八岐大蛇
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雅楽がそう言い放つと同時に、百々目鬼が動いた。彼は目にも止まらぬ速さで距離を詰めてくる。
「『望月』」
千草は百々目鬼の攻撃を正面から受け止めた。それだけでなく、拳を交わし合い、一ミリでもずれたら致命傷を負ってしまうような繊細な肉弾戦をしている。
「『空絶』」
死角から蓮香がパンチを放った。拳を振り切る音は、雷ようにパンッとなった。
百々目鬼は全身にある瞳でそのパンチを観測すると、体を逸らした。先程まで頭があった場所に、蓮香の拳が突き抜けた。すると、その射線状にあった家が砕け、破壊された。蓮香のいる位置から壁までは十メートル以上はあるというのに、圧倒的な威力だった。
「……『ちくちく竹竹』」
避けた先にカグヤが竹を出した。小さい竹はトラップのようにあちこちに生えている。それを百々目鬼は全身の瞳で感知しながら、軽快なステップを踏んでかわしていく。
百々目鬼が空中に舞ったところでつららが呪文を唱えた。
「『氷地結』」
地面から地面から氷が伸び、跳躍していた百々目鬼の足をとらえた。彼は力を込めたが、氷を砕くことはできなかった。
「『竹木の成長』」
雅楽が地面に手を付けると、カグヤの出した小さかった竹が軒並み成長した。急激な成長に、空中にいた百々目鬼は対応することができず、たくさんの竹が体を貫いた。
体のあちこちに竹が貫通してしまっているので、彼は身動きを取ることができなくなっていた。
「『過癒治骨』」
百々目鬼の全身から骨が生えた。骨は竹よりも固く太く、周辺の竹を薙ぎ倒した。彼は自由になると体に開いた穴を治した。
「いつぶりだろうか。ここまで追い込まれたのは」
百々目鬼は「追い込まれた」と言いつつ、傷は相変わらずひとつもなかった。
「同時に不愉快である。かつて世界を恐怖に陥れた姿を持ってお前らを倒そう」
再び百々目鬼の体が気色の悪い音を奏でた。
彼の体は周りの家よりも大きくなった。首は八つに別れ、その先にはそれぞれ違う表情をしたぬらりひょんの顔が、胴体は鱗のようにびっしりと目が浮き出ている。
その姿は見るだけで、卒倒しそうなほど恐ろしいものだった。
「まさかその姿は……」
千草は恐る恐る口を開いた。物知りな千草に、一つの推測が頭をよぎった。
「もしや……、日本神話に出てくる八岐大蛇とはお主のことだったのか」
「左様」
中央の首から生えている顔が返答すると、他の顔も「左様じゃ」、「さよー」などとそれぞれ返答した。
「この姿を持って貴様らを殺してやろう。『蛇も蚊も』」
八つもある顔が恐ろしく歪んだ。それぞれ紫色の吐息を吐いていた。
「みんな! 避けるのじゃ! 毒じゃ!」
雅楽たちが後ろに下がったのと同時に、八岐大蛇が吐息を吐いた。周辺に死体を煮たような臭い匂いが広がる。思わず、雅楽たちは鼻を押さえた。
毒が吐かれた地面はみるみる溶けていった。
「なんて威力だ……」
八岐大蛇は存在しているだけで、思わず気圧されてしまうほどの威圧感があった。生物として、このあやかしに勝つことができない。逃げたほうがいい。そう本能が警鐘を鳴らした。
しかし視界の隅に、治郎が映った。彼は心の底から安心している様子で、眠りについている。
「倒さないと……」
雅楽は再び自分に気合を入れた。しかし千草、蓮香、カグヤは八岐大蛇となったぬらりひょんが怖いのか、怯えている。
「首が増えた分、殺せる回数が増えましたー」
そんな中、つららだけが嬉々として八岐大蛇に挑んでいた。彼は攻撃を喰らい、血を流しながらも、氷を出して八岐大蛇に傷をつけている。
「つらら! 僕もやるよ!」
八つの顔が別々に攻撃してきた。一つは毒を吐き、一つは火を吹き、一つは噛み付く。そんな調子で、それぞれの顔がそれぞれの意思を持っていた。
雅楽はかわしているが、どうしても避けきれないものもあり、攻撃が掠るたびに血を出した。
「初めての共同作業ってやつですかー?」
「『富士竹』」
雅楽は竹を八岐大蛇に負けないくらいの高さまで大量に生やした。それだけでなく、つららが竹に氷をまとわせ、殺傷力を上げた。
「『神宮爆羅』」
八つの顔が全て火を吹いた。それは火というよりも爆発に近く、雅楽たちは壁まで吹っ飛ばされた。同時に目を開けられないほどの熱風が吹き荒れた。
もしつららが氷で周りを囲んでくれなければ、全員焼け死んでいただろう。
「みんな、戦うんだ!」
八岐大蛇に気圧されていた千草たちの耳に、雅楽の声が入り込む。今までの自信がなく優しそうな声とは違い、治郎のハキハキとした声に似ていた。
「カグヤ、一撃だ」
雅楽がカグヤに告げる。
「八岐大蛇は今までのぬらりひょんの再生能力も持ってる。体も大きいし、僕たちのちまちました攻撃じゃ意味がないんだ。この中で、一番強力な技を放てるのはカグヤだ」
「……怖いけど、やる。主人の願いだから。でも、十分集中できる時間が欲しい。どうしても技を出すには時間がいる」
「分かった。みんな! 一分間、時間を稼ぐんだ!」
「十分間稼げば、八岐大蛇を倒せるのね」
「ああ」
蓮香の瞳に正気が戻る。八岐大蛇を恐れて動けなくなっていたが、明確な目標ができたことで、活力を取り戻したようだ。
「雅楽殿。これを使うのじゃ」
千草の手には刀が握られていた。それは治郎の刀だった。
「でも僕は刀なんて使ったことないよ」
「触れば分かるのじゃ」
千草は強引に刀を手渡してきた。
雅楽の脳に何度か経験したピリッという感触が走る。
刀についた記憶、付喪神が雅楽に映像を見せた。
作者の紫 凡愚と申します!
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