雨宿り
掲載日:2022/07/31
仕事を終えてアパートに帰ると、アパートの入り口で女が立っていた。
若い女だ。
聞けばこの雨がおさまるまで、アパートの軒下で雨宿りをしているのだそうだ。
確かに豪雨と言っていい雨が降っている。
俺は自分が持っている傘を女に貸した。
柄のデザインがかなり変わっている、一種のネタ的なものだ。
女は最初断ったが、古いし持っているのが少し恥ずかしいデザインだからと言うと、笑顔で受け取ってくれた。
そして女は去った。
名前も知らない。
ところが次の朝、ニュースを見ていると、トップニュースは引き逃げ事件だった。
夕べ女が車にはねられて死亡したと言う。
車はそのまま立ち去った。
なんとなく見ていた俺はあるものに目がいった。
女も車もいない現場。
そこにいるパトカーの横に、俺が昨日女に渡した傘が転がっていたのだ。
俺は、昨日の女が事故死したことを知った。
傘を貸しただけの間柄だが、それでも俺は悲しみを覚えた。
その日、仕事を終えて帰ると、アパートの俺の部屋の前に、女に貸した傘が置いてあった。
――返してくれなくてもよかったのに。
その日以来、その傘は俺にとって大切なものになった。
終




