口裂け女
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帰り道は武臣とずっと下らない話をしていた。宿題が面倒くさいだの、他クラスに可愛い女の子がいるだの、武臣は特に女の子の話が大好きだった。
一方で、雅楽はそういった話が苦手で、恥ずかしそうにするのだが、雅楽のウブな表情を見るのが好きなのか、武臣はよくからかっていた。
「おいおい。そんなに恥ずかしがってちゃ、彼女なんかできないぜ」
「別に彼女なんて欲しくないし。……っていうか、武臣だって彼女いたことないじゃん」
「うっせえっ。今に彼女作ってやるからな!」
「へー。死ぬまでには彼女を紹介してよ?」
「おまえ! 俺に彼女できないと思ってるな!」
二人が互いにからかいあっていると、緑色のコンビニの前についた。ここが二人の分かれ道だった。
「じゃ、今日はここでさよならだな。また明日なー」
「うん、また明日」
武臣と別れた後、携帯がピロンと音を立てた。携帯を見ると、父親から連絡が入っていた。
(すまん。どうしてもやらなきゃならない仕事があるから今日帰れなくなった。明日には絶対に帰れるから、ごめんな)
雅楽は悲しそうにしながらも、すぐに返信を打った。
(分かったよ。気にしないから、仕事頑張って)
その後に単調なキャラクターが親指を立てているスタンプを送ると、雅楽は本来帰るはずの道を逸れて、どこかに寄った。
そこは神社だった
赤色の鳥居は古びており、石畳はゴツゴツしていて年季が入っていた。古い上にこじんまりしていて有名でもないが、ここでお参りするとご利益がある気がして何か願い事をしたい時はいつもここに寄っていた。
雅楽は賽銭箱に五円玉を入れると、手を叩き、目を閉じた。
(早くお父さんが帰って来れますように……)
もちろん声は出さずに、心の中でそう呟いた。ただ神様にできるだけこの思いが伝わるようにと、いつもよりも長く目を閉じ、手を合わせていた。
「あら、今日も来たのね」
「うわあ!」
いきなり話しかけられた雅楽は叫び声を上げた。慌てて振り向くと、馴染みの女性がいた。巫女の姿をしていて、大きな瞳に筋通った鼻をした、まさしく美人という顔立ちの女性だった。
「蓮香か。びっくりしたー」
「雅楽の叫び声の方が驚いたわよ」
蓮香は手に持った箒で地面を掃いていた。彼女が腕を動かすたびに艶のある長い黒髪がリズミカルに揺れた。
「今日もお父さんについて?」
「うん。本当は今日帰ってくる予定だったんだけどさ、帰って来れなくなっちゃって。明日には戻れるらしいけど、忙しいから本当に帰れるかも分からないんだ」
「そうなのね」
蓮香は相槌だけ打つと、また地面を掃き始めた。蓮香は雅楽と同い年でありながら、落ち着いた雰囲気を纏っていた。ただそれと同時に安易に人を寄せ付けない冷たい雰囲気も纏っており、美人なのに近づけないオーラがあった。
「まあ、寂しくなったらここにいらっしゃい。いつもいるわけではないけど、暇な時にはちょっとくらいなら話し相手になってあげるから」
「ありがとう」
普段はクールな蓮香だが、雅楽はなんだかんだ彼女が優しいことを知っていた。表情からは読み取りにくいが、長い付き合いの雅楽は彼女の顔が照れ臭いことを言ってしまった恥ずかしさで僅かに赤くなっていることに気づいていた。
「今日は早く帰りなさい。もうすっかり暗くなってきてるわよ。あなたが一番嫌いな時間でしょ」
「そうだっ。幽霊が出たら怖いからね……。すぐ帰るよ。じゃあね!」
雅楽は小走りで家へ向かった。怖がりの名は伊達じゃなく、夜道を歩くと恐ろしい妄想をしてしまうので急いで帰った。
段々と陽が落ちてきて、夜道が暗くなって来る頃には、家の近くまで来ていた。家の近辺は人通りや街灯が少なく、夜の闇をはっきりと感じるため嫌いだった。
地上の明かりのせいで星が一つもない夜空に、猫の瞳のような満月だけが怪しく輝いている。
(なんかいつにも増して不気味だな……)
雅楽は心の中でそんなことを思っていた。夏だというのに、なぜか鳥肌が立つくらい寒い。
街灯のてっぺんに居座っているカラスが短く「カア」と鳴いた。雅楽はビクンッと体を硬直させた。陽が落ちると、自分の心の中の臆病さが夜の闇のようにどんどん広がっていく。
「あのー、すいません」
もう少しで家だというところで、前から歩いてきた女性に声をかけられた。
雅楽は驚いて再び体を硬直させた。自分の臆病さが嫌になる。ただ話しかけられただけでこんなに驚いてしまうとは。
話しかけてきた女性はマスクをつけているため顔は分からないが、切れ長な目をしていて、背は雅楽の身長を超えるくらい高く、すらりとしていた。
「はい、なんですか?」
「えっと、最近引っ越してきて道が分からなくて……。スーパーに行きたいんですけど、ミスターマーケットってどこにありますか」
「あ、それならこっちの道を行って国道沿いに出たら、道を挟んだ反対側に見えますよ。とりあえず国道沿いに出られたら分かると思います」
「ありがとうございます。お兄さん、優しいですね。……あの、変なこと言うようなんですけど、よかったら一緒にお茶しませんか……?」
「えっ」
雅楽は驚いて目を見開いた。まさかこんなに美しい女性が自分のことを誘って来るだなんて思っていなかったのだ。
ただ彼は彼女どころか、蓮香以外の女友達がまったくいないほど女性慣れしていなかった。そのため、どうしても緊張してしまい、目の前にいる女性とお茶する気になんてなれなかった。
「そ、そのすいません。もう家に帰らないといけないので」
「……それは私がブサイクだからですか?」
「い、いえ。その……お姉さんはとてもキレイだと思いますよっ。僕なんかじゃ勿体無いですっ」
「本当ですか? 私、キレイですか? コレデモ?」
目の前にいる女性の声が急にしゃがれた声になった。夏という季節ではありえないほど、冷たい風が吹いた。
女性がマスクを取ると、その下には耳まで裂けた口があった。顎の辺りまで血が滴り落ち、地面に落ちたマスクの裏側は血で赤く染まっていた。
「ケタケタケタ。コレデモ? コレデモ? ケタケタケタ」
「う、うわあああ!」
大きく裂けた口には尖った歯が何本も生えていた。首を直角に曲げ、左手には大きな鋏を持っている。
雅楽はあまりの恐怖で逃げることもできず、尻餅をついた。腰が抜けてしまい、力が入らない。
「ケタケタ。アナタもキレイにしてあげるからね。ケタケタ。キレイにチョキンチョキン」
雅楽の脳裏に、昔聞いた怪談話が蘇った。夜道にマスクをした女性に「私、キレイ?」と聞かれ「キレイ」と答えると、マスクを外し「これでも?」と答える口裂け女というお化けがいると。雅楽はその話が怖くて耳を塞いでいたのだが、面白がった友達が強引に聞かせてきたのだった。
「アナタも私と一緒のお口に。キレイなお口にチョキン、チョキン」
「うわあああ!」
口裂け女は左手に持った鋏をジョキン、ジョキンと大きな音を立てて鳴らした。雅楽はその様子を見て体をぶるぶると震わせた。
(口裂け女って本当にいたの? 嫌だ、死にたくない、死にたくない!)
雅楽は抵抗しようとしたが、体に力が入らない。全身の力が抜けてしまっている。
「チョキチョキ。チョキチョキ。ケタケタケタ」
雅楽は目を瞑った。とにかくこれ以上、この恐ろしい光景を見ることができなかった。目を瞑るとすぐに、口元に冷たい鉄が触れる感触があった。
(ああ、だめだ。もう死ぬ)
作者の紫 凡愚と申します!
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