大量のヒダル神と最強の闇祓いの実力
ブックマーク、コメント、評価、よろしくお願いします。
感想もくれたら、最高に喜んでしまいます。
突然、防空壕の壁にヒビが入り始めた。先ほどの戦闘で脆かった壁の一部分が壊れようとしていた。
ガタガタッ。
大きな音を立てて壁が崩れ落ちると、そこには大きな空洞があった。暗くてよく見えないが、懐中電灯を当てると、光が反射して何かが大量に煌めいた。
「めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち。めち」
空洞の中には数え切れないほどのヒダル神が詰まっていた。地面だけでなく、壁にまで彼らは這うようにして存在していた。
かつて人々を隠した防空壕は、ヒダル神の棲家となっていた。
「ぎゃああああ!」
その光景はあまりに恐ろしく、雅楽は悲鳴をあげた。これだけ何かが密集しているのは、仮にヒダル神でなくても気持ち悪い光景だった。
悲鳴を合図に、ヒダル神たちは一斉に襲いかかってきた。地面や壁を這いずり周り近づいてくる様子は、大量のゴキブリが蠢いているみたいだった。
「私が倒しますかー」
つららは相変わらず余裕そうな表情を崩していない。むしろ雅楽のために全員を駆逐する気満々だ。
「いや、やめろ」
氷を出そうとしたつららを治郎が止めた。彼はこの恐ろしい光景を目の当たりにしても、慌てることはなかった。
「この量を一掃しようとしたら、つららの力だと俺たちまで巻き込むだろ。今回はできるだけ雅楽たちに任せようとしていたが、計画変更だ。俺がやる」
治郎は腰に携えていた刀をすらりと抜いた。薄暗い防空壕の中でもそれは銀色に輝き、美しくもあった。
魔殺の銀刀。彼の刀はそう呼ばれていた。
「雅楽殿、よく見ておくのじゃ。これが日本、いや世界最強と言われている闇祓いの戦い方であり、お前の父親じゃ」
「う、うん……」
雅楽は心配そうに頷いた。別に父親のことを疑っている訳ではないが、雅楽にとって治郎は優しいお父さんであり愛すべき父親であって、最強の闇祓いではない。
普段馬鹿なことをしていて自分よりも子供っぽい治郎が、これだけの数のヒダル神を倒すことが想像できなかった。
「『時をかける龍笛の音色』」
雅楽の耳に、昔京都で聞いた雅楽の演奏が聞こえてきた。
ヒダル神は雅楽たち全員を狙い四方八方から攻撃してきた。長い爪を突き刺そうとするもの、不気味で大きな口を開け直接食べようとしてくるもの、その手段は様々だったが、共通しているのは凄まじい速さだったことだ。
しかし、治郎はそんな攻撃を一つ一つ確実に剣で弾いたり、ヒダル神を斬ったりと、雅楽たちを守りながら戦った。これだけの数がいるというのに、危うさは少しもない。
どこからか鳴り響く音色と共に、ヒダル神を斬り殺す治郎は、舞踊を披露しているかのようだ。
「治郎は契約したあやかしなどはおらず、己の力のみで世界最強の闇祓いという地位まで上り詰めた。その能力は時を操るという単純で、強力なものじゃ。」
千草が治郎の戦い方に解説を入れた。彼女は治郎が戦う姿を見たことがあるのか、よく彼のことを知っていた。
「治郎は過去に戻るということ以外だったら大抵なんでもできる。
この戦いでは己の視覚の時間を遅らせ、わずかな時間で多くの状況を分析する。周りの世界がスローモーションに見えるのじゃ。それでいて神経の伝達時間を早める。それにより、普通の人間では不可能な速さで動くことができる。これだけで大概のあやかしは倒すことができるのじゃ」
治郎は次々とヒダル神に刀をあてていく。彼の瞳はぐりぐりと動き、あらゆる場所を警戒している。そんな彼には死角がなかった。背後からやってくるヒダル神も気づいた時には、二等分になっている。
「とはいえ、この量は治郎でも大変じゃ。そういう時のために、治郎は奥の手を持っておる。その技をしかと見るんじゃ」
治郎は刀を思い切り地面に突き立てた。地震のような大きな揺れと笛の音が響いた。すると不思議なことが起こった。
空中にいたり、地を這っていたりした大量のヒダル神が静止していた。彼らは何が起こったのか分からないのかキョトンとした顔をしていた。
「『時を止める高麗笛』」
「これが治郎の奥の手じゃ。彼奴は敵の時間を止め、静止させることができるのじゃ。一日で五秒しか使えぬ最強の技じゃ。たった五秒じゃが、治郎の実力があれば……」
治郎の手に握られた刀が、鈍く光る銀色の軌跡を残しながらヒダル神を切り刻んでいく。目の前に刀が迫っているというのに、ヒダル神は一切動くことはできない。治郎は彼らの痛みが少ないよう、確実に、素早く、その首筋に刀を滑り込ませる。一匹、また一匹と減っていくヒダル神は治郎に首を差し出しているかのようにも見える。
「本当はもっと時間を停止できたんだがな。昔、限界を超えて一気に力を使ってしまったことがあって、その反動で今では一日五秒が限界だ」
こう話しながらも、彼が動きを止めることはない。最小限の動きに最小限の力でヒダル神を葬り去っていく。
五秒が経つと、全てのヒダル神の胴体と首が断ち切られていた。
治郎は一分も立たずして何十ものヒダル神を除霊しきった。
あたりに緊張がほぐれる空気が流れる。そんな中、蓮香は急に声を上げた。
「あれ、まだ空腹が……」
「カグヤ!」
大量の死体の中に身を隠していたヒダル神が、カグヤに襲いかかった。まだ一匹残っていたようだ。
その襲撃に気づいたのは雅楽だけだった。
「ぐっ!」
「主人!」
カグヤの間に入った雅楽の左腕にヒダル神は思い切り噛み付いた。腕に痺れるような痛みが走り、血が流れた。
歯は間違いなく骨まで達している。
「『吸血たけのこ』!」
雅楽はヒダル神に向けて、彼が唯一もつ攻撃の技を当てた。ヒダル神は禍々しい力にあてられると、全身からタケノコを生やし、一瞬で絶命した。この技はあまりにグロテスクなので、雅楽自身、使うのを嫌がっていたのだが、この際使うしかなかった。
「大丈夫!?」
蓮香は急いで雅楽へ近づくと、彼の腕を抱えた。自分の手にも血がつくというのに、それを気にする様子はない。
雅楽の腕からはどくどくと血が溢れ出ている。放置していたらものの数分で意識を失い、十分も経てば死んでしまうだろう。
「天女来て」
彼女は懐から巻物を出した。巻物はぼんっと音を立てた。そこから天女が現れた。彼女は死人のように青白い肌をしていて、顔は整っていた。整ってはいるが、感情がないようで、目に生気が宿っていない。美人すぎるが故に機械のような印象を与える。
「『天女の羽衣』」
天女は自分の袖にぶら下がっている薄い布をちぎるとそれを雅楽に巻きつけた。するとすぐに痛みが引き、血は出なくなった。流石に完治はしていないが、怪我はだいぶ良くなった。
蓮香はたくさんのあやかしを従えているため、臨機応変に普通の闇払いができないようなことができた。
「ありがとう」
「いいのよ。誰かを守ろうと自分を犠牲にできる人は少ないわ。あなたは誇っていい」
「主人……。ごめんなさい」
カグヤは俯いて、涙を流していた。自分のせいで雅楽が傷ついてしまったことを反省しているようだ。
「謝る必要はないよ。これくらいなんともない。ほら頭だって撫でられる」
雅楽は彼女の頭を撫でた。カグヤにはできるだけ笑顔でいてほしかった。彼女に感情の起伏が現れたのは最近のことだ。せっかく感情が生まれたならば、できるだけ明るくいてほしかったのだ。
作者の紫 凡愚と申します!
この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!




