冷たいつらら
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雅楽は唯一空いていた席に正座した。席といっても、高校の教室のようなものではなく、座布団と脚の短い机を置いただけの簡易的なものだった。
「おい、金髪男。妾の席がないぞ」
「誰が金髪男だ。今は余ってる座布団がないんだよ。そもそもあやかしをこの場にいさせているだけでも特例だ。贅沢言うんじゃない」
「生意気な男じゃ」
千草は納得いかないという様子で雅楽の斜め後ろに座った。直接畳の上に座り、痛そうだったので雅楽は座布団を渡した。彼女は嬉しかったのか、一度雅楽に抱きつくと「それでは雅楽殿の座る場所がなくなってしまうだろう」と言い、猫の姿になって膝の上に寝転がった。しばらくはこの姿でいるようだ。
「この一ヶ月間、本来の教師に変わり、俺が教師をすることになった。さっき国の退魔部と話をつけてきたんだ。あーあ、本当は雅楽と夏休みをエンジョイする予定だったのになぁ。そもそも俺、教師なんて向いてない気がする」
治郎はため息をつくと、机に両肘をついた。粗暴な口調もそうだし、サングラスに金髪のオールバックという髪型を含め、どう考えても教師の容姿ではない。
「じゃあ、まずは自己紹介からだ。ここにいる三人は一ヶ月間共に暮らすことになる。お互いのことをちゃんと知っとけ。新入りの雅楽から自己紹介だ。」
雅楽は立ち上がると、蓮香たちの方へ向いた。どんな状況でも、自己紹介というのは緊張する。
戸惑いながらも雅楽は口を開いた。
「佐伯雅楽です。えっと……、横浜の高校生です。よろしくお願いします」
「契約しているあやかしはその猫又さんですかー?」
蓮香ではないもう一人の生徒が雅楽に質問した。容姿と同様に、その声も男性とも女性とも取れるようなもので、口調は妙に間伸びしていた。
「契約って……」
「雅楽はまだあやかしについて何も知らないんだ。その件についても後で話すから、次はつららが自己紹介しろ」
「分かりましたー」
つららという不思議な名前をした生徒はゆらゆらと立ち上がった。つららはどこか儚い雰囲気を纏っており、雪のようにこの場で溶け出してしまいそうだった。
「私の名前はつららでーす。苗字はありません。あ、男です。昔は陰間として働いていましたが、今は闇祓いとして働かせてもらってまーす。どーもでーす」
「よ、よろしく」
目の前にいるつららが男性だと知った雅楽は目を丸くした。
所作は雑でも動きの端々に女性的なしなやかさがあったため、女性だと思っていたのだ。
雅楽にはつららの言う「影間」という言葉の意味が分からなかった。それを察したのか、猫の姿になった千草が人間の声を出し、補足を加えた。
「雅楽殿は影間が分からぬのだろう? 影間というのは男性が男性相手に色を売る職業のことじゃ」
「流石猫又さん、よく知ってますねー。……私のこと嫌いになりましたかー、雅楽くん?」
つららは首を横に傾けた。血を彷彿とさせる赤い瞳が真っ直ぐに雅楽を射抜いている。彼が雅楽を試しているのは、誰の目にも明らかだった。
それに気づいていなかったのは雅楽本人だけだ。
「なんで嫌いになるの? 自分の体を使って他人に奉仕をするなんて凄いことじゃないか。尊敬するよ」
雅楽は混じり気のない瞳でそう言った。その瞳には、影間という職業が存在しているという驚きはあったが、それをしていたつららに対する差別は一切ない。人の心を深く読むことができる猫又の千草が、「この世で一番心が美しい」といっただけのことはある返答だった。
「ふーん。珍しい人ですねー」
彼は少し頬を赤らめると、座布団の上に座り直した。今まで影間という職業のせいで散々差別にあってきたつららにとって、雅楽の反応は新鮮でどう返答すればいいのか分からなかった。
「次は私ね……って、今さら自己紹介は必要ないと思うけど一応言うわ。代々、闇祓いを生業としてきた一族出身の坂田蓮香よ。改めてよろしく」
蓮香は直角にお辞儀をすると、滑らかに座布団の上に正座した。一連の動きはとても美しく、彼女が小さい時から所作の教育を受けてきたことが一目で分かった。
「よし。自己紹介は終わったな。じゃあ除霊の仕方を教えるから、実践行くぞー」
「え、も、もう実践!」
いきなり実践と言う治郎に思わず声をあげた。ここは教室なのでもっと勉強のようなものをすると思っていた。
それにあやかしと対峙することは命に関わるというのは、さすがの雅楽でも理解していた。だからこそ、もっとゆっくり着実に実力を積んでいくものだと思っていた。
「当たり前だ。一ヶ月で雅楽を仕上げるんだ。厳しく行かないとな。それに除霊場所に向かう途中で説明するが、お前は特殊な状況に置かれているから、教えられることも少ない」
治郎はそれだけ告げると、教室を出てしまった。雅楽はよく知っているが、彼はいつもせっかちだった。雅楽は治郎の後をついていった。
驚きだらけのあやかし界での一日はまだ終わりそうにない。
足元で千草の首についた鈴がチリチリとなっていた。
作者の紫 凡愚と申します!
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