写真
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「これでもう……」
「うん、終わりだ。何もかも。カグヤが殺されることもない」
「主人……、みんなありがとう」
ようやくぬらりひょんを本当の意味で倒したというのに、沈黙が漂っていた。それは治郎の死を考えていたからだ。
確かにぬらりひょんは倒した。だが彼らの精神的支柱である治郎が亡くなったことで素直に喜べなかった。
雅楽は治郎の亡骸へゆっくりと歩んでいく。
「お父さんを埋めてあげよう。お墓は竹がたくさん生えている場所がいいかな」
「そうね」
雅楽は治郎が安心できるようにその手を握った。彼の目には涙がこぼれ落ちた。
「悲しい時は泣いていいってお父さん言ってたよね。もう……泣いていいかな」
彼はしゃくり上げながら声を出して泣いた。先ほどまでは戦いのせいで、治郎の死を悲しむ暇がなかった。
彼の嗚咽だけが沈黙の空気を震わせる。その振動はその場の全員の心臓まで震わせた。彼らの瞳にも涙が溜まっていく。
治郎の亡骸に抱きついていると、彼の手に違和感があった。治郎は何かを握りしめているのだ。
雅楽はそれを取り出した。手に持っていたのは、夜祭の前、インスタントカメラで撮った写真だった。写真には、真ん中に雅楽、その右横に治郎、そして雅楽の左横に母親であるかぐやが写っていた。
「なんでお母さんが……」
治郎はこの写真を現像した時、「幽霊が写っている」と言っていた。その幽霊とはかぐやのことであった。治郎はかつて、「呪力を使えば浮世の魂を強制的に見せることができる」とも言っていた。彼はその力を使って浮世の魂を元の形に戻し、家族写真を撮っていたのだ。
写真の中で、かぐやは微笑んでいた。その微笑は、なぜか雅楽の涙を止めた。もし、付喪神でかぐやの姿を見ていなくても、雅楽にはそれが自分の母親だと分かったはずだ。
科学では証明できない、理由のない安心感がかぐやの微笑みを見ていると湧き出てくる。
「いい写真じゃのう」
千草の瞳からも涙がこぼれ落ちていた。千草にとってもかぐやは大切な人だ。しかも千年も会うことができなかった。
かぐや、雅楽、治郎が揃った写真はいつまででも見続けられる気がした。かぐやの微笑みも、雅楽の微笑みも、治郎の微笑みも、ぎこちないところは一切ない。あたりには細い竹の葉が舞い散り、雅楽たちの写真のために竹が気を遣ってくれたのではないかというほど、美しい風景だった。
「お父さんはこれを大切に持っていたんだ。あの激しい戦闘の中でもシワひとつつけずに」
写真はとても綺麗に残されていた。治郎があれほど激しく動いても、あれほど血を流していても、写真にはシワや血、埃ですらついていなかった。
雅楽たちがくる前、彼は一人でぬらりひょんと戦っていた。いかにあの治郎といえど、ぬらりひょんと一人で戦うなんて怖かったはずだ。だから常にこの写真を忍ばせて、勇気をもらっていた。
その真実に気づいた時、雅楽や千草だけでなく、カグヤや蓮香まで泣き始めた。
悲しみが雅楽たちを包んだ。ぬらりひょんを倒したからと言って、喜ぶ気にはなれなかった。
ただそんな中で、つららだけは泣いていなかった。彼の顔はいつも通りキョトンとしている。
なぜ治郎が死んだだけで、雅楽が泣いているのか。なぜこの写真に特別な思いを抱いているのか。
つららにはそれが心底理解ができなかった。むしろ治郎の亡骸がこれほどまでに雅楽を悲しませるならば、その死体を処分しようとまで考えていた。
彼はどこまでいっても普通の人間の感覚を手に入れることはできなかった。
「つららはどうするべきなのかしら」
「お縄ですかねー。まあいいですよー。今は親を殺せて満たされてますし。たいていのことは受け入れまーす」
「お主は父親の死に涙を流す雅楽を見て、何も思わぬのか」
つららは泣いている雅楽の顔を眺めた。彼の頬はだんだんと赤く染まっていき、足をもじもじさせ始めた。その瞳には悲哀ではなく、喜びの感情が宿った。治郎の死を労わる気持ちなど微塵もなかった。
「さあ、雅楽くんがかっこいいなあくらいにしか思えません。そもそも親が死んで悲しい人の気持ちなんて分かりませんよ。だって私は親が死んで嬉しかったんですから。死体はただの『もの』です。小さい時から何度もその『もの』を見てきましたし、私も『もの』になりかけたこともあります。そこに泣くほどの理由をつけるなんて意味が分かりませんね」
「貴様……、その首をぬらりひょんと同じように」
「いいんだ! 千草!」
千草は今にもつららを殺しそうだ。雅楽の静止がなければ間違いなく殺していただろう。
「つららにはつららの境遇がある。僕がつららのことを理解できないように、つららも僕のことが分からないんだ」
「それはそうじゃが……」
「蓮香。ぬらりひょんを倒したことは国の退魔部に報告するの? お父さんも何度か退魔部の人と話してたよね」
「ええ。さっき伝書鳩を飛ばしたわ。もうすぐここに来るはずよ。治郎さんの死も伝えてある。お墓の場所なんかは退魔部の人に言えば便宜を計ってくれるわ」
「そうなんだね」
ちょうど夜が明け、陽の光があやかし界を照らし始めた。あやかし界では一年に一回の、ご来光だった。その光は雅楽たちのことを照らした。肌にこびりついた血も汚れも、つららの尖った犬歯も、雅楽の涙も、太陽の光は平等に全てを包み込んだ。
雅楽の瞳の中に、陽光が差し込む。
「じゃあここで待ってよう。まだお父さんと一緒にいたいし」
陽光に照らされる治郎の顔は、とても安らかで僅かに微笑んでいた。
作者の紫 凡愚と申します!
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