あやかし退治の方法と昔話の真実
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一度教室を出ると、やはりそこはあやかしの世界だった。
見慣れない容姿をしたあやかしたちは当たり前のようにそこに存在していた。彼らとすれ違うたびに雅楽はビクビクしていた。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。彼らは人間に危害を加えないわ」
「や、やっぱりどうしても口裂け女のことを思い出しちゃうんだ」
雅楽の脳裏によぎったのは大きく口を開け、血みどろの歯を剥き出しにしていた口裂け女だった。あの恐ろしい姿を忘れることができなかった。
もしかしたら今すれ違ったあやかしも、背中で凶暴な歯を見せて、今にも僕を食べようとしているんじゃないか。
さっきからそんな恐ろしい妄想をしていた。
「そういえばさ、さっきから気になっているんだけど、全然夜にならないよね。一時間前から、夕方みたいな空してるのに全然暗くならない気がするんだ」
「ずっと人間界で暮らしているから知らないのね。あやかし界は常に夕方なの。朝も昼も夜もないわ」
「それはどういう原理……」
「さあ? 原理なんて考えるだけ無駄よ。考えたところで、原理は変わらないし、原理の中でどう生きていくかを考えたほうが生産的」
「雅楽。今からあやかしの除霊の仕方について教えるから、よーく話聞けよー」
「わ、わかった!」
雅楽は背筋をぴしりと立てた。苦手なあやかしから身を守るためにも、これはしっかりと聞いておかなくてはならない。自分の寿命に直結する。
「あやかし退治には主に三種類の方法がある。一つはあやかしと共に除霊する方法だ。桃太郎が猿、雉、犬のあやかしを従えて鬼を倒したように、あやかしの力を借りる。あやかしは超常的な力を使えるから、自力で除霊するよりも遥かに楽なんだ。使役する人物は基本的にあやかしに指示を出したり支援に回る」
「へえ、じゃあ僕は千草の支援をすればいいんだね」
「いいや、違う。お前は猫又と契約をしていない。昔話でも桃太郎はきび団子を渡していただろ? 契約するには代償が必要なんだ」
「そうなんだ。でも、きび団子で契約できるなんて簡単な気もするけどね」
「昔話ではきび団子だが、実際のところ、あれは『生備団子』だ。生まれ持って備えてある団子。つまり、桃太郎は睾丸二つと眼球一つを契約の代償として支払っている」
「そ、そんなに!」
「だから桃太郎の血筋はそこで途絶えたんだ。優秀な一族だったのに、もったいないことをするよなあ。まあお陰で日本は鬼に支配されることを回避できたんだがな」
治郎はあたかも当然のように話しているが、雅楽はとても驚いていた。
昔から慣れ親しんでいる桃太郎が実際にはかなりグロテスクな話だと知れば、当然の反応だろう。本当の桃太郎という話は、とても子供話にできるような内容ではなかった。
「まあ、中には代償を格安で受けられるやつもいるがな。蓮香がそうだ」
「私は強いあやかしと契約ができない代わりに、比較的弱いあやかしに好かれる体質なの。私が契約として払うのは髪の毛一本くらいかしらね」
「まあ、こいつはあまり参考にならん。俺の後を継ぐ闇祓いと呼ばれているくらいだからな。普通は契約なんて出来て二、三体だ。だがこいつは千体ものあやかしと契約している」
「そんなに!」
雅楽は口裂け女と出会った後の蓮香を思い出した。確かに彼女は後ろにたくさんのあやかしを率いていた。
初めて見た退魔師が千草だったため、それが普通だと思っていたのだが、実際のところほどすごいことなのだろう。
もっとも、雅楽はあれが千体もいると考えただけで、雅楽は気絶しそうになっていた。
「そしてあやかし退治の方法二つ目。闇祓い自身があやかしの使うような超常的な力を使う。人間の中には呪力というあやかしの力を持っている人が稀に生まれるんだ。ほとんどはそれを覚醒させる前に死ぬが、覚醒した場合、とんでもない力を発揮する。
昔話で言うと、赤ずきんやヘンゼルとグレーテルだ。彼らは生まれながらにあやかしのような力を使えた」
「私と同じですねー」
つららの一人称は「私」だった。
影間はその職業柄、女性的な言葉遣いや所作が求められる。それが長い間続いていたつららは、一人称や仕草に女性的なものが染み付いていた。
もちろん柄の悪さも染み付いており態度は悪いのだが、食事風景やふとした瞬間の仕草に、影間での教育が垣間見えた。
「私は影間として働いていましが、小さい時から自分が氷や雪を操ることができましたー。とあるきっかけで力がバレたんですー」
「きっかけって言うのは?」
「私の働いている店の元締め組織を皆殺しにしましたー」
緊張感のない口調から放たれる一言は、雅楽の肩にのし掛かった。目の前にいる自分と同い年の少年がそんなに凄惨な過去を持っているという実感がいまいち湧かなかった。
彼を見ているとなんて自分は平凡な人生を送ってきたのだろうと考えさせられた。
「蓮香は将来最強の闇祓いになると言われているが、つららは既にもう最強という次元に来ていると言っていいだろう。今はまだ本格的に働いていないから名前が広がってないが、時間の問題だろう」
「確かにこの女男からは、底知れぬ呪力を感じるのお。どこか妾に近く、それでいて遠い雰囲気じゃ」
千草も会話に入りたかったのか、彼女は猫の姿のまま雅楽のズボンに抱きつくと、よじ登って肩にちょこんと座った。
寺子屋に居た時は普通の猫の大きさだったが、今は肩に座るために子猫ほどの大きさになっている。猫の姿では大きさも自由自在のようだ。
「それで三つ目だが、これが今のお前の状況に一番近い。いわゆる祟られている、憑かれている状態で、別のあやかしに近づくと勝手にあやかし同士が戦い始める。
使役できるあやかしはたかが知れてるが、これは本来使役できないほど強力なあやかしを仲間にできる」
「ってことは、僕は千草に憑かれているってこと?」
「厳密には違う。あやかしが人間を伴侶に選ぶことを見染めるというんだ。人間に憑く中で最も祓うことが難しく、厄介なパターンだ。
この見染められたり、憑かれたり、祟られている場合の一番のデメリットはそのまま祟り殺される可能性があるってことだ」
「え」
肩に座っている千草に、雅楽は視線を向けた。治郎の話が本当なら、彼女に自分は殺される可能性があるということだ。
「そんな人聞きの悪いことを言うでない」
雅楽の肩に乗っている千草は「シャー」と怒った声を出した。しかし、見た目は子猫なので全く怖くなく、蓮香は小さく「かわいい」と呟いた。彼女はクールに見えるが、可愛らしいものが好きなようだ。
「妾が雅楽殿を見染めたというのは事実じゃ。じゃが、その辺のあやかしが憑くのとは訳が違うぞ。初めて雅楽殿を見た時、雅楽殿は子供じゃったが、その時にビビッときたのじゃ。この人は妾の婿になる男だと」
「美談にしているが、結局のところは見染めていただけだろう。猫又になることができる数年の間、マーキングしていたはずだ。雅楽、変な夢みたことないか?」
「あ、あるよ! というか最近は毎日見てた。千草みたいな女性が歌っている……。まさか」
「あー、昔雅楽が起きると泣いていた時あったな。それが千草のマーキングだったのか。気づかなかったよ」
雅楽は何年もその夢を見ているので、繊細な情景を思い出せる。真っ黒な空間で後ろを向きながら歌っている女性は、確かに千草に似ていた。
作者の紫 凡愚と申します!
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