奥の手
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雅楽たちは襲いくる手を次々と捌いていた。雅楽は刀で斬り落とし、対処しきれないものは竹で串刺しにして動きを止めた。手はいくら斬り落としても無限に生えてきた。それでも雅楽たちは永遠のように思われる一分間、ひたすら体を動かしていた。
「主人! 準備できた!」
「一回ひくんだ!」
雅楽が合図すると、全員カグヤの後ろに退避した。彼女から溢れ出る力は、八岐大蛇と似た禍々しさと威圧感があった。
「貴様は我から生まれた存在であろう! 貴様の技なんかに我が殺されるか!」
「……あなたには予想がつかないこともある。かつて私と同じ名前のあやかしを生み出したように」
カグヤは地面に手をついた。そこから竹が大量に生えてくる。竹はただまっすぐ伸びるだけでなく、複雑に組み合わさり、独自の形に変化していった。
「私は今まで主様が戦闘で使っている竹の栄養を吸収してきた。蓄積された竹は富士の樹海から山頂までを覆い隠せるほどの量がある。それを全てあなたにぶつける」
組み合わさった竹がまた重なり合い、複雑な形を模していく。いつの間にかそれは巨大な龍の姿になっていた。
「『輝夜に舞う龍翁』」
龍の目が月のように光り、大きな声で鳴いた。雷が落ちたのかと思うほど大きな声だった。
それに対抗するかのように八岐大蛇も八つの首をしならせ大きく叫んだ。
八岐大蛇の最大の攻撃がくる。だが雅楽たちは一歩も引かず、八岐大蛇と正面から向かい合っていた。
「『陽乃禍和』」
八つの首のうち七つが口に紫色の毒ガスをため、中央の一つが一際大きい炎を口にためた。あまりの炎の威力に口だけに収まらず、鼻や耳からも炎が吹き出し、さらには瞳を焼いて両目から火柱をあげている。周りの顔から漏れ出ている毒ガスは火の粉が一片ふれただけで爆発した。
それが全て地上に放たれたらどうなるか雅楽たちには想像がついた。
しかしそれでも彼らが逃げる素振りはない。むしろ挑戦的に笑っている。
「……行くよ」
「ぐらあああ!」
二人の技が中央でぶつかり合った。その瞬間、とんでもない爆風が辺りに吹き荒れる。瞼を閉じていても眼球が蒸発してしまうのではないかと思うくらい熱かった。ただ、つららが氷を出してくれたおかげで凌ぐことができた。
カグヤの出した竹の龍は爆風を受け続けているせいでところどころ欠け始めていた。このままではかぐやの技が破られてしまう。
「我の勝ちじゃ」
雅楽は熱風の中、かろうじて目を開けると、かぐやの背中に手を置き呪力を流した。雅楽は力を使って龍の欠けた部分を修復し、さらに竹を追加して龍をより大きくした。
「なんだと!」
竹の龍が、八岐大蛇に噛み付いた。驚くべきことに竹の龍はそのまま八岐大蛇のことを食べ始めた。彼は抵抗するが、体のあちらこちらから竹が生えてきているせいで力を入れることができなかった。内臓、皮膚、眼球、あらゆるところを竹が突き破っている。
「やめろぉぉぉ! 我を食べるな! 貴様は我が食べる存在じゃあああ!」
彼の悲鳴も虚しく、バリバリと龍は彼にむしゃぶりついている。そこからしばらくは八岐大蛇が悲鳴をあげながら、喰われる様子が続いていた。
やがて竹の龍が「げぷっ」という音を吐いた。ものの数分で八岐大蛇を食べ尽くしてしまったみたいだ。
カグヤはヘトヘトになりながら術を解いた。龍は跡形もなく消えた。そこに広がっていたのは、細かい肉片となった八岐大蛇の残骸だった。
「ぬらりひょんを、八岐大蛇を……倒した?」
「すごいぞ、雅楽殿! これほどの肉片にまでなればもう復活できまい。我らの勝利じゃ」
「やりましたねー」
「やったのね......」
千草たちは心の底から喜んでいる。確かに八岐大蛇は原型をとどめないほどぐちゃぐちゃになっている。
しかし雅楽はまだ落ち着けなかった。彼はゆっくりと立ち上がると、刀を鞘へ納めた。
「なんかおかしいよ」
「どうしたのじゃ?」
「こんなに上手くいくものなのかな」
雅楽にはどうも八岐大蛇がこれで終わるとは思えなかった。あのあやかしにはまだ奥の手があると思わせるような凄みがあった。
「喰われている間に何もしないのもおかしい。お父さんにだって奥の手があったんだ。ぬらりひょんにだって……」
そう言おうとした瞬間、背後からゾッとするほどの殺気を感じた。
急いで後ろを振り返ると、そこには八岐大蛇の顔が一つだけ落ちていた。
それに気づいた千草が慌てて叫んだ。
「まずい! あれほどの大きさがあれば再生できるのじゃ!」
「一体どうやって……、そうか!」
八岐大蛇は龍に喰われている最中、他の顔で自分の顔を噛みちぎり、それを雅楽たちの後ろに投げ飛ばしたのだ。
その顔はみるみるうちに再生していき、ついには首まで治してしまった。
「残念じゃったのお。これほどまでになればすぐに全身回復できるわい!」
八岐大蛇の生首がそういうと首からぼこぼこという音と共に肉が生えてきた。間違いなく再生をしようとしている。
「またあの姿に戻ったら……」
「残念じゃったのお。残念じゃったのお。もう手遅れ……」
急に八岐大蛇は喋らなくなった。それだけでなく回復もしていない。八岐大蛇だけが時が止まったかのように動かなくなった。
「『時を止める高麗笛』」
雅楽の口から治郎の奥の手だった技の名前が放たれる。ぬらりひょんの時間が完全に停止した。
「僕はまだお父さんほどじゃない。だから時は三秒しか止められない。しかも呪力が空っぽになるから、向こう一ヶ月はなんの技も出せなくなる。でも三秒あれば、お父さんからもらった刀を使えば、粉々にできる」
雅楽は腰に携えた刀を構えた。その構え方は、付喪神が見せた記憶の中で治郎がやっていた形と全く同じだ。
「悠久の命も、これで終わりだ」
雅楽は刀を鞘走らせた。八岐大蛇は自分の死を察しながらも、時を止められているせいでその恐怖すら顔に出せなかった。
三秒経つと、地面に八岐大蛇の頭が細かな肉片となって転がった。これでもう、再生できないくらい細かくなった。
魔王と呼ばれるあやかしの割にはあっけのない最後だった。
作者の紫 凡愚と申します!
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