一千年の愛
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「やあ」
記憶はどこかの竹林の中で再生された。その場には、金髪オールバックではなく、元来の黒髪黒目の姿をした治郎がいた。
「この刀は俺が闇祓いになり始た頃から使っているから、付喪神がついている。それを利用すれば未来のお前に話しかけることができるってわけだ。どんな状況でこの記憶を見ているかまでは分からないけどな」
治郎は目の前の木に向かって刀を頭の上で身構えた。
静けさを纏った治郎に向けて風が吹きつけた。それと同時に、木の葉がいくつか舞い散った。
「刀の使い方を教える。大木を斬るように力を込め、葉っぱを打つように動かす。するとどんなに硬いものでも、どんなに柔らかいものでも楽に斬ることができる。よく見ておくんだ」
治郎は刀を目にも止まらぬ速さで振り回した。瞬きするほどの時間で、目の前の大木、辺りに散っていた木の葉も切り刻まれている。
大木はドスンッという音を立てて、地面に倒れた。
「とまあ、これが刀の扱い方だ。よく見てくれたか? 俺が教えたことがいつか役に立つこともあるだろ」
「刀の使い方を伝えたいのは分かりますが、早く私も入れてください」
治郎の横に女性が走り寄ってきた。彼女は腰まで伸びた金色の髪を揺らしている。その容姿は非常に整っていて、カグヤに似ていた。
「初めましてでいいんですかね?」
「そもそも挨拶なんているのか?」
「うーん。やっぱり変な感じがします。この記憶を刀に託して、未来の私たちの子供に見せるんですものね」
「自己紹介くらいしておくか?」
「そうしましょう」
月のような輝きを放つ女性は顔を上げて、視線をまっすぐにした。記憶の先にいる雅楽と視線が交錯した。
「初めまして。あなたの母親のかぐやです」
雅楽は息を飲んだ。確かにその人物は千草の鈴を触れた時に見た女性だった。彼女は常に微笑んでいて、柔和そうな雰囲気を纏っていた。
「夫が……、いえ、お父さんが未来のあなたに向けて刀の使い方を教えるって言っていたから急遽私も参加させてもらいました」
彼女は丁寧にへそのあたりで白い手を重ねていた。話すのに使う口の僅かな動きでさえ上品で美しかった。
「とはいえ、長くは話すつもりはありません。あなたがこの刀を手に取っているということは、それが必要な状況に追い込まれているということですからね。時間をとるわけにはいきません」
かぐやはキリリとした目つきで雅楽を見た。彼女が話している時にはまだ雅楽の姿はないはずなのに、母親の勘なのか真っ直ぐと雅楽のいる場所を見つめている。
白くて細い手で、彼女はお腹を撫でた。着物の上からでも分かるくらいお腹が突き出ていた。まだ彼女のお腹の中に雅楽がいるようだ。
「私たちの子供ですから、あなたは普通の人よりもたくさんの困難にぶつかることでしょう。もしかしたら自分の命が危うくなる困難どころか、他の人の命まで背負うこともあるかもしれません」
雅楽の胸の中に彼女の鈴のように美しい声が響いた。その言葉は今の自分の状況を表しているような気がした。
「でも、きっと大丈夫です。あなたにはそれを乗り越える力があるはずです。もしも心配になってしまったら、私たちを思い出してください。お父さんとお母さんはいつでもあなたを愛しています。何年、何十年、何百年、何千年経っても、顔を知らずとも、覚えていなくとも、ずっとあなたのことを思っています」
「俺からも一ついいか?」
治郎もどういうわけか正確に雅楽の方を見た。容姿は違うが、瞳だけは変わらず見慣れた安心感があった。
「感情に正直に生きるんだ。悲しい時は泣き、怒りたい時は怒り、嬉しい時は笑え。でも一つだけ従ってはいけない感情がある。……恐怖だ。恐怖は心を蝕み、思考を鈍らせ、体を震えさせる。恐怖に苛まれている時こそ、冷静に物事を見て、正確に動かなくてはいけない。だからな……、笑え。怖い時こそ笑うんだ」
治郎は笑った。口から白い歯が見えている。頬によった皺は深く溝を作り、どこかぎこちない。口がピクピクしていて、むしろ怒っているようだった。
彼は作り笑顔が絶望的に下手だった。
「うふふ。相変わらず作り笑いが下手ですね」
「うっ。やっぱり変だったか」
「私たちの子供のためにも笑顔の作り方を教えてあげましょう」
かぐやは治郎の頬を両手で挟み込んだ。彼の顔は中心により、唇が突き出している。
「いいですか。笑うときは顔を動かすのではなく、心を動かすのです。今までの人生で幸せだったことを思い出すのです。そうしたら、自然と笑えます。簡単ですよ? だって一ヶ月も生きていない私ですら思い出すことはたくさんあります。あなたもやってみてください」
かぐやが手を離すと、治郎は自然と笑えていた。先ほどのような不器用な笑顔ではなく、心の底からの笑顔だった。
「ほら、できた」
「かぐやと過ごしたこと思い出したらできたよ」
「うふふ。奇遇ですね。私もあなたとの記憶を思い返すと笑顔になるんです」
二人は見つめ合っていたが、すぐに雅楽の方に向き直した。二人とも、三日月のように美しい笑顔を浮かべていた。
「さあ、もう行きなさい。その刀を使わないといけないのでしょう」
「最後に俺たちからの言伝だ」
「雅楽、愛しています」
「雅楽、愛している」
治郎とかぐやは手を繋ぎながら、手を振った。二人はいつまでも微笑みながら手を振っていた。
作者の紫 凡愚と申します!
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