのよ?」
「帰るんですか?」
「ええ。遅くなると、侍女が心配しちゃうから。」
「そうですよね。気をつけて下さい。」
「ありがとう。またね。」
「はい。」
初対面でこれ位やれば、ルーンの印象に残ったでしょう。
ルーンの婚約者は一つ下だから、まだ学園に入学していない。
婚約者の居ないうちに時々、こうやってコミニケーションを取りに行けば、好感度も上がっていく筈だ。
乙女ゲームでも、一番好感度を上げやすかった攻略者だ。
地雷を踏まなければ、ちゃんと仲良くなれる筈。
それに、個人的に、年下は可愛いし、構いたくなる。
また、絡みに行こう。
寮に帰ったら、制服の袖が皺になっていて、ナサリーに何があったのか、凄く聞かれた。
誤魔化すの凄い大変だったから、これからは気をつけよう。
濃い編入初日だったな。
おやすみなさい。
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読んでいただき、ありがとうございます!
やっと編入初日が終わりました。
これからもよろしくお願いします。




