まさかり担いだ蓮香
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彼がそう言うのと同時に、雅楽たちは行動を起こした。
治郎と千草はぬらりひょんに向けて一気に駆け寄った。そして治郎は刀で、千草は爪で攻撃する。嵐のように続く攻撃だが、ぬらりひょんはそれを飄々と躱す。避けるだけではなく、何度も手に持った杖を振り回し反撃するが、治郎も千草も危うげなく避けていく。
「治郎はともかく、猫又も厄介じゃのう」
「妾の名は千草じゃ! お前が殺した尊い人物からもらった名じゃ!」
千草は治郎とは違い時を操るといった技を持たない。それでも高速のぬらりひょんの攻撃を避けることができるのは、並はずれた五感と心を読む力が理由だった。
彼女はぬらりひょんが体を動かす前にその心を読み、次にどのような攻撃するかを予測していた。
「『竹籠目』」
雅楽はぬらりひょんの避けた先に竹で作った壁を出した。もう弱々しいタケノコは生えてこない。彼の作り出す竹は、今までのたけのことは違い、硬く、まっすぐだった。
ぬらりひょんはいきなり竹が現れたことで、治郎の攻撃を避けることができず、刀が掠ってしまった。致命傷にはなり得ないが、追い込んでいることは確かだった。
「ナイスだ! 雅楽!」
「怪我などひさびさじゃ……。『百鬼夜行』」
ぬらりひょんが呪文を唱えると、大量のあやかしが出てきた。その中には口裂け女やてけてけもいる。
「やっぱりここ最近のあやかしの増加はぬらりひょんのせいだったのね」
「蓮香、頼む!」
「『千鬼夜行』」
蓮香は懐からいくつも巻物を出すと、それを地面に広げた。そこから大量のあやかしが現れた。
先ほどぬらりひょんが出したあやかしの数よりも蓮香の出した数の方が遥かに多い。
ただしぬらりひょんのあやかしに比べると、蓮香の出したあやかしは弱そうだ。
「ふん。この程度のあやかししか契約できないとはのお。今どきの若いもんは弱いのお」
蓮香の出したあやかしは次々と倒されていく。彼女の出したあやかしが半分ほどになったくらいには、まだぬらりひょんのあやかしは四分の一ほどしか討伐されていなかった。
「なんでぬらりひょんはこんなにも強いあやかしと契約できるの……?」
蓮香の疑問に治郎が答えた。
「ぬらりひょんが最強と言われている所以はその回復力にある。あいつは体が真っ二つになっても再生するほど回復力が高い。だからあいつは俺よりも長生きできるし、自分の体を使う契約にも高い代償を払うことができる」
先ほどぬらりひょんにつけた傷が消えていた。彼の再生力が高いというのは本当らしい。
「にしても、あやかしを出す娘は面倒じゃのう。……決めた。まずはお主からじゃ」
ぬらりひょんが杖を地面にトンとつくと、あやかしの動きが止まった。一拍置いたかと思うと、彼らは蓮香の方に首を曲げ、一斉に襲いかかってきた。
「蓮香!」
雅楽は彼女の名を叫んだ。蓮香はあやかしを出すことができるが、彼女自身があやかしと戦うことはできない。少なくとも雅楽は蓮香があやかしと闘っているところを見たことがなかった。
この数相手では、ただでさえ戦闘力を持たない蓮香の身が危ない。
たくさんのあやかしが蓮香に近づいていく。特にその中でも素早い口裂け女が真っ先に蓮香に向かっていった。
このままでは蓮香が死んでしまう。
雅楽は竹を出して守ろうとしたが、口裂け女の動きが早く間に合いそうになかった。
もう少しで口裂け女の鋏が蓮香の首を捉える……。しかしそうはならなかった。
「邪っ魔なのよっ!」
蓮香は今までにない荒い口調でそう言うと、口裂け女の頭を片手で握り、地面に押さえつけた。勢いよく押さえつけたため、地面が凹みヒビが入った。途轍もない怪力だった。
蓮香のあまりの馬鹿力に雅楽はポカンとしている。
「やっぱりそうであったか……」
千草は納得が言ったように呟いた。しかし、雅楽はなぜ蓮香にあのようにあやかしを葬るほどの怪力があるのか分からなかった。
「どういうこと?」
「蓮香にはあやかしの力を感じていたのじゃ。つららや雅楽殿と同じような。それは髪の毛一本であやかしと契約できる力を意味していると思っていたのじゃが、違ったようじゃ」
信じられないような怪力で次々とあやかしを除霊している蓮香を見て、千草が言った。
「蓮香の苗字を聞いたときに薄々勘づいていたのだが……。蓮香の苗字は『坂田』。おそらく金太郎という昔話で知られる坂田金時の末裔じゃ。坂田金時も熊を倒すほどの怪力と、数多の動物に好かれる……、実際はあやかしじゃが、その二つの力で知られておるじゃろう? 蓮香もその力を色濃くついだのであろう」
「そうだったんだね」
確かに蓮香は自分でも代々闇祓いの家系と言っていたので、納得できた。
しかし、それでも分からないことはある。
「なんで蓮香は今までその力を使ってこなかったんだろう」
「……可愛くないからよ」
蓮香が恥ずかしそうにボソリと呟く。彼女の顔は耳まで真っ赤だ。
「女の子らしくないから、あまりこの力は使いたくなかったの!」
「な、なるほど」
雅楽の脳裏に蓮香の部屋が浮かんだ。彼女は可愛らしいものが大好きだったので、この怪力という力を使うことが恥ずかしかったのであろう。
「『茨の竹』」
こんな会話をしている間にも、あやかしは次々と襲いかかってきた。
雅楽は先の尖った竹を地面から生やすと、どんどん串刺しにしていく。
竹を生やすという単純な能力だったが、それだけでこの場にいる誰よりもあやかしを除霊していた。
「『霊涼域』」
つららの周りにいるあやかしは、その場にいるだけで氷を身に纏い、勝手に凍っていく。異変を察してか、あやかしたちは、もはやつららに襲い掛かることすらしていない。
「近づかないで……」
カグヤは雅楽が生やしたままにしている竹から栄養を吸収し、それで新たに竹を生み出した。
「『竹牢獄』」
彼女は竹でつくった牢獄で大量のあやかしを囲った。あやかしはその中から出ようと、竹を切ろうとしたり叩いてみたりするがびくともしない。
「私の栄養になって……。『朽ち木の成長』」
牢獄の中に、紅葉が舞う。地面にはそれが積み重なり、あやかしたちの足元を覆った。そしてその紅葉一枚一枚が、あやかしから生きる力を吸収していく。紅葉が赤みを増していくのと同時に、あやかしが一人一人と倒れていく。
作者の紫 凡愚と申します!
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