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ようこそ! あやかしの世界へ!  作者: 紫 凡愚
第4章 竹の子
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インスタントカメラ

ブックマーク、コメント、評価、よろしくお願いします。

感想もくれたら、最高に喜んでしまいます。

 それから三時間ほど、治郎から時を操る技を教えてもらった。


「これが今、俺が教えられる全てだ」

「全てってまだ全然できてないけど……」

「心配するなって! お前には成長が早いって能力もあるし、何より俺の息子で、母さんの息子だ。すぐできるようになるさ」


 治郎は自分の全ての技を雅楽に伝えた。とはいえ、それがすぐに使えるようになるというわけではなく、まだ練習は必要だった。


 時を操る力はタケノコを生やすよりもはるかに扱い方が難しい。繊細な技量が必要とされた。ただ難しい力だからこそ、時を操る練習をしているだけで、タケノコを生やす力の練習にもなった。


「お父さん。僕はお父さんみたいになれるのかな」

「どうしたいきなり」


 雅楽は俯いて下を向いている。足元にはまだ生えたばかりのタケノコが顔を出していた。それはまだ小さく、突起がわずかに地面から浮き出ているだけにすぎない。地表に出ている頭の部分も枯れ葉で埋まりそうになっている。こんなにも小さなタケノコが周りの竹のように立派に太く成長するのが信じられなかった。


 雅楽はつい、タケノコと自分を重ね合わせてしまった。自分はまだ治郎のように大きい存在ではない。それどころか、守るはずのカグヤよりも弱く、埋もれている。


「初めてヒダル神を倒してから、もう二週間経つ。その間、僕は一度もあやかしを除霊していない。やっぱり、怖いんだ。僕はずっと臆病で、意気地なしで、ビクビクしてる。僕は弱い。弱いんだ。お父さんから指導を受けたって、僕なんかじゃ……」

「雅楽、こっちを見ろ。俺の目を見るんだ」


 治郎は珍しくサングラスを外した。そして雅楽の両頬を手で包み込むと、瞳を覗き込んだ。改めて見ると、治郎の瞳は美しかった。遠くから見ればただ黒く塗りつぶされただけの瞳。だがじっくり眺めていると、黒の中に茶色や灰色といった色彩が複雑に絡み合って黒という色を紡ぎ出している。


「昔、このおまじないをしていたのを覚えているか?」

「うん。僕が怖い夢を見たりして、泣きじゃくっている時にしてくれたよね。じっとお父さんの瞳を見ているうちに、だんだんと恐怖が薄れていくんだ」


これは小さい頃から治郎がよくしてくれたおまじないだった。なぜだか分からないが、雅楽は治郎の瞳をじっくり見ると、その中に恐怖が吸収されるような気がして泣き止んだ。中学生に上がる頃にはめっきりしなくなっていたが、その時の記憶は残っており、相変わらず安心した。


「大きくなったな。雅楽」

「え?」

「大きくなった。小学生の頃、このおまじないをする時には、俺は腰を痛めるぐらい屈まなくちゃいけなかった。だが今はどうだ? 首をちょっと下に向けているだけでお前の瞳をじっくり観察できる」


 治郎はじーっと雅楽の瞳を観察している。それはつまり、雅楽も治郎の瞳をじっくりと観察することになる。ずっと彼の目を見ていると、その中に吸い込まれそうになった。


「小さい頃はもっと色素が薄くて、瞳の色は茶色だった。今では、色が濃くなって黒色になっている。でもただの黒じゃない、黒く澄んでいる。そんな矛盾した表現が似合う黒色だ」

「お、お父さんは何が言いたいの?」

「お前は成長しているんだよ。俺も気づかないうちにな。お前は俺が闇祓いとして全国を飛び回っている間、たった一人で生活してきた。もう俺がいなくても、充分生きていけるんだ。

雛鳥の羽が生えそろい、飛び立つことができるようになったら、あとは巣から飛び降りるだけだ。お前は外の世界が怖くて、まだ巣の外に出る勇気が出ないだけなんだよ。もう雛鳥ではなく立派な翼を持った鳥なんだ」


 竹の草が生い茂る頭上から、「チーチュルチュル」という雀の鳴き声が聞こえてくる。そして雀は小さな足からは想像できないほど力強く竹を蹴ると、飛び立った。雀は小さな体を大きく広げ、無限に続く空を飛翔している。


立派な竹ですら届くことのない高い場所を、悠々と飛び回ていた。


「どこに羽ばたくかは自分で選ぶんだ。あやかしの世界を羽ばたくのか、人間の世界を羽ばたくのか。どちらの選択肢も選べるようにせめて高校は出るんだぞ。あと、人間界にももっと友達を作っとけ」

「どうしたの、急に。まるでいなくなっちゃうみたいな……」

「いいから。よく聞くんだ。お前は確かに怖がりだ。でもそれは悪いことじゃない。恐れから来る『臆病さ』が雅楽を弱くしている。怖がりと臆病は違う。臆病さだけ消せばいいんだ」

「そんなこと言われても、臆病なのは治らないよ」

「それは違うな。世界最強の闇祓いと言われる俺が断言するがな、お前はいつか臆病ではなくなる。カグヤがヒダル神に襲われそうになった時、身を挺して守っただろう? すでに雅楽の心から臆病という性格が抜けかけている証だ」


 雅楽の胸が熱くなった。治郎がここまで励ましてくれるとは思っていなかったのだ。親子というのは非常に近い存在だ。だからこそ、本音で話せない時もある。ここでこうして治郎の本音を聞けてよかったと、もっと成長しなくてはと心の底から思った。


「雅楽。写真撮らないか?」

「写真? 珍しいね」


 治郎は手にインスタントカメラを持っている。撮った写真がその場で現像されるカメラだ。携帯ではなくあえてインスタントカメラを使っているのが、意外と現代の道具についていけない治郎らしくて、雅楽は笑ってしまった。


「なんで笑うんだよ」

「気にしないで。……ん? これセルフタイマー付いてないよ。これだと自撮りは難しいし、二人で写真撮るの厳しいんじゃない?」

「まかせろ。俺の呪術でシャッターを押した瞬間にカメラの速度を遅らせる。そうしたらゆっくり置く時間ができるだろ」

「そんな凄い力を、こんなところで使うんだね」

「力なんて使い方次第さ」


 治郎はシャッターを切ると、呪術をカメラにかけた。カメラは故障したかのようになんの反応もない。普通ならばカシャリという音が聞こえるはずだ。

彼はうんともすんとも言わないカメラを岩の上に置くと、真正面に治郎と映った。


「よし、笑え」

「うーん……」


 笑えと言われても雅楽の顔はぐにゃりと歪むだけで、まったく笑顔とは程遠かった。


「だっはっは! 雅楽は作り笑い下手くそだなー!」

「難しいんだよ!」


 雅楽は昔から作り笑いが苦手だった。そのせいで、学校のアルバムなどには引き攣った笑顔……、そもそも笑顔とも分からないくらいの奇妙な顔で写っている。

 今まであまり人には行ってこなかったが、怖がりという性格と同じくらい作り笑いが苦手なこともコンプレックスだった。


「お父さんは昔から作り笑い上手だったよね」

「ちょっとしたコツを知っているんだ。雅楽にも教えてやろう。いいか? 作り笑いをするときは顔じゃなくて、心を動かすんだ。自分が幸せだった時のことを思い返すと、気づいたら顔が反応して、笑顔になる」

「こ、こう?」

「お、なかなかいいじゃないか。じゃあ写真撮るぞー」


――カシャリ。


 インスタントカメラのシャッターが切られた音がした。音が鳴るとすぐに、ウィーンと、写真が出てきた。

 治郎はその写真をじっくりと眺めると、納得したように頷き、ポケットにしまった。雅楽には見せてくれなかった。


「なんでお父さん見せてくれないの?」

「いやー。実は幽霊が写ってて、心霊写真なってんだよな。雅楽の臆病が治ったら見せてやるよ」

「……やっぱり一生見せなくていいや」


 よりにもよってせっかく撮った写真が心霊写真になっているなんて思いもしなかった。最初は治郎が嘘をついているのかと思ったが、そうする必要もないし、一瞬見えた写真には、雅楽の隣にもう一人、人が立っていたので、本当のことを言っていると分かった。


 だが記念写真に幽霊が映り込んでいるというのに、治郎はなぜか清々しい顔をしていた。


「さあ、もう帰ろう。今日は夜祭を楽しまないとな」


 彼は意気揚々と引き上げていく。


 何かがおかしい。何かが。


 雅楽の頭にはそんな考えがこびりつき、離れない。治郎の様子がおかしいことは、雅楽が一番感じていた。

 彼はいつも楽観的で、チャラチャラしている。今日も相変わらずそんな感じなのだが、どこか無理しているように思えた。


「うん」


 また頭上で「チーチュルチー」という雀の鳴き声がする。音のした方向を見てみたが、そこに雀はいない。どこか遠いところまで飛んでいったのか、それとも間違えて地面に落ちてしまったのか。

 雅楽は雀が力尽きて、地面に落ちてしまったのだと思った。なぜだか分からないがそう思った。




 帰りの電車の中で、雅楽は口を開いた。


「ねえ、お父さんはずっと僕のお父さんだよね」


 自分でもなんでこんなことを聞いたのか分からなかった。

 ただ、今ここでこの質問をしなければ、後悔する。そんな気がしたのだ。


「ああ。いつまでも俺はお前の父親だ。まあ、良い父親とはいえないかもだけどな」

「僕にとってお父さんは、最高のお父さんだよ」


 この言葉を聞いた治郎の瞳から涙が一筋流れた。雅楽は長い間治郎と過ごしてきたが、彼が泣いたのを見たのはこれが初めてだった。


 車窓から入ってきた西陽は電車の中を満たした。茜色の日差しは涙に反射し、輝いた。


「……そうか。俺にとってもお前は最高の息子だよ」


 治郎の顔に影が差す。彼が何かを隠している。雅楽はそれを察していた。しかし、それは聞いても教えてくれないような気がしたので、治郎に質問することはなかった。


「あやかし界に戻ったら、カグヤたちと夜祭を楽しんでくれ。これで最後だしな。俺はよるところがある」


 最寄駅に着くと、治郎はどこかに去って行ってしまった。彼の後ろ姿は逞しく、頼り甲斐があって、どこか儚い。

雅楽はその姿を目に焼き付けた。心の中にあるインスタントカメラのシャッターを切るように、何度も何度もその姿を記憶した。


作者の紫 凡愚と申します!

この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!

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