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ようこそ! あやかしの世界へ!  作者: 紫 凡愚
第2章 ぬらりひょんの娘
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蓮香の力

ブックマーク、コメント、評価、よろしくお願いします。

感想もくれたら、最高に喜んでしまいます。

「さてと、着いたぞ。『機織り(はたお)屋敷』だ」


 治郎が指差したのは、あたかも幽霊が出そうな屋敷だった。

木造の屋敷で、壁には蔦が蛇のように這いずり、内部が見えるくらいボロボロだった。茜色の西陽は屋敷の隅々まで照らしているが、埃がちらちらと輝くくらいで、暗く陰鬱な雰囲気を拭い去ることは出来ていない。


 そして一番不思議なのは家の周りにふわふわと火のような球が浮いていることだ。


「父さんあれは……」

「あれは『浮世の魂』だ。死んだ人に未練があると、ああいう風に火の球となってたゆたうんだ。普段は見えないが、こういういわく付きの場所だったり、後は自分が魂のみの存在になりそうな時……、いわゆる死人になりそうになっている時に見えたりする」


 浮世の魂は家の周りを飛び回っている。魂が乾いた木の近くに移動しても、木は燃えることはない。浮世の魂もやはり人智を超えたものだった。


「ちなみに俺くらい呪力の使い方が上手になると、強制的に浮世の魂が見えるようにすることができるぞ」

「なんか雅楽くんの周りにもひとつ浮いていますねー」

「う、うわあ! ほ、本当だ!」


 雅楽の近くに浮世の魂がぷかぷかと浮いていた。それは常に雅楽のそばにいて離れようとしない。

 それはわずかに温かく、近くにあると抱きしめられているかのように体が熱に包まれた。


「雅楽は今まで、常に浮世の魂を引き連れてたんだな。ここにきたことで、それが見えたわけだ」

「そうなんだ……」

「おっ。意外だな。雅楽のことだから祓ってほしいって言うのかと思ってたぞ」

「確かにあやかしは怖いんだけど……。なぜかこの浮世の魂だけは安心するんだ。なんでだろう」

「まあ、元々害があるものじゃないしな。むしろ弱いあやかしくらいだったら守ってくれるんだ。人間界で言われている人魂とか守護霊は浮世の魂のことだ」


 治郎の言う通り、浮世の魂は害があるものではない。

とはいえ、あやかしはあやかしだ。その辺に浮いている浮世の魂にはちゃんと恐怖心を感じるのに、自分の近くを浮いている浮世の魂には微塵も恐怖心を感じない。むしろ安心するくらいだ。


なぜそう感じるのか、雅楽自身にも分からなかった。


「機織り屋敷の話に戻るぞ。

お前の着物は一反木綿、布のあやかしから出来ている。あやかし界の衣類は基本的にそれが原料になっているんだ。この屋敷にはその一反木綿が無限に湧くんだ。それを除霊し、妖力を持つ布にして集めるのも闇祓いの立派な仕事だ」

「こんな怖そうな場所入れないよ……」

「すぐに慣れるさ。行くぞ」


 スタスタと前を歩く治郎とその後ろについていく蓮香とつららは慣れた感じで機織り屋敷に入っていった。彼女たちはこの不気味な屋敷が全く怖くないらしい。


一緒に行かないと、と思っているのだが雅楽は不安がって足が動かなかった。

 そのまま突っ立っていると、頬にぷにぷにした肉球の感触がした。


「大丈夫じゃ。何かあっても妾が守る。それに雅楽殿は、妾の夫であろう。あやかしの中でも頂点の強さを持つと言われる妾の夫だぞ。もっとシャキッとせえ」


 恐怖は拭えなかったが、千草の後押しもあり、雅楽はようやく足をすすめた。

 機織り屋敷の中は異常に暗く、向こう側の壁が見えないくらいだった。あやかし界は常に夕方で夜がないので、屋敷内に全ての暗闇が逃げてきているかのようだった。


ただそれほど暗いのにも関わらず、屋敷の中央にある壊れた機織り機だけは異様な存在感を放ち、はっきりと確認できた。


「じゃ、あとは頑張れよー」

「ちょ、ちょっとお父さん! 除霊の仕方教えてくれるんじゃないの!?」

「見染められたやつの戦い方が分からねんだよな。千草と話しながら戦い方を模索してくれ。そんじゃあな」


 治郎は軽く手をあげると、薄暗い屋敷の中へ消えてった。少し歩いただけなのに、鮮やかな金髪がすぐに見えなくなった。


「さて、私たちも早く行きましょう」

「早く行きましょー」


 蓮香とつららもどんどん進み始めたので、雅楽は慌てて二人についていった。

暗い屋敷の中を歩いていたのだが、しばらくするとおかしなことに気がついた。歩いている距離があまりにも長すぎて、どう考えても外から見た屋敷の大きさと釣り合わないのだ。


「ね、ねえ。蓮香、この屋敷っておかしくない」

「機織り屋敷の中の空間は歪んでいるの。だから見た目以上の大きさなのよ」


 雅楽は注意深く周りを観察していたが、一反木綿のようなあやかしは現れなかった。薄暗いので不気味ではあるのだが、あやかしらしき姿はない。


「そろそろじゃの」


 いつの間にか人間の姿になっている千草がそう言うと、屋敷全体が揺れ始めた。ガタガタと音をたて、立っているのもやっとだったが、揺れが収まると眩い光が雅楽たちを包んだ。

 あまりの眩さに雅楽は目を閉じた。明かりが収まると雅楽は恐る恐る目を開いた。


そこにはあり得ない光景が広がっていた。

先程までの暗い屋敷が消え、どういうわけか、ただの住宅街が広がっていたのだ。


「これがこの機織り屋敷の本当の姿よ」


 雅楽が周りを見渡した。見れば見るほどただの住宅街みたいだ。家はたくさん連なり、遠くには学校も見える。人が暮らしやすそうな住宅街だが、人間の気配はない。

生暖かい風が肌に粘りつくように頬を撫でた。


「あ、あれ? つららは?」

「あの子はいつも自由なのよ。大方、一人で一反木綿を狩っているんじゃない?」


 雅楽にはこの不気味な空間に一人でいることが考えられなかった。

 住宅街はどこにでもあるような場所なのに、細かなところに違和感があった。家の扉にドアノブがなかったり、洋風な造りの家なのにも関わらず、窓ガラスが障子になっていたりと、まるで知識のない人物が住宅街を真似て作ったかのようだった。


 ただそんな細かな違和感がどうでも良くなる程、おかしな場所があった。どの家も鯉のぼりをあげているのだ。風は緩やかにしか吹いていないが、強風が吹いているかのように物凄い勢いで揺れている。


「なんか変じゃない?」


 鯉のぼりはよく見ると、それは鯉の形をしていなかった。

人間をせんべいのように平べったくしたものがパタパタと揺れていたのだ。ちゃんとの服ようなものもついている。


「うわあ! あれって!」

「そうよ、あれが一反木綿」

「ぎゃぎゃっぎゃ!」


 雅楽が叫んだのと同時に、一反木綿が一斉に飛び立った。その数はざっと百は超えていた。

 人間を平べったくしたものが宙を舞っている姿は、とてつもなく恐怖を煽るものだった。


「彼ら、ペラペラの人間の姿してるでしょ? 除霊に成功するとその服の部分だけが残るの」

「いやいやいや、そんな冷静にしてる場合じゃないでしょ!」

「一反木綿の攻撃は単調だから安心して。あの長い体で首に巻き付いて首を締め付けるだけよ」

「そんなに冷静に残酷なこと言わないで!」


 オレンジ色の空を背景に飛び回る一反木綿たちは「ギャギャッ」と鳴くと、雅楽たちに向かってきた。彼らは長い体をなびかせながら、もの凄いスピードで迫っている。

 雅楽はそんな一反木綿をどうすることもできず、頭を抱えて下を向いた。


「うわあああ!」

「『百天狗(ももてんぐ)』」


 蓮香は懐から巻物を取り出すと、勢いよくそれを広げた。巻物は白い煙をもくもくと吐き出した。煙が晴れると、長い鼻を携えた百体もの天狗が現れた。

 天狗たちは、もちろん蓮香の契約しているあやかしだ。仲間であることは分かっているが、雅楽からしてみるとただの恐ろしいあやかしだった。


「ぎゃああああ! て、天狗!」

「私と契約しているあやかしだから、雅楽には危害を加えないわ」

「そういう問題じゃないって!」

「さあ、みんな。一反木綿を倒して」


 天狗たちは背中に生えた翼をはためかせると空へ飛び上がった。天狗といっても大きさは様々で、二メートルほどの巨体をしているものや、手のひらに収まるような小さな天狗もいた。

 彼らは手に持った槍で一反木綿を貫いたり、引きちぎってバラバラにするなど圧倒的な力で空を蹂躙していった。


「これは妾、必要なさそうじゃのう」


 千草は大きくあくびをした。彼女は余裕そうだ。最悪、自分一人で一反木綿を倒せると考えているのだろう。

一方、雅楽は仮にも人間の姿をしている一反木綿が無惨に殺されている光景が怖くてぶるぶる震えていた。


「もうみんな戻っていいわ」


 一反木綿の数が半分ほどになると、蓮香は天狗たちに戦いを止めるように指示した。天狗たちは巻物へ突っ込むとぼんっと音を立てて消えた。

全ての天狗が巻物の中に消えると、先ほどまで何も描かれていなかった巻物に、天狗の絵が描かれた。絵巻物に描かれた妖怪が現れるというシステムらしい。


作者の紫 凡愚と申します!

この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!

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